以下は,全国商工新聞2006年12月4日付「視点」欄に掲載されたものです。見出しは編集部がつけてくれました。
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視点 弱肉強食の”隠れみの”に 安倍内閣の「再チャレンジ政策」
政府のパンフレット『誰でも再チャレンジできる社会の実現に向けて』には,「事業に失敗した事業者の再チャレンジの際の資金調達を一層促進します」という文章があります。
言葉の響きは悪くありませんが,中小企業・自営業者を苦しめる大企業の利益第一主義には何の歯止めもありません。それは弱肉強食の「構造改革」に軽く砂糖はまぶしても,中味の苦さを少しも変えるものではありません。
根本に手をつけない対症療法
自民党総裁選を前に,「東京新聞」(8月8日)は次のように書いていました。
「政治家が『格差がこれだけ広がってしまい、まずいから何とかしよう』というのは、甘いものを食べ過ぎて虫歯になったから、神経抜いてしまえ、というのに等しい。再チャレンジ支援も対症療法。食生活の改善抜きに効果はない」。
実にまっとうな指摘です。本当に必要なのは「構造改革」路線そのものの転換なのに,そこには手をつけないのが再チャレンジ政策の特徴だというわけです。
記事は「再チャレンジ策はいわば『蜘蛛(くも)の糸』。だが、地獄の間口を広げておいて、糸を垂らすのなら本末転倒だ」とさえ書きました。
最近の「毎日新聞」(11月10日)には,「中小企業への融資円滑化」をふくむ〈再チャレンジ予算〉が増えているとの記事がありました。
しかし,記者は皮肉を込めてこう書いています。「政策の多くがすでに要求されている予算の『看板の書き換え』(経済官庁幹部)」だと。つまり安倍内閣は再チャレンジ担当大臣を新しく決めるなどをしているが,その政策はちっとも新しくないということです。
そもそも小泉内閣から「構造改革」を引き継いだ安倍内閣が,どうして「再チャレンジ」を強調するのでしょう。
「すべて自己責任」「いつでも競争が一番」というのが「構造改革」の考えですから,そこから国民に「再チャレンジ」のチャンスを与える政策など,本来出てくるはずはないのです。
一時的な目くらまし
その大きな要因となったのは,あまりにも深刻な格差と貧困の問題でした。
『経済財政白書』は,総世帯の平均所得が99年の649万円から04年の589万円へ,5年で60万円も低下したと書いています。
こうした現実への不満と批判が,小泉内閣に,安倍晋三氏(当時官房長官)を中心とした「再チャレンジ推進会議」(「多用な機会のある社会」推進会議)をつくらせました(3月)。
しかし,それは国民の暮らしを守るものではありません。
実際,安倍氏はこう述べています。「『再チャレンジ』というのは,セーフティネットではない」「『再チャレンジ』の狙いは,弱者を保護するということではなく,人材を眠らせない,人材を活用していく,ということです」(『安倍晋三の経済政策』115~6ページ)。
つまり失敗した事業者への融資というのも,新しい競争をあおるのが目的なのだというわけです。
だから,先の「東京新聞」は紺谷典子氏の次の言葉を紹介しています。
「再チャレンジとは、チャレンジしなければいけない状況があるということ。小泉政権が生み出した格差社会が前提の話だ」。「再チャレンジ政策」は,「構造改革」を継続するための一時的な目くらまし,薄っぺらい隠れみのでしかないということです。
「改革」やめて減税措置を
「産経新聞」(10月30日)には「『再チャレンジより減税を』大阪の中小企業調査」という記事がありました。
調査した大阪市信用金庫は「失敗が許されない不況を生き残った中小企業にとって、再チャレンジ政策への関心は低い」と述べています。
アンケートの結果,安倍内閣に要望する経済政策の中で「再チャレンジ支援」は「その他」を除く7つのうちの最下位で12・8%。トップは約7割が要望した「減税措置」です。
「構造改革」をきっぱりやめて減税を。これが中小業者の当たり前の声となっているわけです。
民商のみなさんには,これらの声をあつめ,政治を変える力にしていく取り組みを期待したいと思います。
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