以下は、婦人民主クラブ『婦民新聞』2007年12月20号に掲載されたものです。
見出しは、編集部のみなさんがつけてくれました。
インタビュアーは、婦人民主クラブ事務局長の櫻井幸子さんです。
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激動のこの一年をふり返って
草の根の運動が政治を変える力に
櫻井 今年は例年にも増して、文字通り激動の年でしたね。
石川 「構造改革」や改憲に対する闘いの成果がはっきり現れてきた年だったと思います。その象徴が安倍政権の崩壊ですね。安倍さんが政権を投げ出さざるを得なかった直接の原因は参院選の大敗ですが、そこには貧困と改憲という大問題に対する国民の不満あるいは批判の意識がありました。
貧困化は本当に深刻です。九七年をピークに日本中の全世帯の平均所得が十年間下がり続けています。根底にあるのは雇用と社会保障の破壊です。
改憲の問題では五月三日に、靖国派からも改憲案が出されました。天皇を元首にするといったあまりの復古調に、マスコミの中にも不安が広がりました。安倍政権が三年後の改憲発議をマニュフェストに掲げ、それで大敗を喫したことの意味はとても大きいと思います。
頑張る草の根
石川 安倍政権を引き継いだ福田政権も、崖っぷち政権であることに変わりはありません。福田首相は総裁選でも所信表明でも、改憲を語ることができませんでした。「構造改革」についても、基本的に正しいといいながら、一定の手直しを口にせずにおれない状態です。
櫻井 一方、日本各地に広がった「九条の会」は、七千に迫る勢いですね。
石川 改憲の動きを押しとどめる上で、「九条の会」などが果たす役割は非常に大きくなっています。世論調査のたびに護憲派が増える背景には、これら草の根の運動がある。一四〇人以上の国会議員が集まる「新憲法制定議員同盟」も、そのような指摘をしています。平和や安心を求める国民の取り組みが、政治を動かす現実的な力となり始めているということです。
櫻井 この間、大連立をめぐる一連の動きが大きな話題になりました。
石川 自民党が大連立を呼びかけざるを得なかったのは、選挙に大敗した結果、自民と公明だけでは、自民党政治の継続ができなくなってしまったからです。
他方、自民党との「対決姿勢」を投げ出せば、民主党も国民に見放されることになる。それで民主党は大連立に乗りかかっても、乗りきることができませんでした。大連立騒動の開始から頓挫までの全過程が、自民党政治に対する国民の批判にしばられたものであったわけです。
櫻井 今年も一連の悪法に反対して私たちは、連日、宣伝・署名行動や国会要請行動、集会などに取りくみました。しかし、それが国民のあいだに大きく広がっているという実感は必ずしも持てず、悩むことも多いのですが…。
石川 そこはむしろ自民党や公明党の指導部の方が、より敏感に感じ取っているところなのかも知れません。彼らは次の衆院選について、非常に強い危機感をもっています。十一月には大阪市長選で民主党が圧勝しましたが、公明党の幹部は「危機的だ」「自民党は組織が崩れかけている」と語っていました。
みんなが街頭で訴えるような激しい怒りの表明ではありませんが、自民・公明政治に対するジワリとした、重たい憤りがつのっているのは間違いありません。そこは正確にとらえておきたいところです。
櫻井 それはあるかも知れませんね。財界としてはやはり自民党を勝たせたいわけでしょう。
財界の主導で
石川 最新の政党通信簿でも、自民党に対する財界の評価は上がり、反対に民主党への評価は下がっています。民主党にとっては「対決姿勢」のジレンマということなのかも知れません。
参院選後の財界の動きについては、少し意外な気がしました。自民党政治の立て直しに向けて何かの策が出るかと思っていたのです。しかし結局、何も出てこなかった。「構造改革」路線を継続するということだけでした。長く政治を自民党まかせにしてきた財界は、イケイケと旗をふることはできても、本当の政治支配の能力には優れていないのかも知れません。実際、奥田ビジョンも御手洗ビジョンも、国民の抵抗を一切想定しないものになっています。
櫻井 国民を無視してもやっていけると思っているのでしょうか。教育の面からいうと、とにかく財界の望む人づくりは強力に推し進められてますね。その中で子どもたちの育ちに深刻な問題が出てきています。教育基本法が改悪されて、その中身の具体化が進んでいるわけですが、教育が大変だという国民の側の意識はまだ弱いように感じます。私の勤めていた品川でも「学校選択制」がまっさきに導入され、それが全国に広がり、今、学校の企業化が懸念されていますね。
石川 「構造改革」は、財界が望む政治をストレートに実現する体制づくりをひとつの目標としてきました。「自民党主導から官邸主導へ」というやつです。教育政策についても同じことがいえるわけです。ここで事態を複雑にしたのは、靖国派が文部行政の乗っ取りを策して「教育再生会議」をつくったということでした。結局、安倍政権の崩壊によって、同会議は形だけが残ることになりました。教育「改革」は再び財界主導の線に戻るでしょう。教育は子どもだけの問題でなく、社会の未来の問題ですから、大いに重視していかねばなりません。
「慰安婦」問題
櫻井 今年は特に「慰安婦」の問題もクローズアップされましたね。
石川 世界に目を向ければ、今年は大国の身勝手が、たくさんの批判に押さえ込まれてきた一年だったと思います。ブッシュ政権の戦争政策の孤立が象徴的です。イギリスやオーストラリアのイラク撤兵の動きに加え、日本もインド洋での給油ができなくなった。アメリカ国内でも、イラク戦争の継続をいう次期大統領候補は一人もいない状況です。
アメリカが「慰安婦」問題に注目した理由のひとつは、靖国派が強くなりすぎた場合の日米同盟の不安でしたが、もうひとつは東アジアとの関係の問題でした。急速に成長する東アジア各国の政治的発言に、アメリカも一定の配慮をもたずにおれなくなっている。根本にあるのは、そうした世界構造の変化だったのです。
その後、オランダやカナダでも決議が採択され、さらに欧州議会でも決議があがる見通しです。こうした国際環境の変化を追い風にして、何より日本国内の取り組みが大きな力を発揮していかねばなりません。
女性解放とは
櫻井 婦人民主クラブは綱領の中で女性解放をうたっています。しかし現実の運動の中ではまだまだ足りないという思いがあります。
石川 そこは理論的な立ち遅れの問題もあると思います。エンゲルスが『家族、私有財産および国家の起源』を書いて、すでに一世紀以上がすぎています。その間に資本主義の枠内での闘いは前進し、男女平等の実現を未来社会に託さねばならない状況ではなくなってきている。過去の歴史についても、現在の男女関係についても、様々な究明が進んでおり、それを総括する大きな取り組みが必要になっていると思います。
日本の性差別の実態は深刻です。私のゼミの学生や卒業生も様々な差別に直面しています。女性労働者が増えているといわれますが、非正規雇用の比率がきわめて高くなっている。戦後、多くの国で男女平等が進みましたが、日本の雇用現場に大きな改善はありません。
その最大の理由は、世界最長の男性中心型長時間労働を、どこまでも維持していきたい政財界の労働力管理政策です。「男は仕事、女は家庭」で、女性に夫や子どもの世話を強制し、男は職場で徹底的に搾取したいということです。ですから経済学は、夫と子どもの世話という主婦労働の社会的意義をとらえ、これを生産関係の中にとらえる広い視野をもたねばなりません。
憲法生かそう
櫻井 人権の問題も、教育の問題も、そして農業も社会保障も、すべてが危うくなっていますね。
石川 おそらく二〇〇八年は、現状をどこへ向けて転換するのか、その転換後の政治を、国民が本気で探究していく年になると思います。しかし、それは難しいことではありません。いまある日本国憲法どおりの政治をすればいいのです。それほどに日本国憲法は優れた要素を持っています。憲法を本気で実現する社会とは、どのような社会なのか、そこまで踏み込んだ語りが必要になってきます。そのための学び、学んで自分の頭と言葉を鍛えることを、みなさんにもますます重視していただきたいと思います。
櫻井 ありがとうございました。今日のお話を糧として、私たちも新しい年へ展望をもって運動をすすめていきたいと思います。
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