以下は、「しんぶん赤旗」2008年3月9日付、第8面に掲載されたものです。
見出しは編集部がつけてくれました。
----------------------------------------------------------------------------------------------
ポール・ポースト『戦争の経済学』(バジリコ株式会社、2007年)
徹頭徹尾アメリの利益だけ検討
たくさんの人間の命と肉体が砕け散る現実をあえて視野の外に置き、戦争を著者なりの「経済学」によって分析して見せた一冊である。
私はこのような問題の立て方自体に、ある種の感覚の麻痺を感じずにおれない。
著者によると、第1部「戦争の経済効果」は「戦争が経済にとって利益になるのはどういう場合か」を、第2部「軍隊の経済学」は「アメリカが継続的に軍事設備を維持しているために、戦争が起きても昔ほどの大量動員は起きないし、政府支出もさほど劇的には増えない点」を、第3部「安全保障の経済学」は「なぜ戦争がいまでは経済を活性化できないかのもう一つの理由」すなわち「現代の戦争は独特で限定的な性格を持つ」ことを、それぞれ検討するものとなっている。
第1部には「戦争の経済的影響を評価するための4つのポイント」がまとめられている。
「戦争前のその国の経済状態」「戦争の場所」「物理・労働リソースをどれだけ動員するか」「戦争の期間と費用、そしてその資金調達手法」がそれである。
最大の特徴は、そこにアメリカの軍事力によって破壊される側の「経済」がまるで登場しないことである。視角はあくまでアメリカの利益に限定され、戦死者の「経済」的価値の計算さえもが米軍兵士に限られている。
他方で、中央アジアや中東の資源と市場、また石油取引のドル建てを維持することによるアメリカの「ドル特権」堅持の狙いなど、現在のアメリカにとっての「戦争の経済効果」については重要な視角の欠如がある。
意図した隠蔽でなければ、それは著者の「経済学」自体の欠陥といえる。
本書はすでにアメリカの陸軍士官学校でも利用されているという。紹介される統計資料や知見には、いくつかの興味深い論点を見出すことが可能である。
だが、全体としての性格を評価しようとする時、そこに世界を見下さんとする軍事大国アメリカの奢りが反映していることを見落とすことはできない。
最近のコメント