以下は、日本婦人団体連合会『婦人通信』2008年1月、第595号、5~8ページに掲載されたものです。
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学びをはげまし、育つ姿にはげまされる
--「慰安婦」問題を学び学生たち--
神戸女学院大学・石川康宏
http://walumono.typepad.jp/
〔学びの成果を社会に伝える学生たち〕
今年もゼミ生たちは、各地で「慰安婦」問題についての講演活動に取り組んでいます。以下は、3年生の講演を聞いてくださった方の感想です。
ひとつ目は、10月26日の授業で話をさせていただいた尼崎の高校のF先生です。
「本日は、Mさんら3人の石川先生のゼミ生に、日本史Aの時間に、お話をいただきました。3人とも、非常にわかりやすく、聞きやすい言葉で、38名の生徒は満足をしていました。お世辞ではなく、本当に有意義なお話でした。彼女たちの学びの過程についての話は、特に大学進学前の高校3年生には参考になりました」。
「先ほど、生徒から一通のメールが届きました。第一号の感想です。『どう表現したらいいのかわからないけど、本当にいたたまれなかった。女性としても心臓をもぎとられるような思いがした。今日本にいる人で、慰安婦問題を知っている人はどれくらいいるのだろう。学校の教科書では『慰安婦』と一行で書かれている。それだけで済ましていいものなのかと、今日の話しを聞いて感じた。
日本の政府の対応もおかしい。謝罪や賠償もしない、もししたところで解決はしないと思う。きちんとこのような悲惨な歴史をもう二度と起こさないために、新しい世代に伝えていくことをしないといけないんじゃないかな。私は今日この話しを伝えられた。だから私はもうこんな最悪なことが起こらないため、戦争を起こさないため、次の世代、自分の子どもに伝えたい』」。
もうひとつは、10月21日に大阪北区で行われた憲法フェスティバル主催者のMさんが、直接学生に届けてくれた感想です。
「お疲れさまでした。講演どうもありがとうございました。とても評判が良かったです。……みなさんの講演が終わって会議室を出て来る人がみんな、良かった良かったと口々に話していました。感想文には『大学生だけであんなことができるなんてすごい』『慰安婦問題を通して現在の日本にも鋭い批判をしていて素晴らしい』『真摯に取り組む姿勢に好感がもてた』などなど。なかには『若い人が頑張っている。これで日本の未来も安泰だ』(ちょっと大げさですね)との感想もありました」。
こうした学生たちの講演は、2007年だけで30回を超えています。
〔力をあわせハードルを越えていく学生たち〕
さて、こうした嬉しい評価が与えられる学生たちですが、彼らは、ゼミに入る最初の段階では「慰安婦」問題をほとんど何も知りません。それが4月からの集中的な学びと体験を通じて変わっていくのです。
まず、毎週月曜日の午後3時から8時までのハードな5時間のゼミでは、次のようなことを心がけています。
①どんな立場のテキストも避けずに正面から検討すること、
②どのテキストも鵜呑みにせず、いつも自分で事実を調べ、自分のアタマで疑問を解決すること、
③戦争の歴史をリアルに感ずるために、たくさんの映像を見ること、
④「女たちの戦争と平和資料館」「しょうけい館」「靖国神社・遊就館」「韓国ナヌムの家・日本軍『慰安婦』歴史館」などへ足をはこび、その場で集中的に考えること、
⑤問題を過去の出来事としてだけでなく、未解決の今の問題としてとらえること、
⑥問題解決を避ける日本の政治と自分のかかわりを考えること、等です。
くわえて学生たちは、こうした試行錯誤をふくむ学びの過程で、「歴史」評価をめぐる身近な人たちとの意見の対立に苦しみ、元「慰安婦」と体面することへの恐れと闘い、直前深夜までソウルの「水曜集会」での発言内容を考えるなど、自立した自分をつくりあげずにおれない「試練」に直面していきます。それらのハードルは決して低いものではありません。しかかし、彼らは互いに力をあわせ、懸命にそれを越えていきます。
「人を育てる」とはいうものの、学び、考え、育つ力はあくまで学生自身の内にあるものです。教師としての私にできることは、持てる力の惜しみない発揮を励まし、ありのままの私の姿をぶつけ、あわせて学びの方法や学ぶことの意味について多少の助言をすることくらいです。
経済学者である私が「慰安婦」問題と出会い、歴史問題を学ぶにいたった経過については、すでに何度も書いてきました。ここではそれに、短時間に成長していく彼らのまぶしい姿を見ることが、私にこの取り組みを継続させる小さくない力になっていることを付け加えておきます。
ここに述べたことの詳細は、すでに『ハルモニからの宿題』(冬弓舎)、『「慰安婦」と出会った女子大生たち』(新日本出版社)、『「慰安婦」と心はひとつ 女子大生はたたかう』(かもがわ出版)等にまとめてあります。いまは4冊目の本をつくっていますが、それもふくめてどこかで手にしていただけると嬉しいです。若い世代に恥じない学びが、大人の側にも求められていると思います。お互いにしっかりと学び、育ちあっていきましょう。
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