以下は、神戸女学院大学図書館ニューズレター「Veritas」41号(2009年7月22日)に掲載されたものです。
特集「夏休みに読んでほしい、読みたいこの一冊」の中の一文です。
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★『理論劇画・マルクス資本論』門井文雄原作/紙屋高雪構成・解説/石川康宏協力 かもがわ出版 2009
マンガです。
門井文雄原作/紙屋高雪構成・解説/石川康宏協力『理論劇画・マルクス資本論』(かもがわ出版、2009年)。
ちょっと絵がクドイけど、でもマンガだから、すぐに読めますよ。発売1週間で1万部くらいは出ました(その後は、知りませんが)。
学生のみなさんは、カール・マルクスって、知ってるんでしょうかね?
人の名前ですよ。聞いたことくらいはありますか?
現代の私たちがくらす社会の全体を、はじめて「資本主義」という言葉で表現した人です。
そして、資本主義の土台をつくる経済の基本が「労資関係」だということを、突っ込んで明らかにした人です。
それから「市場経済」とは何かを、徹底的に探究した人でもありますし、人類史の変化の原動力が経済の変化にあるといったことを独特の歴史理論にまとめた人でもあります。
あわせて、マルクスは根っからの革命家でもありました。社会改革家です。
1818年に生まれて1883年に亡くなりましたが、自分の目の前にあった「資本主義」の弊害に、はげしい憤りをぶつけて、特に、工場労働者たちの貧困――低賃金、過密、長時間労働、女性差別、児童労働――の解決にたいへんな執念を燃やした人です。
いまでいう「労働基準法」の元祖となる工場法の充実に力をつくしました。
そして、世界ではじめて共産党をつくり、労働者たちが主人公となる社会づくりをめざし、また『資本論』というとてつもなく長い本を書いた人です。
大きな本屋さんに行ってみて下さい。マルクスは、最近、ちょっとしたブームですよ。
去年は、ワーキングプア問題への注目から、小林多喜二の『蟹工船』が大きな話題になりました。
小林多喜二は、マルクスを懸命に読んで、戦前・戦中の日本で平和と植民地の解放、主権在民を求める民主主義の革命を追求した作家で、やはり革命家でした。
残念なことに、29才の若さで、特高警察にとらえられて虐殺されてしまいましたが。
その『蟹工船』ブームのおしまいに、今度は、2008年10月からの世界同時不況が重なり、日本では「非正規切り」が一斉に行われ、年末年始の「年越し派遣村」が大きな社会問題になりました。
そこから、社会に対する目線が「こんな労働のあり方でいいのか」というそれまでのものから、「いまの資本主義はどうなっている?」「そもそも資本主義というのは?」といった、社会の根本的な仕組みに向けられるものに広がってきました。
今のマルクスへの注目は、そこから始まっていると思います。
『理論劇画・マルクス資本論』は、マルクスの主著『資本論』全3部(長い!)から、最初の第1部(1867年)を取り出し、さらにその主立った論点だけをマンガで表現したものです。
その本題の前と後ろには、ちょっとしたマルクスの伝記もつけてあります。
もちろん、それは140年も前の資本主義論ですから、古いところもたくさんあります。
でも、案外たいせつなところについて、変わっていないなあとか、これはスルドイと思わされるところがあるのです。
マルクスを、21世紀という社会と知恵の高みに立って、現代的に読むにはどうすればよいのか。
そんなヒントになればと、おしまいには参考文献もあげてあります。
ひとつ手にとって見てください。きっと、おもしろいですよ。2時間で読めます。
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