不破哲三『私の戦後60年--日本共産党議長の証言』(新潮社,2005年)
--混迷する政治の打開を深く根本から語り考える--
神戸女学院大学・石川康宏
http://web.digitalway.ne.jp/users/walumono/
「インタビューをした党本部の応接室を出るとクタクタになっていたことを思い出す」。本書は政治ジャーナリスト角谷浩一氏による,15時間ものロング・インタビューの記録である。角谷氏が述べるように「不破氏が本書で語る内容は,決して情緒的ではなく,データと資料によって織り成され,積み上げられたものである」(354頁)。読みやすい本ではあるが,中身はこれまでの研究の繰り返しではない。例えばここには“本邦初公開”の資料が登場する。
1972年,不破氏は国会で沖縄での核兵器(模擬爆弾)投下訓練の問題を取り上げ,返還が「核抜き」である以上,これが返還以後に継続されない保証を事前に得ておく必要があると主張した。佐藤首相はただちにこの見解を受け入れる。だがこの要望はアメリカ政府に伝わる以前に,大使館からの非公式の「回答」といういわば門前払いをもって終わりとなる。日本政府の声など,アメリカにとってはその程度の重みしかないということである。“本邦初公開”の資料というのは,この経過を赤裸々に語るマイヤー大使とロジャーズ国務長官との「秘」および「極秘」扱いの電報のことである(156~9頁)。
より重要なのは,全15章の各テーマが混迷する政治の打開に必要な方策の究明という,きわめて実践的で今日的な基準によって選択されたことである。だからこの本は保守政治家の書き物にありがちな,自分の過去を都合よくつなげただけの「自伝」や回顧録とはまったく異なる。例えば先の「極秘」電報の紹介につづけて,著者はこう語っている。「これが“独立国家”日本とアメリカ大使館との関係の現実の姿だとすると,多くの日本人が,その“独立国家”に生きる人間として,何とも言えない恥ずかしさを感じるのではないでしょうか」(159頁)。焦点はあくまでも現状の改革と未来にあり,本書の努力の核心は,日本政治の根本問題を,歴史の現時点で説得力をもってどう語るかについての新たな究明という点にある。第9章「北朝鮮問題――真相解明と解決への探究」,第12章「『北方領土』交渉はなぜうまくゆかないのか」などはその典型である。
とはいえ本書には造艦技師をめざした軍国少年時代のこと,「一高細胞」の会議をみなの面前で行ったことなど,著者個人にまつわるエピソードも少なくない。なかでも驚かされたことの一つは『スターリンと大国主義』(1982年)と『干渉と内通の記録』(1993年)のいずれもが,年末年始の短い休暇をきっかけに書かれていった事実である。そこには理論を武器とした変革者としてのこの人の強い意志の力が,格別に良くあらわれている。これらの点もまた本書の貴重な読みどころといえよう。政治信条の違いをこえ,多くの人にすすめていきたい本である。本紙読者のみなさんには,熟読をおすすめしたい。
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