以下は日本民主青年同盟「民主青年新聞」2007年4月16日号に,「シリーズ『自然と社会を科学する』の一環として掲載されたものです。
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日本社会にひろがる貧困と格差の克服を
1・解決に向けて理由を探ろう
いま大きな書店へいくと,格差社会についての本が沢山ならんでいます。ワーキングプアという言葉が流行語大賞にノミネートされ,同じタイトルのNHKの番組も話題になりました。お金持ちと貧乏な人の格差は昔からあったことですが,「働いてもまともに食えない」「同じ仕事をしているのにまるで給料がちがう」「非正規でしか雇ってもらえない」等の問題がこんなに深刻になったのは,じつは最近のことなのです。
みなさんの友達には「お金がないから大学に行けない」という人がいませんでしたか? また,みなさん方の中にも「入学金や授業料を払うために銀行からお金を借りた」という人がおられるでしょう。大学卒業後の就職の不安を考えるまでもなく,「お金がない」ということは,このように私たちのくらしにとって,とても大きな問題です。「なぜ」今の日本にはこうした生活の大変さが広がり,これが重大な社会問題になっているのか,その理由(原因)を探り,格差社会克服の方向を考えてみます。
2・資本主義の基本的な特徴と改良の歴史
生命や宇宙などを探る自然科学があるのと同じように,人間社会についても,その仕組みや変化の方向,変化の原動力などを考える社会科学が成り立ちます。格差や貧困の問題を考える時には,特に経済学の成果に学ぶことが大切です。
広い視野で歴史を見ると,社会にも自然と同じように,段階的な進化が起こっていることがわかります。社会は人間の集まりですが,集まっている人間同士の関係に大きな変化が起こるのです。その変化の中で,現代世界の多くは資本主義と呼ばれる社会をつくっています。資本主義社会の基本的なシステムは,少数の「雇う人」が持つ工場やビルで,多数の「雇われた人」が働き,もうけを生み出し,そのかわり「雇われた人」は「雇う人」から給料を受け取り,その給料で生活するというものです。就職活動というのは自分を「雇う人」を探す活動のことで,就職するということは,自分が「雇われた人」になっていくということです。両者についてはいろいろな呼び方がありますが,私は「雇う人」を資本家,「雇われた人」を労働者と呼ぶのが適当だろうと思っています。統計によれば,現代日本では,資本家や自営業者も含む全労働力人口(働いている人)のうち,約80%が「雇われた人」(労働者)に属しています。
19世紀の前半,世界で初めてイギリスに,資本主義社会が確立しました。日本での確立は20世紀初頭になってからのことです。この生まれたばかりの資本主義は,雇われる労働者の生活がたいへんに酷いという特徴をもっていました。給料は安く,労働時間は無制限で,職場の衛生環境は悪く,なかば奴隷的な児童労働も広く行われていました。もうけの拡大を追求する資本家にとって,こうして人件費を徹底して切り詰めることは,とても「合理的」な行動だったのです。
しかし,それでは労働者や家族のまともな生活は成り立ちません。そこで労働者は,労働組合をつくり,資本家たちと交渉し,また労働者の利益を守る政党をつくって政治にはたらきかけ,少しずつ問題の解決をはかっていきます。1947年に施行された日本国憲法に,すべての国民は最低限度の生活が保障される(第25条),労働条件の基本は資本家の自由ではなく国が法律で定める(第27条),労働者は組合をつくり資本家と交渉する権利をもつ(第28条)などの条文があるのは,こうした労働者の歴史的な闘いを反映してのことです。
3・財界と政府が改良の成果を掘り崩す
その後も労働者たちの取り組みはつづきます。全体として給料は上がり,社会保障も拡充され,国民の生活水準は上昇しました。1970年代前半には,日本の全人口の43%が,福祉や環境を重視する「革新自治体」にくらすという,地方政治の大きな改革もすすめられました。これは政党としては共産党と社会党の共同を柱とするもので,この時期,自民党の政治は崖っぷちにまで追い詰められました。このまま進めば,日本はますますくらしやすい社会に変わるはずでした。
しかし,70年代の後半に入ると,大資本家の集まりである財界団体からの巻き返しが強くなります。社会党が革新自治体から抜け落ち,その結果,自民党も息を吹き返しました。労働者の賃上げにも強いブレーキがかけられます。80年代の前半には社会保障制度の後退が開始され,後半には大企業の減税と,その埋め合わせとしての消費税が導入されました。また,労働者や国民の暮らしを守る法律をジャマだとする規制緩和の動きが強くなり,90年代にはこれが加速されていきます。この加速の背後には,日本への進出を進めるアメリカ大企業の要望もありました。
90年代の後半になると,リストラの自由化や非正規雇用の拡大が「構造改革」の名で進められ,「労働ビッグバン」という言い方もされるようになりました。この頃から,労働者の平均賃金が下がり,全世帯の平均所得の低下が進みます。20代の若者では,2人に1人が非正規雇用という「どんなに働いてもまともには食えない」生活に落とし込められました。今日の「格差社会」は,こうした流れの中でつくられました。そこに責任を負うべきは,誰よりも日本の財界や政府です。「勝ち組・負け組」論や「自己責任」論は,それをすべて個人責任にすりかえようとする,きわめて悪質な議論となっています。安い給料,不安定な雇用の中で,懸命に働く若者たちに責任があるわけではありません。
4・「構造改革」からの転換を
今日の格差社会がつくられるまでの歴史や,それを生み出す社会の力について見てきました。日本資本主義の歴史をもっと知りたいという方には,林直道『強奪の資本主義』(新日本出版社)がオススメです。また世界には,70年代までの日本で行われた国民の暮らしを守る改革をもっと前に進めている国もあります。北欧諸国が典型です。これについては,竹●孜『スウェーデンはなぜ生活大国になれたのか』(あけび書房)が読みやすい本になっています。
7月には参議院選挙がありますが,そこでは格差社会の克服も重要争点の一つとなります。規制緩和や労働ビッグバンを進める「構造改革」路線からの転換をどのようにして果たしていくのか,それもまた大いに学び,考えてほしい問題です。充実した大学生活を送ってください。
●=山辺に嵜
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