以下は、日本民主青年同盟「民主青年新聞」2009年11月2日、2753号に掲載されたものです。
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第1回・若者のくらしと未来を圧迫するもの
私の子どもは、上から23才、21才、19才とつづいています。自分がどういう大人になるかについては、それぞれに迷いや課題があり、前へ進む苦労も味わっています。
今回は、そんなわが子と同世代の読者を念頭に、今の若い世代の生きづらさや、希望を見い出しづらい日本社会の問題を、第1回「若者のくらしと未来を圧迫するもの」、第2回「財界中心の経済をどうコントロールするか」、第3回「いつまでも資本主義で本当にいいかの」という順で考えてみます。
〔国民の審判に対する財界の挑戦〕
8月30日投票の総選挙で自民党が大敗し、その後、民主党中心の新政権が誕生しました。これでようやく少しは政治が良くなりそうだ。そういう期待が私のまわりにもあふれました。
ところが、その期待の声にまったく反して、投票のその日に、有力な財界団体――大企業経営者たちが自分たちの利益拡大を追求するためにつくっている団体――のひとつである経済同友会は、「衆議院選挙の結果を受けて」の中で、次のように述べました。
〇「民主党は、マニフェストでは『国民の生活が第一』と掲げ、国民にとって受け入れられ易い政策を羅列しているが、新政権を担うこととなった今・・・責任をもった取り組みが求められる」。
ものすごいことを、平気でいうものです。民主党は選挙に勝つために国民の機嫌をとる政策をならべたが、政権をになう以上、そんな無責任はゆるされない。今後は、国民よりも、自分たち財界を喜ばせる政治を行えというわけです。
同じ文書は、国民が選挙で退けた自民党についても、こんなことをいっています。
〇「自由民主党の歴史的大敗の要因は・・・総理大臣が短期間で交代した政権運営や、説明不足のまま構造改革路線の変更を重ねたことなどに対する国民からの厳しい批判であったと思う。
しかし、今後も政権交代可能な二大政党による、緊張感のある健全な議会制民主主義を根付かせていくためには・・・自民党の再生が不可欠である。新しい時代をリードする政党として、再出発していただきたい」。
自民党の失敗は政権運営の方法や政策変更の説明不足といった小手先の問題だから、そこだけ総括して、早く再生しろというのです。そこには、非正規雇用の拡大や国内需要の破壊による経済運営の失敗など、政治の中身を問う姿勢はまったくありません。
経済同友会は、主権者である国民の審判に正面からの挑戦状を叩きつけいるわけです。
〔財界が鳩山新政権に求めているもの〕
これまでの自民党政治を、影であやつってきた国内の中心勢力は財界でした。その方法は、財界団体の頂点に立つ日本経団連が、経済・税財政・労働・社会保障・外交など多くの分野の政策文書をつくって政府に手渡し、他方で、その政策の実行を求めて金を渡すというものです。
特に、2003年から後には、日本経団連はアメリカのような保守二大政党制をめざし、自民党と民主党の「政策評価」をもとに――いわゆる財界通信簿――、その成績に応じた献金を大企業によびかけてきました。
では、その財界は、いま鳩山新政権にどのような政治を求めているでしょう。日本経団連の御手洗冨士夫会長――この人は昨年秋の非正切りの先頭に立ったキャノンの会長でもあります――は、「政権交代という新しい環境にあっても・・・政策的スタンスは基本的に変わらない」(9月14日)と述べ、翌15日に、日本経団連は文書「新内閣に望む」を発表しました。そこにあげられた10項目は、私なりにまとめると次のようになっています。
①経済危機からの脱却と何よりも大企業の成長力強化の支援を。
②社会保障の市場化・民営化をすすめながら消費税の増税を。
③もうけの自由を拡大する規制改革・民間開放の推進。
④低炭素・循環型社会の形成はあくまで産業の国際競争力強化と並行して。
⑤温暖化中期目標については財界の要望を聞いて。
⑥公徳心をもち個性ある人材を育てる教育改革を。
⑦形だけの雇用のセーフティネットの強化と様々な非正規雇用のさらなる拡大を。
⑧道州制の推進で大企業にとって魅力ある地域経済圏の確立を。
⑨グローバル競争に勝ち抜く大企業のための通商政策を。
⑩戦略的な外交・安保政策の推進と憲法改正に向けた合意の形成。
驚くほど自己中心的な内容です。毎日たいへんな思いで暮らしている若い世代への配慮は、まったくどこにも見えません。非正規雇用の拡大や消費税増税などは、みなさんの現在と未来への不安をただちに大きくするでしょう。それは、私の子どもにとっても同じです。
こうまで身勝手な要求をならべる団体が「公徳心」――社会生活において道徳を重んずる心――を教育の現場に求めることには、本当にあきれてしまいます。まっとうな教育を受けなおすべきは、どう見ても財界団体の方でしょう。
〔財界との綱引きにさらに力をこめて〕
資本主義社会の政治の基本は、財界と国民との綱引きによって決まっています。2008年の「政策評価」で日本経団連は、自民党を高く評価する一方、民主党には「責任政党」としての姿勢が見えないという批判の声をあびせていました。
しかし、国民は財界お気に入りの自民党を政権から退け、財界が一定の批判を加える民主党をその座につかせました。そこには明らかに、財界に対する国民の一歩前進があらわれています。
ですが、私たちは、それで安心してしまうわけにはいきません。選挙の後も綱引きはつづいており、財界はいま懸命な巻き返しをはかっているからです。
鳩山新政権の姿勢と政策は、両者の力関係に大きく左右されるものとなっています。それだけに、正規雇用の拡大に向けた労働者派遣法の改正、最低賃金の引き上げ、教育予算の拡充など、政府に私たちの要望の声をとどけることはきわめて大切になっています。
私たちには財界のような経済力はありません。しかし、財界にはない社会の多数者としての力、そして多数者の利益を求める正義があります。その力をしっかり発揮するために、みなさんには大いに学び、大いに行動していただきたいと思います。
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