以下は、京都民報社「京都民報」2007年11月4日付(第2308号)に掲載された書評です。
見出しは編集部がつけてくれました。
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新しい社会イメージを提起
碓井敏正・大西広編『格差社会から成熟社会へ』(大月書店、2007年)
自民党の歴史的大敗は、貧困と格差にあえぐ国民生活を大きな背景とするものでした。
政治とカネや年金問題への怒りの根にも「国民がこれほど苦しんでいるのに」という深い苛立ちがあったものと思います。
福田内閣は衆議院選挙をにらんで「構造改革」の取り繕いを口にし、政権交代をねらう民主党も国民世論への配慮を欠くことができなくなっています。
こうした中で、格差の告発にとどまらず、新しい社会のイメージを積極的に提起しようとするこの本は、状況に良くかみあうタイムリーな一冊となっています。
編者は目ざすべき新たな社会を「成熟社会」と呼び、それを体制転換の必要はないが「資本主義の成熟のかなた」にあるものと位置づけています。
示される論点は多岐にわたり、グローバリゼーションと国民国家、市場と民主主義の関係(碓井敏正)、企業行動における非市場性の成長と導入(高橋肇)、資本蓄積と成熟社会、株式会社や証券市場がはらむ社会主義の要素(大西広)、高齢者を自発的マンパワーに含む福祉政策、地方自治を支える市民の成熟(神谷章生)、階層・類型の相違をこえた労働者の有機的連帯(浅見和彦)、現代的ケインズ主義からの政策提起(松尾匡)など、いずれも知的刺激に富むものとなっています。
様々な議論を誘発しうる力のこもった著作といって良いでしょう。
ただ一点、既存の社会改革論との関係をまとめて論ずる箇所があれば、問題提起の意義が一層鮮明になったように思います。
(神戸女学院大学教授・石川康宏)
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