以下は、憲法が輝く兵庫県政をつくる会『ウィーラブ兵庫』(日本機関紙出版センター、2008年3月)に掲載されたものです。
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はじめに
みなさん、こんにちは。
私たちは「憲法が輝く兵庫県政をつくる会」(略称「憲法県政の会」)の代表者です。
私たちは、2009年7月に予定される兵庫県知事選挙にむけ、県民のくらしを最優先する新しい政治づくりのための具体的な準備をすすめています。目指す政治のキーワードは憲法です。
①9条をいかし、日本と世界に平和を広げる兵庫県
②24条をいかし、男女の平等をすすめる兵庫県
③25条をいかし、子どもからお年寄りまで、県民の健康で文化的な生活をささえる兵庫県
④26条をいかし、子どもたちの豊かな教育をすすめる兵庫県
⑤27条と28条をいかし、誰もが安心してはたらくことのできる兵庫県
憲法には、他にもたくさん「宝」があると思います。このように本気で憲法を設計図とする政治を、ぜひとも兵庫につくりたいと思っています。
私たちの「憲法県政の会」は、1978年9月につくられた「革新兵庫県政をつくる会」を、2006年7月に新しく発展させたものです。
会則は、会の目的を次のようにまとめています。
「第2条 この会は日本国憲法と地方自治法を暮らしにいかす兵庫県政をつくることを目的とし県下の政党・団体、個人と力を合わせ国政・市町政刷新の活動と連携して、必要な諸活動をおこないます」。
私たちは2006年11月に最初の記者会見を行い、県内にネットワークを拡げ、現在の兵庫県の政治を分析するなど、様々な取り組みを行ってきました。その上に立って、2008年は、たくさんの県民のみなさんと一緒に、兵庫県の政治を語り、話し合う年にしたいと思っています。
この本は、そのための材料を広く提供する私たちの最初の問いかけです。どこからでもお読みいただき、思いつかれた感想やご意見を、気軽にお届けいただけるとうれしいです。
この本をつくるにあたっては、執筆者のみなさんをはじめとして、たくさんの方のお世話になりました。心よりお礼を申し上げます。
2008年1月16日
憲法が輝く兵庫県政をつくる会・代表幹事
石川康宏(神戸女学院大学・教授)
内田敬止(兵庫県保険医協会・医師)
前田 修(自由法曹団・弁護士)
憲法を設計図に、兵庫県政の転換を
神戸女学院大学・石川康宏
今日は、みなさんといっしょに兵庫県が行う政治について考えてみたいと思います。2007年7月の参議院選挙には、自民党・公明党の政治を転換してほしい、という国民の声がはっきりと現われました。それは地方政治についても同じです。11月の大阪市長選では、自民党等が支えた現職の市長が大敗しました。国も地方も、政治は新しい転換のチャンスを迎えているのです。
私たちは、兵庫の県政を転換する基本的な方向は、「憲法が輝く兵庫県」づくりにあると思っています。しかし、ここでは、それを強く訴える前に、まず兵庫に暮らす私たちの生活と願い、兵庫県がいま行っている政治の点検をしっかり行い、みなさんといっしょに県政を考えていくための材料をお示ししたいと思います。
2009年7月には、次回の兵庫県知事選挙が行われます。私たちは、この選挙を、兵庫の政治が私たち県民の声が生かされる政治にかわる大きな転換の選挙にしたいと思っています。ぜひ、最後までお読みいただき、ご意見をお寄せください。
(1)大企業は集まってくる。でも兵庫県民は貧乏のまま
・兵庫県民は全国よりも貧乏である
まず兵庫県の暮らしと経済の様子を、簡単に見てみます。『データでみる県勢2007年版』(矢野恒太郎記念会)という本がありますが、これを見てみると、兵庫県民は、全国にくらべて特別に貧乏だということがわかります。
2005年の勤労者世帯の家計収支(328~329ページ)
実収入 全国39位
実支出 全国44位
可処分所得 全国34位
可処分所得というのは実収入から税金などを差し引いたもので、金額でいうと、全国平均が月額39万8856円、兵庫県は36万8743円で、私たちの方がちょうど3万円ほど低くなっています。全国には47の都道府県がありますが、兵庫県民は全国各地と比べてずいぶん貧乏であるわけです。
・企業利益の伸びが賃金の伸びの3倍以上
このことにかかわる『神戸新聞』の記事がありました。兵庫県の一人当たり県民所得は「01年度以降、全国水準を下回っており、依然、04年度の全国平均(297万8千円)には届いていない」(07年10月27日)というものです。
この記事にある「県民所得」というのは、先に見た「世帯の所得」とは別のものです。記事はこう書いています。「05年度の『県民経済計算』によると、景気拡大や好調な企業進出など受けて、民間企業所得が4・4%増えたのをはじめ、雇用者の賃金は1・2%増加」している。つまり県民所得には、家計の他に企業の利益などが入っているのです。
その中で、特に注目しておきたいのは、05年度の兵庫県内の企業利益の伸び(4・4%)が、企業ではたらく雇用者の賃金の伸び(1・2%)の3倍以上になっていることです。企業はもうかっているが、はたらく人の給料は、グッと押さえ込まれている。兵庫県民が特別に貧乏であることのひとつの理由は、ここにあるようです。
※くわしくは述べませんが、じつは兵庫県の経済運営は、震災以後ずっとうまくいってません。どうしてなのかをよく考える必要があると思います。さきほどの本から、全国との比較のいくつかの数字だけを紹介しておきます。
・県民所得(県内居住者が1年に新たに生み出した純生産物、275ページ)
1人あたり県民所得 全国30位
・県民所得総額の平均増加率 (274ページ)
全国平均 兵庫県
90~95年 1・5% 2・5%
95~00年 0・1% ▼0・7%
00~05年 ▼1・2% ▼3・2%
・実質経済成長率の推移(280ページ)
全国平均 兵庫県
95年 1・9% 5・0%
97年 ▼0・9% ▼3・2%
99年 0・4% ▼0・9%
01年 ▼1・4% ▼4・3%
03年 1・7% ▼1・3%
・企業は正社員を雇わない
雇用者の賃金が高くならないという問題には、その人たちの雇われ方が深くかかわっています。いわゆる非正規雇用の問題です。神戸新聞は「正社員は狭き門」と書いています。
「兵庫県内の企業は人手不足感が強まっているものの非正規社員志向が強く、正社員を望む求職側とのミスマッチで人材確保に苦戦する例が多いことが15日、県の調査で分かった」(07年10月16日)。企業は、人手不足を、賃金の安い非正規雇用でうめようとしているということです。
ですから、この記事は「景気が回復しても雇用の改善ピッチが遅い一因が浮き彫りになった」と、企業の利益とはたらく人たちの生活の落差の原因を指摘します。これで私たちの世帯所得が高くなるわけはありません。
※兵庫県は全国に比べて、特別に雇用状況の悪い県にもなっています。それは震災前からつづいています。この面でも、兵庫県の経済運営はまったくうまくいっていないのです。先の本から、数字だけを紹介しておきます。「有効求人倍率」というのは、仕事を探している人と企業の求人の数の比率です。1より大きいと求人が多く、1より小さいと求人が少ない(失業者が出る)ということを示します。どの数字を見ても、兵庫は全国平均以下になっています。
・2005年完全失業率(196ページ)
全国平均 兵庫県
国政調査 6・0% 6・7%
就業構造基本調査 5・4% 7・4%
労働力調査 4・4% 4・8%
・有効求人倍率(172ページ)
90 95 00 05年
全国 1・40 0・63 0・59 0・95
兵庫県 1・09 0・48 0・44 0・83
・個人消費が冷えて商店街や業者もたいへん
雇用や賃金がこういう具合ですから、兵庫県内の個人消費が元気であるはずはありません。今度は「商店街・市場、空き店舗あり7割、6割強に公的支援」(神戸新聞、07年6月9日)という記事です。
「一カ所の商店街・市場には平均51・4店舗があるが、このうち6・6店舗が閉鎖されていた」「空き店舗のある商店街・市場は全体の73・9%」「空き店舗が生じた理由では『業績不振』と『後継者不足』が大半」です。業績不振で生活の見通しが立たないから、後継者も不足するわけです。結局「同センターは『企業業績は回復しているが、個人消費は依然伸び悩み、中小の小売業者にとって厳しい環境が続いている』」としています。ここに大きな問題があるわけです。
「中小企業融資の不良債権化、兵庫は最多257億円」(神戸新聞、07年7月20日)という記事もありました。不良債権化というのは、貸したお金が返ってこないということですが、いくら融資をうけて看板を立派にしても、お客さんが来なければ経営が改善されるわけはありません。その実態が兵庫県は格別にひどいということです。
・全国から工場が集まってくる
そんな中で、兵庫はいま日本で一番、新しい工場が増える県になっています。こちらは『朝日新聞』の記事からです。見出しは「工場立地動向調査、兵庫県が21年ぶりに全国一」(朝日新聞、07年4月6日)です。
「兵庫県内では昨年(06年)、松下電器産業が尼崎市にプラズマテレビ用パネル工場の増設を決定。また、コニカミノルタが神戸市に液晶テレビ用のフィルム工場の増設を発表するなど、先端技術の製品や素材の工場を中心に進出が目立つ」。
どうして、こんなに工場が増えるのかについて、記事はつづけてこう書いています。「兵庫県への進出が増えたのは、高速道路や港湾、エネルギーなどインフラが整っていることが大きい。また、県が関連する許認可手続きの迅速化を進めて、企業側のニーズに応えていることも要因になっている」。
わかりやすい話です。つまり兵庫は、企業が利益を追求するうえで、全国にも例がないほど条件がいい。だから大企業がやって来やすくなっているということです。07年度の上半期を見ても、「県内の工場立地取得 全国2位」(神戸新聞、07年10月10日)となっています。
ここで、これまでの簡単なまとめをしておきましょう。
①兵庫県民は全国にくらべて月3万円も貧乏である。
②最近も、企業利益の伸びに、賃金の伸びが追いついていない。
③それによって個人消費が伸び悩み、商店街や中小業者も経営がたいへん。
④その一方で、もうけやすいからと大企業は集まっている。
(2)兵庫県での生活ーもう少しなんとかならないか
・若い世代の生きる希望が奪われている
さて、県民の生活のたいへんさを、もう少し具体的に掘り下げて見ておきたいと思います。県の政治を考えるとき、何より肝心なのは、県民のくらしの問題だろうと思うからです。この本にも収めた『兵庫民報』という新聞の「紙上ディスカッション」には、これを深めるたくさんの文章が載っています。
まず「青年たちの労働現場は違法状態」という記事です。若い人たちにアンケートをとったところ「回答者の5割が非正規雇用」でした。「大手パン工場を2年半前にリストラされた西宮市のKさんは、8回転職し、いまは派遣で梱包の仕事をしています」「メールで仕事の指示がきて、京都や奈良など2時間以上かけて通うことも。正社員が帰るまで帰れない雰囲気があり、帰るのは午後9時から11時。毎日働いても年収200万円以下で有給休暇もとれず、『いっそ自給自足の農業でもしたい』と話しています」。
若い人がこんな風に追い込まれ、自分の将来に夢や希望がもてなくなっている。これは、とても切ないことです。
・職場では100円のパンとお茶だけで
次は「急増するワーキングプア」の問題です。「神戸中央郵便局で働く『ゆうメイト』(400人)は、時給上限が920円。合理化攻撃で週4日の勤務に抑えられ、月8万円しか手にできません。32歳になるAさんは、そのうち7万円が家族の食費に消えるため、自分のために使えるお金はほとんどなく、毎日100円のパンとペットボトルのお茶という昼食で働きつづけています。労使交渉をしても、郵政公社は地域の賃金相場を理由に引き上げようとしません」「企業誘致による経済成長の視点しか持たないことが、尼崎の松下PDPへの補助金につながっています」。
いま日本の雇用者の3人に1人、20代の若者の2人に1人が非正規雇用となっています。その生活実態は、これほどまでにたいへんなものであるわけです。
それは、売上の少ない商店や中小業者についても同じです。生活保護を申請すれば店をたたまねばならなくなる。そういう思いから生活保護の申請もできず、生活保護水準以下のたいへんな暮らしをつづけている人たちはたくさんいます。兵庫県は、こうした問題に、どういう手だてを取っているでしょう。
・つくるほど損をしている米づくり
次に農家の暮らしのたいへんさです。「『やりたい人』『続けたい』すべてを支援する農政に」という記事からです。
「生産者米価が下がり続けている」「農家に今、米代の一部が仮り渡しされますが、1俵(60㌔㌘)当たり、JA丹波ひかみのコシヒカリで1万3千円。JA兵庫南のキヌヒカリで1万2千円。いずれも昨年より1000円安くなっています。農水省の06年度の調査によれば、米生産費は1俵当たり1万6824円。まったく採算割れになっています」。米づくりの農家は、つくるほどに損をしているということです。
米は日本人の主食です。しかも世界の人口は爆発的な増加の見通しです。日本だけでなく、世界的に見ても、食糧生産はますます大事な仕事になっています。その大事な仕事をする農家に、兵庫ではたくさんの貧困が広がっているわけです。
・学校に行けない子ども 修学旅行に行けない子ども
今度は学校現場の問題です。「経済的心配のない教育を」というタイトルです。「ある県立高校では、生徒の3割が授業料減免対象者となっています」「修学旅行経費が払えず、参加を断念したり『必ず払います』という念書をだして参加する生徒が出ています」。
家庭の貧しさが、子どもたちから学ぶ機会さえ奪い取りつつあるということです。貧困の連鎖などといわれる問題です。どうして21世紀の現代に生きる子どもたちが、こんなつらい思いをせねばならないのでしょう。
「国民健康保険証がとりあげられている家庭の生徒が旅行先で病気となり、病院に連れて行くのも親と連絡をとってからという事態までおこりました」「他の学校の調査では保険証を持っていない家庭がクラス平均3人に及んでいます」。
(3)兵庫県の政治は誰のために?
・「新行革プラン」を考える
このように県民の暮らしがたいへんである時、兵庫県は誰のためを思って、どういう政治を行っているでしょう。今度はそれを見ていきます。
・金の切れ目が命の切れ目になっている
最後は、医療の問題です。「だれもが医療を受けられる国民健康保険に」です。
「国民健康保険証を持たずに病院受診に訪れる人が増えています。当然支払額は高額になります。そのため入院や検査を拒否する人もいます」「病院の相談担当者は事情をきき、役所と交渉して保険証交付や一部負担金免除につなげますが、相談する余裕もなく亡くなる方もおられます。明らかに保険証がないことによる受診遅れです」。
保険料が払えない人たちから、政治が保険証をとりあげる。その結果、病気になっても病院に行くことができない人が増え、手遅れで、死んでしまう人が出る。本当に金の切れ目が命の切れ目となっています。県民からの健康保険証の取り上げは、2001年の1300世帯から2006年の9300世帯に増えています。
まじめに働きたいと願う人や、がんばって働いている人たちが、たとえ裕福ではなくても、家族と安心して暮らすことができる、そういう社会を願うことは、はたしてぜいたくなことなのでしょうか。
・兵庫県は「住民の福祉の増進」を図らねばならない
最初に、基準を少し確認しておきたいと思います。兵庫県をふくむ都道府県や、市区町村などの地方自治体は、そもそも何を目的にしてつくられているのかという問題です。
日本社会の最高のルールである憲法は、第92条でこういっています「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」。
そして、これにもとづいてつくられた地方自治法はこうなっています。
「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする」(第1条第2項)。
これは重要な条文です。
地方公共団体というのは、地方自治体と同じ意味ですが、それは「住民の福祉の増進を図ることを基本として」、その地域の政治を行うものでなければならない。
しかも、それは国のいいなりになってすすめるべきものではなく、あくまでも地域の実情にそって「自主的に」行われるべきものなのです。
兵庫県が行う政治も、こうした精神にそって行われるものでなければなりません。
・「行政サービス低下」につながりかねない「新行革プラン」
兵庫県の政治の姿勢を見るときに、とても便利な最近の文書があります。「新行革プラン」と呼ばれるものです。そこには、今後10年間にわたる兵庫県の政治の姿勢が示されています。
その内容について『日経新聞』は、「兵庫県、行政職3割減 08-18年度行革素案」(07年11月6日)という記事で、こう書きました。「兵庫県は5日、2008-18年度の11年間にわたる『行財政構造改革』素案を発表した」「教育委員会、警察、病院局などの事務職員(教員、警官などを除く)も3割削減する」「行政サービス低下を招きかねない内容だけに、大きな論議を呼びそうだ」。もともと『日経新聞』は全国で行政改革や「構造改革」を押し進めようという立場の新聞ですが、そういう新聞でさえ「行政サービス低下」の可能性については「大きな論議」が避けられないのではないかといっています。
もうひとつは『読売新聞』です。「兵庫県が新行革プラン、11年間で職員3割減など」(07年11月6日)という記事は、「2008年度からの11年間で、職員の3割減などで歳出を総額1兆2920億円減らす一方、徴税強化などで歳入増を図り、1兆6800億円の効果を見込む」と書きました。
・「行政サービス低下」は医療・教育・就労支援で
では、『日経新聞』でさえ心配した「行政サービスの低下」とは、一体どのようなサービスの低下になるでしょう。それを具体的に見ていきます。
発表された「新行革プラン」には、08年度からプランをそのとおり実施したとき、08年度から18年度にかけて、どれだけの支出の削減が期待されるかという「事務事業見直し効果額一覧表」がついています。その中から削減「効果」が大きいと位置づけられている事業を、金額の大きい順に10事業だけ抜き出してみることにします。
①老人医療費助成 193億9600万円
②乳幼児等医療費助成 78億9700万円
③重度障害者医療助成 78億0900万円
④私学経常費補助(高校) 48億2200万円
⑤私学経常費補助(幼稚園) 46億3100万円
⑥長寿祝金・100才高齢者祝福 41億7300万円
⑦キャリアアップ・プログラム 39億8800万円
⑧妊婦健康診査費補助 36億5800万円
⑨スクールアシスタント配置 33億2800万円
⑩新産業創出支援 29億9500万円
見てわかるように、①②③のトップ3は県民に対する医療助成の削減です。つづいて④⑤が教育分野の削減です。⑥が高齢者へのお祝い、⑦が就労支援、⑧は医療、⑨は教育と、全体は、医療・教育・就労支援に集中しています。企業と大学の提携による新製品・新技術の開発を支援する⑩以外は、どれをとっても県民への生活支援を圧縮するものになっています。どうしてこんなことになっているのでしょう。
・赤字はいうが大型公共事業は点検しない
「新行革プラン」を示した兵庫県は、予算削減の理由を財政赤字だからと説明します。実際、国が新しく重視しはじめた、将来の借金返済負担の重さでみると、「兵庫、最悪水準5兆円 将来負担示す財政状況」(神戸新聞、07年10月25日)となっています。
では、どうしてこんなに兵庫県は借金が多くなっているのでしょう。
07年度時点での県の過去の借金残高は、次のような構成になっています。
区分 残高 構成比
地方財政対策費 1兆0851億円 32・7%
震災関連債 8460億円 25・5%
その他の県債 1兆3870億円 41・8%
合計 3兆3181億円 100・0%
自治体では、原則として人件費の支払いや福祉などを借金でまかなうことができません。ですから、これらの借金はいずれも公共事業や大きな建物などのいわゆるハコモノ建設につかわれています。
地方財政対策費は、地方自治体にまわすお金を減らす国の「三位一体改革」への対策を含むものですが、それにしても「その他の県債」ともあわせて、「震災関連債」以外の借金は合計2兆4721億円にもなっています。つまり、兵庫県は震災があろうとなかろうと、そもそも公共事業の多い県なのです。それは震災が理由でできたものばかりではないのです。
しかも「新行革プラン」は、すでに計画されている大型公共事業の中身を点検せずに、10年たっても総額を全国なみのレベルに抑えるだけとしています(図1)。今後も高規格の自動車専用道路やダム、基幹林道など必要が疑問視されているものはつくり続け、県営住宅、県立高校の建て替えなどの予算は削っていくとなっています。
・震災関連の借金も大型開発ばかりに利用
8500億円の「震災関連債」の残高も、中身をみると、災害復旧関係が500億円で、「創造的復興」関係が8000億円となっています。本来、震災復興の内容は、被災者への直接的な支援とともに、壊れた住宅や学校、福祉・医療施設などの再建を柱とするべきものですが、実際に多くのお金がつぎこまれたのは「創造的復興」という名前の大型公共事業でした。
その中心は、関西空港第二滑走路、神戸空港、武庫川ダム、実際には釣り堀となっている淡路交流の翼港、高速道路などの建設、六甲山のグリーンベルト事業という名前での用地取得など、震災前から計画があった大型開発やその延長線上の事業ばかりです。
「震災関連」の借金でさえ、その中身は被災者支援のためにうまれた赤字ではなく、大型開発のための赤字なのです。こうした開発の必要性を点検し、無駄にメスを入れていくことこそ、いま兵庫県がするべき仕事ではないのでしょうか(図2)。
※必要性に疑問が残る大型公共事業が非常に多いことの背後には、県幹部の天下りという問題がかかわっていそうです。『神戸新聞』は「兵庫県庁、幹部天下りは354人 過去5年実態調査」(07年8月23日)という記事を書いています。「(県の外郭団体が)最大の受け皿になっているが、建設会社やコンサルはそれに次ぐ規模で、県発注の事業を受注している企業が多いことも明らかになった」「民間企業だけをみると、建設会社に天下りしたのは24人、コンサルには42人と、合計で8割を占めた。退職時の所属では、本庁や県民局で建設や土木などの公共事業を扱う県土整備部の職員が約50人いた」。
建設関係の仕事をしていた幹部が、建設会社等そのものに人脈と情報をもって再就職をするわけです。さすがに兵庫県も、それはまずいと思っていたようです。しかし、「指導」は徹底されていませんでした。次は「指導反しゼネコンに天下り 兵庫県庁元幹部」(07年8月23日)という『神戸新聞』の記事からです。
「ゼネコンへの再就職について県は、公共事業の透明性を図るため退職から2年間は自粛するよう口頭で指導していた」。しかし、それが徹底されなかったということです。その理由について「県人事課は『民間企業に再就職する場合は、県が関与してないので把握できなかった』」といっています。どこに再就職するかも点検しないで、どうやって天下りについての指導を徹底することができると思っていたのでしょう。じつに不思議な話です。
・大企業には天井知らずの補助金継続
なお「新行革プラン」は、大企業誘致のための補助金制度には、まったく手をつけないものとなっています。全国各地の道府県が誘致のための制度をもっていますが、金額には当然上限が決められています。限度額が年に10億円を超えているのは25県、さらに50億円を超えているのは5県だけ。その中で兵庫県は、唯一上限を決めない県となっています。企業の側からすれば、天井知らずの補助金天国の県なのです。
実際、尼崎の松下電器のプラズマ工場には、雇用のための補助金もふくめて合計175億円が支出されることになっています(P3~P5工場の設備投資総額5550億円に対する3%の補助金166億円5000万円と、雇用に対する補助金8億4540万円の合計で174億9540万円の見込み)。しかも、この工場の新たな雇用は、正規雇用6人(新規雇用者全体の2・48%)、非正規雇用が236人(97・52%)で、兵庫県民の雇用改善にはほとんど役にたちません。さらにその非正規雇用も1年で派遣から請負に転換して、松下ははたらく人への雇用責任をまったく負わないものとしています。
・県職員数はいまでも全国最少レベル
県の職員を3割減らすということも大問題です。
「公務員が多すぎる」という声がありますが、比べてみるとむしろ日本の公務員は数が少なくなっています。そのために、こまかいサービスが行き渡らなくなっているということがあるわけです。その日本の中でも兵庫県は、全国最低レベルの少なさです。次の数字を見てください。
人口1万人あたりの一般行政職員数
1位 鳥取県 54人
10位 和歌山県 36人
20位 香川県 31人
30位 栃木県 25人
40位 福岡県 17人
42位 兵庫県 15人(ワースト6)
さらにこれを福祉関係職員だけでみると、兵庫県の順位はもっと下がります。
1位 鳥取県 14人
10位 青森県 8人
20位 北海道 7人
30位 新潟県 6人
40位 愛知県 4人
46位 兵庫県 3人(ワースト2)
このような状態から、さらに公務員を3000人も削減すれば、「行政サービスの低下」は、マンパワーの面からも避けられません。
こうして見てくると「新行革プラン」は、①必要のない大型開発をすすめてきた責任を震災のためとごまかしながら、②それでも多くの大型開発を今後もつづけ、③大企業への天井知らずの補助金バラマキを継続し、④そのための予算を県民の生活を守る医療・教育・福祉の予算と県職員減らしでつくりだすというものです。
残念ながら、このような計画を提起する今の兵庫県政を、県民のために汗を流しているものと考えることはできません。
(4)政治を県民の手に取り戻そう
私たちは、こういう状況を、どうやって変えていくかを真剣に考えなくてはなりません。嘆くだけでは、私たちの暮らしは少しも良くなることはないからです。
・国民の声と力が政治を動かしはじめている
政治の動きには、まったく希望がないわけではありません。国の政治についていえば、こういう政治にはもう耐えられない、国民の手で政治を転換しようという声がどんどん強くなっています。
それをはっきり示したのが、07年7月の参議院選挙での自民党の歴史的な敗北でした。自民党を支える公明党も負けました。年金問題や大臣の不祥事などがありましたが、国民の判断の根本は、あまりにひどい生活と、性急な憲法「改正」の動きへの不安と不満だったといえるでしょう。
勝ったのは自民党との「対決姿勢」を強めた民主党でした。その後、11月には自民党と民主党の「大連立」の動きが起こります。しかし、結局、それは破綻しました。考えてみれば、自民党が民主党に「大連立」を呼びかけたのは、参議院で自民・公明が少数派になってしまったからでした。また、一度は「大連立」に乗りかけた民主党が、最終的にこれに同調できなかったのも、国民の批判を無視することができなかったからです。日本でもいよいよ国民の声と力が、政治を動かしはじめているのです。
・地方政治にも新しい変化が
さらに、11月18日に行われた大阪市長選は、「大阪市長選惨敗、与党焦る 『自民の組織崩れかけ』」(朝日新聞、11月20日)という結果になりました。「福田政権下で初の主要地方選となった大阪市長選は、民主党が擁立した新顔が自民、公明両党が推す現職に5万票差をつけて圧勝した。与党と民主党が向き合う国政と同じ構図だけに、勝った民主党は勢いに乗る。一方の与党は、7月の参院選惨敗に続く政令指定市長選での完敗で、地方組織の立て直しを早急に迫られている」。
「公明党は大阪市を小選挙区に含む大阪3区、5区、6区で3人の衆院議員がいるが、今回の市長選ではいずれの選挙区でも新顔に競り負けた」「同党の選対幹部は『危機的だ。参院選で惨敗した流れが変わっていない。自民党は組織が崩れかけている』」と述べています。変化は地方政治にも、しっかりおよんでいるわけです。
・兵庫の民主党も「独自候補」の擁立へ?
同じことは、まちがいなく兵庫の政治にも起こっています。07年4月に行われたいっせい地方選挙の結果について、『神戸新聞』は「自民が歴史的大敗 兵庫県議選」(07年4月9日)と書きました。
「最大会派の自民が、公認・推薦で38議席(無投票当選を含む)にとどまった。前回、前々回の43議席を下回る歴史的大敗となった」。
そして「民主系が20議席に伸ばす一方、共産は3減、1議席を維持していた社民、新社会がともに議席をなく」したとなっています。夏の参議院選挙の結果を、先取りするような結果といえます。
そして、このように県民の自民党批判が強くなると、民主党もいつまでも自民党との相乗りをつづけるわけにはいきません。
実際、兵庫県の民主党は神戸の市長選でも、兵庫の県知事選でも「独自候補」擁立への動きを示しはじめています。
『神戸新聞』は「知事選、神戸市長選で独自候補目指す民主県連」(07年11月18日)として、次のように書いています。
「民主党兵庫県連(辻泰弘代表)は17日の県連大会で、兵庫県知事選挙と神戸市長選挙について、基本的に自民・公明両党との相乗りはせず、独自候補擁立を目指す方針を2008年度の活動方針として決定した」「新方針では、県知事選、神戸市長選への対応として、『基本的には自民・公明両党との相乗りは行わず、党独自の候補者の擁立を目指す』と、これまでの相乗りから大きく転換した。ただし、『(推薦は)県連との政策合意の進ちょく状況など活動の検証を行い、その評価で判断する』と前提条件を設けている」。
とはいえ「09年にも予定される知事選、神戸市長選について、県連幹部は『政策などで評価できないと判断したり、新人同士の選挙になったりした場合の方針』と、現職の井戸敏三知事、矢田立郎市長の推薦には含みを残した」。
このように曖昧さは残されているわけですが、私たちの自民党への批判、自民・民主の相乗り県政に対する批判が強くなれば、民主党はそれへの配慮を深めないわけにはいきません。
(5)どういう新しい政治をつくるのか
・憲法が輝く兵庫県政を
では、これまでの県政にかわり、新しくつくられる兵庫の政治はどういうものが良いでしょう。私たちは、その基本が「憲法が輝く兵庫県政@@」ではないかと考えています。
①9条をいかし平和を広げる兵庫県
②24条をいかし男女の平等をすすめる兵庫県
③25条をいかし健康で文化的な生活を拡げ る兵庫県
④26条をいかし子どもたちの教育をまもる兵庫県
⑤27・28条をいかし誰もが安心してはたらくことのできる兵庫県
この他にも、憲法には、県民の安心と安全、平和なくらしを育てる貴重な指針がたくさん含まれています。これを根本にすえる政治が必要ではないかと思うのです。
・アメリカとの戦争協力をすすめる兵庫の政治
たとえば9条の問題ですが、兵庫でも米軍の戦争への協力をすすめる動きが起こっています。再び『兵庫民報』の紙上ディスカッションから紹介しておきましょう。
「07年2月、陸上自衛隊中部方面隊の総監部のある伊丹市で、戦争指揮訓練のための日米共同指揮所演習が約2週間にわたっておこなわれました。約1400人が参加した米軍は、隣接する大阪空港(伊丹空港)に数10回も米軍機を離着陸させました。伊丹市、川西市、宝塚市、豊中市など周辺自治体は、空港の軍事利用に反対して抗議を繰り返しました。しかし、県議会で『軍用機の離着陸禁止の要望決議』(68年3月30日)を採択している兵庫県はこれを黙認したばかりか、国民保護計画担当の県職員などを演習見学に参加させるまでしたのです」。
「但馬地域を舞台におこなわれている米軍機低空飛行訓練は10年以上も続いています。貝原知事時代には、飛行中止を求める県議会意見書、二度の知事名での要望書が提出されましたが、井戸知事になってからは一度も出されていません」。
「井戸知事になって3回連続して米軍艦が姫路港に寄港しました。港湾管理者の兵庫県は、米軍の『無回答』、外務省の『事前協議なし』の対応に対して、それで『非核が証明された』と強弁して寄港を容認したのです」。
「米軍が軍事的な集中をはかる日本海をもつ兵庫県が、戦争の流れを容認しない態度を国の内外に示すことは、兵庫県民の安全、平和な東アジアを実現していく上で不可欠のことです」。
9条をいかし平和を広げる兵庫県をつくることは、兵庫県政転換の重要な指針となるものです。それは平和を願う日本と世界の人々に、大きな励ましを届けるものにもなるでしょう。
・住民が主人公の地域づくり
新しい県政のイメージを具体化するヒントとして、県内のすぐれた実績を見ておきます。『住民が主人公の地域づくり 兵庫4町長が語る』(兵庫県自治体問題研究所、2007年)という本があります。4町長というのは、元南光町長の山田兼三さん、07年11月27日に4選をなし遂げたばかりの福崎町長の嶋田正義さん、元黒田庄町長の東野敏弘さん、元出石町長の奥村忠俊さんです。
この本の中で、岡田知弘・京都大学教授(自治体問題研究所理事長)は、これらの自治体に共通する特徴を、次のようにまとめています。
①「情報公開と住民との対話は住民自治の基本」--つまり、住民のみなさんの税金はこのようにつかっています、役所はこういう仕事をしています、政治に対するみなさんの要望を聞かせてくださいという政治になっているということです。
②その住民の声にそって「住民のニーズにあわせたユニークな施策」が展開されている--これはどこか他の地域の物まねでない、何より、そこに住んでいる住民の要望にしたがった政治が行われているということです。
③「町議会との関係 「和して同ぜず」--これはなれあわずに徹底的に話し合うということです。情報が公開されており、住民のニーズにそった提案がされていれば、話し合いによって、大きな合意はおのずとできあがってくるというのです。
④「無私無欲で正義を通す政治姿勢と職員との関係」--首長の姿勢は大切ですが、住民福祉の増進をはかるの現場に立つのは職員です。そこで職員削減を行う行政改革の方向には反対し、むしろその能力を高めるための研修をしっかり行うべきだと、この点では、特に嶋田町長の姿勢が紹介されています。
⑤そして最後に「町長の個人的資質と人柄」です。
・南光町の取り組みから
これらの町政が実際に行ってきた政治の実例として、南光町の取り組みを少し紹介してみます。
①まず、深刻な「同和利権」にしばられ、町の中で自由にものをいうこともできなかった状態を体を張って改善しました。
②住民の要望が強かった、上水道や下水道、農業用の排水施設などを整備しました。3つの小学校、2つの中学校には、地域住民の利用も考えて、大きなホールや体育館をつくっています。文化センター、総合スポーツ公園、福祉センターを建設し、農地の基盤整備もすすめました。そしてこれらの事業の実施にあたり、地元や近隣の業者が適正な利益で実施できるように入札方法の工夫もしています。
③農業振興ではひまわり栽培が有名です。「ひまわり祭り」に前後して、たくさんの観光客が訪れるようになり、農産物の販売も広がりました。ひまわり油の他、ドレッシング、ボディソープなど各種のひまわり製品もつくられています。
④80才になっても自分の歯を20本残す、8020運動を全国で最初に開始したのはこの町です。歯科保健センターは、寝たきりの人や重い障害のある人の往診も行います。
⑤高齢者の外出を支援するために路線バスやタクシーの利用助成、ワゴン車による送迎の「ひまわりサービス」を行っています。65才以上の町民や障害者のある人は、誰でもこれらの制度を利用することができます。
⑥住民が主役となる公民館活動の中から、農村舞台をつかう子ども歌舞伎が復活します。「南光町史」を、住民自身が編集・執筆していきます。いずれも町民の文化・教養を深める取り組みです。
他にもたくさんありますが、行政のリーダーシップはあるにしても、何をどうするかを決める主役は、いつでも住民自身になっています。
大変すぐれた政治だと思います。
・全国にひろがった革新自治体
とはいえ、南光町は小さな町ですから、大きな兵庫県の政治にはあてはまらないという見方もあるでしょう。そこであらためて思い出したいのは、かつての革新自治体の取り組みです。
1960年代から70年代にかけて、社会党や共産党、たくさんの労働組合や市民団体や個人が手をつないで、知事選挙の政策をつくり、それを実行してくれる候補者を選び、その候補者を選挙活動をつうじて当選させるという取り組みがありました。そうやってできあがった自治体が革新自治体です。東京都、大阪府、京都府など、1975年には日本の全人口の43%が、この革新自治体のもとに暮らすまでになりました。そして、そこで南光町と同じように、住民の福祉を、住民が主人公になってすすめる政治が行われました。
当時「公害」とよばれた大企業の環境破壊にストップをかけ、子どもやお年寄りを大切にする福祉や教育重視の政治が行われました。
それは国の政治にも大きな影響をおよぼします。1973年には自民党政府自身が、国の政治の上での「福祉元年」をいい出しました。福祉といえば、これまでは社会党や共産党ばかりだったが、これからは自民党がちゃんとやります、だから選挙で革新自治体ばかり増やさないでくださいというわけです。実際に自民党政府は、70才以上の高齢者医療の「無料化」を全国で実施しました。
しかし、その後これは、社会党が革新自治体づくりをやめてしまうことで下火になってしまいます。80年の社会党と公明党の合意で、社会党はもう共産党とは手を結ばないということを決めたのです。そうして革新自治体は減っていき、自民党と社会党の相乗り自治体が増えていきます。それは今日の兵庫県にも見られる、共産党以外のすべての政党による相乗り政治の先駆けとなるものでした。共産党は80年以後、市民団体や無党派の個人との共同で、革新の政治の大きな流れを復活させる取り組みをすすめています。
(6)「憲法を暮らしの中に生かそう」
・自治体の設計図は憲法だ
かつて全国の革新自治体を、大きくリードしたのは京都の民主府政とよばれる政治でした。京都では蜷川虎三という人が、1950年から78年まで、長く府知事をつとめました。
この蜷川府政の実績については、たくさんの研究が行われています。
しかし、ここではこまかい政策ではなく、それらの政策を導いた蜷川知事の政治に対する基本の考え方を紹介したいと思います。
1つ目は『蜷川虎三回想録・洛陽に吼ゆ』(朝日新聞社、1979年)という本からです。
○「地方自治法をよく読んでみた」「地方自治法は憲法に基づいているってことがわかった」「今度は憲法を読み、教育基本法も読んでみた」「じゃあ、地方自治の本旨とは何か。それは結局、住民の暮らしを守ることだ。そんな結論に達しましてね、28年間、ずうっと、それをスローガンにしてきたわけです」。
○「中央とのパイプをつなぐってよくいいますけど、そんなやつは地方自治法を読んでないんですよ」「設計図は、やっぱり憲法であり、法律、条例、規則なんです。仮に中央とパイプを直結してもですよ、それで泥水を送られたのではねえ」。
○「開発とは、住民の暮らしを維持し、これを発展させる条件をつくること、ってぇのが、あたしの定義なんです。ところが、今の開発はですね、利潤を高めるような資本の開発である。だから、そういうものには賛成できない」。
○「学校間の格差をなくすのは、やっぱり『小学区制』でなきゃいかん」「京都の教育は、憲法と教育基本法に基づいている。偏向とは何を基準にいうのか」「高校は予備校ではない。全人教育の場だ」。
「15の春は泣かせない」という蜷川さんの有名な言葉は、こうした精神の中からうまれたものでした。
○「住民は、わざわざ自分たちの暮らしのために自治体をつくり、税金出してんですから、それとぜんぜん関係ない資本家のために熱をあげるこたぁないだろう」。
いまの兵庫県の政治と比べてみると、顔の向いている方向がまるで違うということがよくわかります。
・自治体は住民が自分たちでつくるもの
2つ目は、刊行委員会編『虎三の言いたい放題』(1981年)という本からです。
○「住民のしあわせのために、住民の暮らしを守る政治を住民自身がやらなければならない」。
○「成長率をとやかくいっても国民は食えない」。
○「地方自治体は、憲法がその根本を規定し、また地方自治法がその組織および運営を定めている通り、地域住民が、自分たちの暮らしを守るために、自分たちで組織している団体である。だから……いわゆる地方公共団体は、地域住民の暮らしを守る組織として地域住民のものである。決して政府や政党のものではない。ここに地方自治のいわれがある」。
念のためにつけ加えておきますが、この民主府政のもとで京都の県民所得は全国5位まであがります。住民が豊かになれば、経済はちゃんと発展するわけです。
こうした政治は28年もつづきましたが、それにもかかわらず、蜷川さんはこうもいっていました。
○「油断してはならぬ。わかっていると思うものが存外わかっていないのである。われわれは〝学習〟に力を入れ団結と統一の実践により、庶民の暮らしを守らねばならない」。
仲間が多いからといって一人ひとりが油断してはいけない。府民(県民)一人ひとりがしっかり勉強し、お互いに力をあわせなくてはならないというわけです。
・「憲法を暮らしの中に生かそう」
3つ目は『樽みこし 蜷川虎三対談集』(駸々堂、1972年)です。
○「憲法が、日本の民主化の理想は地方自治にある、という考えをもっているのはそこだと思います。基本的人権だなんていったって、自治体が自分たちでしっかりやっていかない限り、どうにもならない」。
○「それで私どもは、憲法が公布された昭和21年11月3日と、施行された昭和22年5月3日を記念して、毎年11月3日と5月3日を中心にして、『憲法を暮らしの中に生かそう』という運動をしているのです」「戦争放棄、主権在民、民主主義といったことを徹底していこうとやっているんです」。
○「われわれも『憲法を暮らしの中に生かそう』というたれ幕までさげていますが、なかなか徹底しませんね……。日常生活で、子供さんのことを思えば憲法と繋がるというところまで考えていかなきゃならないと思います」。
○「(私は)『住民の中で、住民とともに、住民の暮らしを守る』知事だというんです。ですから、私は公僕とは言わないんです。住民の下にいるんじゃないんです。一緒にいるんです」「自治体というのものはそういうものなんです」。
さらに、蜷川さんは、見える建設、見えない建設ということをよく言いました。見える建設というのは、建物や道路をつくるなどのことです。これに対して見えない建設というのは、住民の知恵や文化を豊かにしていくということです。
ですから、このようにいうわけです。「文化的なものですね。文化的な建設、意識の向上とか……」「人間の精神文明を高めていく」「私は下手な橋をかけるよりも、寄席でも作った方がいいと思います」。
・地方自治体が育つか育たないかは住民の意識の問題
最後ですが、同じ『樽みこし 蜷川虎三対談集』にある言葉です。
○「今情報時代だといいながら、嘘の情報が多すぎるんです。ですからほんとのことを知らせ、そして住民の意識を高める。これから地方自治が育つか育たないかというのは住民の意識だけだと思うんです」。
これは、私たちの取り組みにとって格別に重要な言葉だと思います。「住民の意識」が高ければ、住民が主人公の政治は崩れない。しかし、そのことに油断は禁物だから、住民自身がしっかり学ばなければならない。そのことを蜷川さんは繰り返し語っていました。
じつは京都では、70年代の前半に早くも社会党が民主府政から離れていきます。
それにもかかわらず民主府政は継続されました。そこには京都府民の高い良識が表れていたといっていいでしょう。
そして、78年に蜷川さんが引退した時、蜷川府政を次の民主府政に引き継ぐことができなかったことを考える時にも、この住民の成熟という角度からの総括は避けることができないでしょう。
・憲法が輝く兵庫県政をつくる会
「憲法が輝く兵庫県政をつくる会」は、2009年7月に行われるだろう知事選挙にむけ、県政転換の具体的な準備をはじめています。これは1978年9月につくられた「革新兵庫県政をつくる会」を、2006年7月に新たに発展させた団体です。
新しくなった会則は、会の目的を次のように決めています。
「第2条 この会は日本国憲法と地方自治法を暮らしにいかす兵庫県政をつくることを目的とし県下の政党・団体、個人と力を合わせ国政・市町政刷新の活動と連携して、必要な諸活動をおこないます」。
06年7月以後、私たちは兵庫県の政治についての研究を深め、08年2月の総会に向けて書籍『We Love Hyogo 憲法が輝く兵庫をつくろう』の出版準備をすすめながら、兵庫県各地に「地域の会」をつくり、候補者擁立の準備、ホームページ作成の準備、兵庫県に対する政策転換に向けた要望書の作成と懇談などを行ってきました。
『We Love Hyogo』というこの本は、たくさんの人たちに兵庫県の政治を考えてもらう材料提示のつもりで出版するものです。各地の「地域の会」をはじめ、身のまわりのみなさん、気の合った友達どうしで読んでいただき、県の政治を大いに議論していただければ幸いです。
まだまだ不十分な私たちの取り組みですが、みなさんと力をあわせて、大きな取り組みに育てていきたいと思います。ご協力をよろしくお願いします。
〔追記〕 「新行革プラン」などをめぐるその後の動き
右の文章は、2007年12月半ばに書いたものです。その後「新行革プラン」などをめぐり、いくつか新しい動きがありましたので、追加しておきたいと思います。
1つ目は『神戸新聞@』が行った「新行革プラン」に関する「全市町アンケート」の結果です。詳しいことは「県行革案、住民へしわ寄せ懸念、全市町アンケート〈上〉」(12月19日)、「県行革案、地域の事情賛否に反映 全市町アンケート〈下〉」(12月20日)にありますが、ここでは、その結果を短くまとめた「財政危機発表7割が『唐突』県新行革案で41市町」(神戸新聞、12月19日)を紹介しておきます。
「危機的な財政状況に陥った兵庫県が公表した新行革プラン案『行財政構造改革推進方策案』に対し、県内41市町の半数が否定的にとらえていることが18日、神戸新聞社が実施した全市町アンケートで判明した。行革の前提となっている現在の財政危機について、約70%の市町が『唐突だった』と受け止めており、県の説明不足が市町の反発を招いている構図が浮かび上がった。また、大半の市町が、推進方策案で示された福祉関連事業の見直しに反発を示した」。
「推進方策案で見直し対象とされた事務事業は38項目。『特に影響が大きいもの』(複数回答)を尋ねたところ、大半の市町が老人医療費助成と乳幼児医療費助成を挙げ、福祉へのしわ寄せに対し『高齢者や乳幼児、障害者などへの配慮は政策の基本。後退は受け入れられない』(三木市)などと反発が強かった」。
「県の負担割合見直しで、財政事情の厳しい市町では住民サービスの低下も予想される。洲本市、養父市、上郡町が『(負担増の)吸収は不可能。住民サービス水準切り下げに転嫁せざるを得ない』と回答。また、25の市町が、それぞれが進める行革について『見直しが必要』と答えた」。
ようするに「新行革プラン」は、その強い影響をうける県内の市町にとっても「寝耳に水」の発表だったということで、それが実行されれば、ほぼすべての市町が「住民サービス水準切り下げ」をするしかないということです。県内の市町にも、困惑と不満の思いが、広がっているわけです。
2つ目は、それにもかかわらず、さらなる予算削減を兵庫県が考えているという問題です。「県『さらに1千億円削減必要』 県会委で行革案討議」(神戸新聞、12月21日)です。
「県会は20日、県が策定を進める新行革プラン案を審議する行財政構造改革調査特別委員会を開き、一般的な施策に当たる事務事業の見直しについて討議した。同案は、見直し対象に挙げた38事業の廃止・縮小で、2018年度までに836億円の効果額を見込んでいるが、県は3千に及ぶ事務事業の総点検を進めており、『さらに1千億円程度の削減が必要になる。08年度以降の予算編成を通じて精査する』とした」。
兵庫県は、1000億円もの予算削減の追加を、いったいどういう分野で行おうというのでしょう。これもまた県民生活にかかわる分野であれば、たまったものではありません。
3つ目は、反対に、県内の反発があまりに強かったので、驚いた県当局が福祉医療関係予算の削減を、1年延期すると言い出したものです。「県、福祉医療削減を1年凍結 市町への影響配慮」(神戸新聞、12月26日)です。
「兵庫県の新行革プラン案を審議する県会行財政構造改革調査特別委員会(立石幸雄委員長)は25日、老人医療費助成など福祉分野の4事業見直しを2008年度は見送り、1年間凍結するよう県当局に提案した。県は受け入れる方向で調整しており、26日の同委員会で正式に表明する。4事業は市町と共同で実施しており、市町財政や県民への影響が大きいことを考慮した」。「凍結対象は、老人▽乳幼児▽重度障害者▽母子家庭|の医療費助成制度。福祉医療と呼ばれ、対象者の医療費を県と市町が共同で助成している」。
しかし、この「延期」は「中止」ではありません。必要なことは、無駄づかいをやめ、県民の福祉や医療を守るという立場に根本的に政治を変えていくことです。
4つ目は、公共事業予算の削減についても「緩和」するというものです。「県単独の建設事業費削減 初年度30%未満に緩和へ」(神戸新聞、12月27日)です。
「県が策定を進める新行革プラン案で、県は26日、県単独の建設事業費を改革初年度の2008年度に前年度比で31・1%削減するとしていた同案の方針を見直し、30%未満に緩和する方針を県会行財政構造改革調査特別委員会で明らかにした。一方で、15年度までに、07年度比で576億円削減するとした目標年度を前倒しし、歳出削減の全体額を維持することも検討する」。
この変更は主に自民党からの強い要望によるようです。
5つ目は、そうして予算削減の議論をすすめる一方で、驚いたことに、企業誘致への大盤振る舞いは、さらに3年も継続するというものです。「企業誘致優遇を3年延長 兵庫県の産業集積条例」(神戸新聞、1月8日)です。
「兵庫県は企業立地を促すために、進出企業への補助金や税負担の軽減を盛り込んだ『産業集積条例』の適用期間を2010年度まで3カ年延長する。また、都市部以外の地域への企業立地が進んでいないことから、但馬や丹波、淡路に進出する事業所には補助金の支給条件を緩和するなど、地域間格差の解消に向けた取り組みを始める」。
「県は02年度に同条例を制定し、企業誘致を本格化させた。『指定拠点地区』を設け、地区内に進出する企業が一定規模の地元雇用をするなど、条件を満たしていれば補助金を出すなどしている」。「05年度に条例の適用期間を3カ年延ばしたが、07年度末で切れるため、今回、二度目の延長を決めた。2月開会の定例県会に提案する」。
松下プラズマ工場の事例で見たように、県の莫大な補助金にもかかわらず、実際の県民への雇用効果はじつに低いものとなっています。「何よりも県民のくらしを守るために県政はある」。そういう兵庫県をつくることの大切さが、ますます切実に感じられてくる動きです。(2008年1月16日)
〔補足〕 財界による道州制推進の動きについて
07年に入って、日本経団連など財界が道州制推進の動きを強めています。3月には道州制推進の提言が出されました。県をなくして、全国を10程度の「道・州」にするというものです。その目的は、地方自治体を大企業奉仕の機関にかえ、財界が求める大型プロジェクトを容易にし、さらに行政を広域化して、地域に密着した福祉や生活を支える財政を縮小するということです。兵庫の政治のあり方にも、今後深くかかわってくる問題ですので、ここで参考までに財界自身の声を紹介しておきます。
材料は、日本経団連の御手洗会長が行った講演「日本の直面する課題と今後の経済政策に期待すること」(07年11月8日)です。
講演の「3、日本経済の3つの課題」の中で、御手洗会長はその3つ目の課題として「地域経済の活性化」をあげ、「わが国において、中央と地方の間、あるいは、それぞれの地方の間に、経済的な格差が存在することは否定できません。これを解消し、地域の自立を図っていく」と述べています。
この内容を、もう少しつっこんで語っているのが「13、地域経営の確立と産業立地の促進」です。「いかにして地域経済を元気にしていくかと言えば、いちばん大切なことは、地域の自立を促し、地域に相応しい産業を興して、雇用や所得を作り出していくことであります」「このような観点から、私は、これからの時代において、豊かな地域を作るための、地域経営という観点が極めて重要だと考えております」。
要するに、国から「自立」した「地域経営」を行う自治体づくりをしなさいということです。しかし、もしそうなってしまえば、それはもはや「住民の福祉の増進を図る」住民自治の組織ではありません。それは、たんなる金儲けの機関になってしまいます。
御手洗会長は「こうした地域経営の観点に立って、着実な発展を遂げている地域も少なくありません」と述べて、次のような事例を紹介します。
「大分県では、道路などのインフラの整備や、企業の投資に対するインセンティブの強化など、産業誘致政策を強力に展開しております。こうした中で、キヤノンも複数の工場を、県内に立ち上げました。また、大分県を含む九州北部地域では、自動車産業の集積も急速に進みつつあります」「その結果、大分県の一人当たりの県民所得は、現在九州地域でトップになっております」。
キヤノンは御手洗会長自身が経営している大企業です。さらに御手洗氏会長はこうも言います。
「地域経済の成長を実現していくためには……最も効果が大きいのは、企業の生産拠点や研究開発拠点などの立地を促すことであります。企業立地が進めば、地域の雇用や所得が創出され、自治体の税収の増加にもつながって、地域経済も発展することとなります」。
本当にそうでしょうか。すでに兵庫県の事例で見たように、もしも進出する企業の雇用の多くが非正規雇用であるなら、また誘致の補助金を大企業が受けとり、さらに法人税についても減税を求めるのなら、地域住民の生活にプラスは何も生まれません。これは住民のための自治体を、大企業に奉仕する組織に変えてしまうということです。
その上で、御手洗会長は、都道府県という制度の見直しを主張します。「14、道州制の導入」です。「地域経営といった場合に、どの程度のスケールで行うことが最適かを考えることが重要であります」「企業経営においても、規模が小さいと効率が悪く、研究開発などに十分なお金をかけることが出来ません。そうしたことから、近年、非常に幅広い業界において、企業グループを越えた再編が進み、国際競争力の向上が図られていることは、皆さん、ご承知の通りであります」「例えば、産業振興のためのインフラ整備にしましても、各県に一つずつ空港を作る必要はなく、むしろ、地域ブロックで国際空港を作って、それを高速道路で結んだ方がはるかに効率的であります」「地域経営を、一定のスケールメリットを持って行うためには、現行の都道府県体制の抜本的見直しが不可避であります。そこで、経団連のビジョンでは、10年後を目途に、道州制を導入することを提案しております」。
大企業に対する地域経営の貢献度を高めるためには、地域のスケールは大きい方がいい。大型公共事業もやりやすい。そのために道州制を推進しようということです。これらの議論の中に、国民の生活、住民の生活という問題がどこにも登場しないことは象徴的です。
関西では、関西財界による「関西州」の検討が、すでにはじまっています。それを紹介したのが「関西州提言、兵庫は格下扱い 関西経済同友会」(神戸新聞、07年5月2日)という記事です。
「関西経済同友会は1日、近畿二府四県を一つの行政単位とする『関西州』の実現などを盛り込んだ提言『10年後のビジョン 再び、誇りの持てる国へ』をまとめた」。「東京都ならぬ『大阪都』を経済の中心地とし、京都を政治の中心に位置づける内容。事実上の格下扱いとなった兵庫からは早速、反発する声が上がった」。「神戸商工会議所の幹部は『関西は一つといいながら、結局は大阪中心主義』とぶ然。道州制に慎重な立場の井戸敏三兵庫県知事はこの日の会見で『提案の一つとして受けとめるが、絵に描いたもちのような議論に思える』と述べた」。こういう府県知事同士の利害の衝突も、道州制の推進にともない様々に表面化してくるものとなるのでしょう。
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