早川紀代編『戦争・暴力と女性3 植民地と戦争責任』(吉川弘文館,2005年)
--歴史の教訓を平和秩序の建設に--
神戸女学院大学・石川康宏
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シリーズ「戦争・暴力と女性」の完結編です。内容は多岐にわたりますが,「植民地公娼制度と日本軍『慰安婦』制度」(藤永壯),「軍隊と公娼制度」(今中保子),「戦争責任のはたし方」(早川紀代)が一つのまとまりをなしています。日本の軍隊が公娼制(政府公認の性奴隷制)と深いかかわりをもったこと,少なくない「軍国の女」がこれを受容していたこと,台湾・朝鮮・「満州」など植民地に軍と政府が公娼制を移出したこと,そしてそれが「帝国」内を広く移動する「接客婦」を生み,侵略地全域におよぶ「慰安婦」制度の前提となったことなどが論じられています。
もう一つのまとまりは「戦時下における女性動員」(樋口雄一),「受益者か,それとも被害者か」(游鑑明),「『満州国』における婦人団体」(劉晶輝)です。軍事・労働・精神面での女性の動員が分析され,朝鮮人女性に対する日本人女性の抑圧,「満州」における日本人主導での「国防婦人会」の活動が紹介されます。台湾については日本による「生贄」と「共犯」,被害と「受益」の両面があるという問題提起もなされています。
他にも,横田文子・千野敏子の文筆を題材とした「戦時下の抵抗」(東栄蔵),平和運動家・中村文子の生涯を語る「基地の島・沖縄女の闘い」や,「戦争未亡人と遺族会・未亡人会」(北河賢三),「被爆と女性」(関千枝子),「現代日本における女性兵士=女性自衛官」(山田朗),コラム「現場主義と対話から,歴史を学び未来をつくる」(須永有香里)など多彩な議論が行われています。
編者の早川氏は「平和をつくる」という副題の冒頭の文章で,戦争のない「新しい共同連帯の人類文化をうみだす」ことの必要を語っています。歴史の教訓をこれからの平和秩序の建設に結びつける,こうした視角は今後ますます重要なものとなるでしょう。教えられるところの多い一冊です。
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