以下は、日本アジア・アフリカ・ラテンアメリカ連帯委員会機関紙「アジア・アフリカ・ラテンアメリカ」2008年8月1日(第578号)、4~6面に掲載されたものです。
------------------------------------------------------------------------
「世界の構造変化と日本経済」
大阪AALAでの経済問題学習会(6/25)より。(要旨-編集部)
世界の構造変化の話の前に、生活保護者の実態、受給者の外国との比較、非正規雇用増にみられる格差と貧困、財界の政策、アメリカの最近の動向と政治的新戦略など、後半では、サブプライムローン、マネーゲーム拡大、通貨のドル離れ問題などがはなされました。
世界各国が生み出す加速度的な構造変化
EU(欧州連合)27カ国は、2007年3月に「ベルリン宣言」を決めて、EU大統領や外相を決める方向に動いています。あそこはお金がもう共通になっていますし、国境を越えるのにパスポートがいらなくなってきています。そこからさらに互いの共同を深めていこうとしています。
英、仏、独、伊の4カ国有識者アンケートで「今後重要になるEU以外の相手国は」との問いに、回答の1位はアメリカでなく、中国です。ヨーロッパも日本よりルールは整っていますが、大企業中心の国家です。そうした国からすれば、14億人が暮らし、成長する中国はじつに魅力的な市場です。こことどうやって円滑な関係を結んでいけるか、これが最大の問題だと自覚されているわけです。
第2位がアメリカ、第3位インドとつづきます。インドも11億の人がいて、経済成長が急速です。こうした国々とうまく、仲良くしなければというのがヨーロッパの指導者たちの問題意識です。日本への関心はその後で、それから次が中南米です。
中南米の変化はみなさんよくご存知のとおりです。たとえばボリバル代替統合構想は、単に共同市場をつくろうというのでなく、連帯して互いの貧困を乗り越えようというものになっています。
たとえばベネズエラが、石油を南米のみなさんにお安くお分けしましょうという。そのかわりベネズエラは貧乏で、教育も医療も未発達です、ここになんとかみなさんのお力を、というわけです。そこでキューバが手をあげて、医療で力を貸しましょう、かわりに安く石油を、となるわけです。ベネズエラの人たちの白内障の無料手術が100万人を超えたという、国境の枠をこえた連帯、助け合いが、こういう形ですすんでいます。
アジアでは、アセアン(ASEAN=東南アジア諸国連合)が2015年には共同体を作り上げるといっています。それに必要なアセアン憲章(共同憲法)が、2007年11月に10カ国の署名で結ばれています。あとは1カ国ずつ、国会の中でこれを認める批准が進めば、共同体づくりはこの憲章に基づいてすすむということになるわけです。
それから中国とアフリカです。中国はやることがでかい。国の中に格差、環境、民主主義といろいろな問題をかかえていますが、われわれと経済交流をしてくださいとアフリカ大陸すべての国に声をかけて、実際に交流が進んでいます。
2007年2月には胡錦濤首席が8ケ国を訪問、5月にはアフリカ開発銀行の総会が中国で1900名という史上最大の規模で開かれる。9月には国連本部で中国とアフリカ48ケ国の外相会議が行われる、といった具合です。こうした動きにたいして、ある人はそれは中国のアフリカにたいする経済侵略ではないかといいました。しかし、ご承知のように世界銀行の総裁が、中国は近年貧困の解決にもっとも成功した国だ、この中国のノウハウを世界で最も貧しい地域をもつアフリカに伝えることは重要なのだという反論を加えています。
世界経済構造の量的変化と質的変化
世界の構造変化といったときに、特に戦争と平和にまつわる政治的な力関係の問題と、経済のしくみの問題の2つを区別して見る必要があります。政治の世界では、アメリカの威信低下は明らかです。そして、外交といえばそのアメリカの顔色しか見ることのできない自民党政治は、本当に時代後れです。
経済を、実物経済とマネー経済の2つの面からみてみます。実物経済はものづくり経済で、マネー経済は、値段が大きく変化する商品の売り買いだけで儲けようとする経済です。物づくりの方からみていくと、ブリックス(BRICs)の台頭が注目されます。
Bはブラジル、Rはロシア、Iはインド、Cは中国で、これの国をまとめてブリックスと呼んでいます。ゴールドマンサックスというアメリカの投資会社のレポートが、この4カ国が世界の成長株だ、ここが金儲けの焦点だと指摘したのが最初です。
2005年時点で名目のGDP(国内総生産)――国の中でどれだけものがつくれるかということですが、これがブリックス4ヶ国で4.6兆ドル、それにたいしてG7(アメリカ、日本、ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、カナダ)で27.1兆ドルだが、2035年にはブリックス4ヶ国でG7の7カ国を逆転するという見通しです。これは名目の数字ですが、実質で見れば、もっと転換が早い可能性がある。
国別順位でみても、2005年の名目GDPで、①アメリカ、②日本、③ドイツ、④ 中国、⑤イギリスの順ですが、2035年になると、①アメリカと②中国はほぼ同じレベルに、次に③インドが④日本より上にくる、その下が⑤ブラジル、⑥ロシアとなり、イギリスやフランスはどこにいったという状況です。いま世界の経済的な力関係は、それぐらい急速な変化の中にあるわけです。
クレディ・スイスという投資会社がこういう予想をしています。中国は、2010年にはアメリカや日本についで第3の消費市場になるが、2015年には日本より上になると。つまり長くアメリカが「世界の胃袋」といわれてきましたが、それがアジアに移ってくるわけです。
2015年ですから、日本で2、3回の国政選挙があるうちに、世界はそのように変わっていくというわけです。NHKが「インドの衝撃」という番組を繰り返し流していますが、インドへの注目も同じです。世界の大企業は、続々と中国やインドに集まっています。
こういう変化がありますから、旧いG7だけで世界経済はコントロールできない。新しく、巨大な主人公が出てきているのに、そのデカイ主人公を脇において、旧い7カ国でコントロールすることはもうできない。そこで、フランスにサルコジという、これまでより右寄りの首相が生まれていますが、この人でさえG7だけではダメだ、それにインド、中国、ブラジル、メキシコ、南アフリカという新興の経済大国をつけ加えてサミットをしよう、などと言うわけです。
その中で、日本政府の経済政策は、いぜんアメリカ頼みがつづいています。アジア市場への接近も、アメリカのアジア戦略の枠の中でとなっています。じつは日本の財界には、中国やインドとうまくやらなければいけない、中国やインドでもっとうまく儲けたいという気持ちがある。そこのきしみも、時々聞こえるということになるわけです。
こうした経済の構造変化を考えるには、台頭するブリックス等の経済の質に注目しておくことも必要です。アメリカの経済覇権主義が崩れ、少数大国の支配が崩れていくのは結構ですが、他方で、ロシアは政治の独裁色が濃く、経済も少数財閥への利益集中がいわれる国です。そういう国が中心に立ち上がっていくことが、世界の経済構造全体にどういう影響を与えていくことになるのか、その手の問題にもっと注目が必要です。
他方で、世界経済の質を考える時、前向きな変化としてもっと注目して良いと思うのは北欧です。2008年1月12日の『週刊・東洋経済』が「北欧はここまでやる 格差なき成長は可能だ!」という特集を組みました。成長には競争が必要だというのが「構造改革」の論調ですが、これにまったく反する経済がある。
北欧の経済成長は急速です。一人当たりのGDPでみるとノルウェー、デンマーク、スウエーデン、フュインランドの4カ国ともが、日本やイギリス、ドイツ、フランスを上回っている。さらにノルウェー、デンマークはアメリカよりも上位になる。よく知られるように、これらの国は社会保障がひじょうに整っています。税金が高いという問題はありますが、国民生活への還元が大きい。
しかも、投票率が非常に高い。国民自身がそうした社会づくりを認めているということです。税金が高いからと貧乏になっているわけではない、しかも経済の成長率は高く、そうした社会を高い投票率で国民自身が支持している。こういう国づくりを可能とする国民の政治意識はどのように鍛えられたのか、そこは良く研究していく必要があると思います。それは世界経済の質の変化をどうつくりあげていくかという課題にも直結するものです。
日本経済の進路を考える
こういう世界の変化の中で、1つ目に確認すべきは、アメリカ市場だけに依存した経済は明らかに時代遅れだということです。対中貿易が拡大していますが、中国で生産したものを最後にはアメリカに輸出するという三角貿易が少なくない。そうではなく、アジアの人たちを最終消費者とする経済交流の仕組みを育てる必要があるということです。中国、東アジア、インドの人たちがたくさん商品を買ってくれれば、それは日本経済にとってもありがたい。そうした関係を育てる意識が必要です。
16ケ国で東アジアサミットが行われ、東アジア共同体が議論されていますが、この共同をつうじて東アジアの購買力が高まることが、日本経済にプラスになる。これらの国の国民の生活水準、消費能力が高くなれば、日本経済はそれによって支えられるのです。だから、非正規雇用など低賃金労働者の「浪費」によって国内消費をつぶしてしまうなどの失敗を決して「輸出」してはならない。必要なのは、アジアをいじめて豊かになろうとすることではなく、アジアの豊かさを育てることで日本の経済も成長していくという共生関係の形成です。
2つ目は、外貨保有の問題です。外貨を世界でいちばん多く持っている政府は中国で、2番目が日本ですが、日本が持っている外貨はほとんどがドルなのです、しかし、そのドルがどんどん目減りしていっている。円もドルも、ユーロに対しては長期的に安くなりつづけている。だから、多くの国がドルからユーロなど、他の通貨への保有外貨の分散をすすめています。ドルだけでもっているのは危険だという意識です。日本の通貨政策も、ともかくドルを支えましょうというアメリカ第一主義でなく、自立してものを考えるように変えていかねばなりません。目減りを野放しにするなど、どんな国でもしないことです。
3つ目に、いま世界の投機マネーの動きによって国民生活は大きな被害をうけています。物価の急速な上昇です。肉はあがる、牛乳はあがる、石油はあがる、石油関連製品はあがる。便乗値上げもかなりありそうですが、投機が野放しにされているから、こういう思わぬことが起こってしまうのです。ヨーロッパには、投機の野放しをやめさせる動きがありますが、日本はここでもアメリカ追随です。
投機管理の方法として注目されているものにトービン税があります。これは投機に税をかけるというものです。税をかけるためには売買の実態を明らかにせねばならない、それによって投機のうまみが小さくなる、他方で、ねらわれた国の側に税金が入る、そういう仕組みの変化がつくれます。日本の政府も、投機への規制にみずから進むべきです。
4つ目の最後は、日本経済の自立度を高めるという問題です。世界は政治も経済も大きな変化の中にあり、だからこそ思わぬことが起こりうる。その中で安定を保つためには、できるだけの自立が必要です。国内の需要を高めて、生産と消費のバランスをとる。それには雇用や社会保障や税制の改善による個人消費の拡大が必要です。食料の自給率を高めていく、そのために農漁業への支援を行う。世界が激動のさなかにあるからこそ、「構造改革」を転換し、経済を内需主導の道に転換していくことが必要なのです。
そうするとどうしても政治の改革が必要です。自民党政治でダメだということは、多くの人が気づいています。そのかわりに選んでみた民主党もパッとしない。そこで、第3の道をしっかり示すことが必要です。それは難しいことではありません。「憲法どおりの日本をつくろう」でいいのです。
新聞の世論調査でも、いよいよ護憲派が改憲派を追い越しつつあります。憲法の条文を守るだけでなく、一歩すすんで条文どおりの日本をつくっていこう、そこに世論すすめることが必要です。国民の生存権を守り、労働権を守ることは、国内の消費力を高め、経済の質を変えていくことにもつながります。そこに力を入れていきたいと思います。
今日の語りの不足は、ぜひ拙著『覇権なき世界を求めて』(新日本出版社、2008年)で補ってください。以上です。
最近のコメント