以下は,「しんぶん赤旗」11月9日付に掲載されたものです。
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「再チャレンジ政策」の落とし穴
労働者総貧困化の道──非正規雇用を減らす方策なし──
安倍内閣の目玉とされた「再チャレンジ政策」ですが,そこには正規雇用の拡大やワーキングプアの解消にむけた具体的な方策はまったくふくまれません。その実態を見てみましょう。
貧困と格差への不満がきっかけ
第一に,なぜ安倍内閣は「再チャレンジ」を語らねばならなくなったのでしょう。競争をしろ,自分の責任で生き残れ,国や自治体に頼るな,というのが「構造改革」路線の基本の考え方であるはずです。そうであれば,国民に「再チャレンジ」を保障しようとする政策は,そもそも出てくるはずのないものです。
その背景となったのは深刻な格差の拡大です。最新の『経済財政白書』には,総世帯の平均所得が99年の649万円から04年の589万円へ,5年で60万円も低下したとの数字があります。最大の原因は「労働市場の効率化」という名での非正規雇用の拡大であり,それによる20代の若者を中心としたワーキングプア(はたらけど貧しき人々)の形成です。
こうした実態と政治への批判の強まりを前に,春の国会では小泉首相も「格差社会」を問題だと認めずにおれなくなりました。そして3月には,安倍晋三氏(当時官房長官)を中心として,「再チャレンジ推進会議」(「多用な機会のある社会」推進会議)がつくられます。このように「再チャレンジ政策」は,何より「構造改革」がもたらす貧困と格差への国民の不満をきっかけとしてつくられました。
目線はまったく財界・大企業に
第二に,しかし「再チャレンジ政策」は,政府が庶民の暮らしを守るどのような役割を果たすものにもなっていません。
実際,安倍氏は,その目的についてこう言っています。「確認しておきたいのですが,『再チャレンジ』というのは,セーフティネットではないということです」「『再チャレンジ』の狙いは,弱者を保護するということではなく,人材を眠らせない,人材を活用していく,ということです」(『安倍晋三の経済政策』115~6ページ)。あくまでもこれは労働力活用策の一環だというわけです。
それだけではありません。「企業のほうも,賃金が低く,人員の増減がしやすい非正規雇用を必要としている」「経済的に豊かになることが人生の目的ではないし,正規雇用されなければ不幸になるわけでもない」(『美しい国へ』225~6ページ)。その目線はまったく財界・大企業そのものです。庶民生活の大変さに心を寄せる姿勢はどこにもないといわねばなりません。
労働者の安使い政策の転換こそ
第三に,では安倍流「再チャレンジ政策」は,雇用の分野でいったい何をするものになっているでしょう。安倍氏が「再チャレンジ推進会議」に提出した「再チャレンジ可能な仕組みの構築(中間取りまとめ)」や,内閣府のパンフレット『誰でも再チャレンジできる社会の実現にむけて』は,この政策が目指す社会を「『勝ち組,負け組』を固定させない社会」と説明します。
しかし,それは「負け組」が減っていく社会,あるいは,まじめに働けば誰もが安心してくらせる社会のことではありません。非正規を正規に転換するとか,フリーターを減らすという言葉はあっても,非正規雇用全体の数や比率を減らすとか,正規雇用の総数を増やすという言葉はどこにも書いてありません。
つまりそれが目指すのは「勝ち組(正規),負け組(非正規)」がクルクル入れ代わることのできる社会ということです。誰かが正規,誰かが非正規と格差が「固定」されるから不満が起こる。そこで誰もが正規と非正規の両方を行き来するようになれば,互いの格差はなくなっていく。つまり労働者たちの総貧困化を,満遍なく,なだらかに実現しようということです。それは,はたらく者のあいだに自発的労働強化の新たな競争をつくるものともなるでしょう。
ひどい内容ですが,だからこそ大企業・財界はこれを推進しようとするのです。必要なのは政財界による労働者安使い政策そのものの転換です。大企業の横暴から国民・労働者の生存権をしっかりと守る,そういう意志をもった政治を,私たちでつくっていかねばなりません。
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