以下は、日本民主青年同盟「民主青年新聞」2009年11月9日、2754号に掲載されたものです。
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第2回「財界中心の経済をどうコントロールするか」
前回は、日本経団連や経済同友会などの財界団体が、生活の改善や安定を求める私たちの願いに正面から対立していることや、選挙の終わった今も、財界との綱引きにますます力を込めることが必要だといったことを書きました。
第2回の今回は、もう少し歴史を大きく見て、そうした綱引きがこれまでに資本主義の姿をどのように変えてきたのか、さらにこれからの歴史をどう変えていく可能性をもっているかについて考えてみましょう。
〔労働者たちが闘いとったバリゲード〕
資本主義のこれまでの歴史は、労働者や国民が財界・大企業にいためつけられるだけのものではありません。財界との綱引きの中で、私たちの先輩は、資本主義の姿を大きく変える実績をつくってきました。
それは資本家たちの金もうけ第一の行動に、人間らしい暮らしを守る社会的なルールをあてはめるというものです。
少し時代はさかのぼりますが、資本主義の経済社会が最初に成立したのは、1820~30年代のイギリスでのことでした。「産業革命」をつうじて機械制大工業が確立し、労働者の地位は機械の付属物であるかのようにおとしめられます。
それによって、資本家が、不当な首切りや劣悪な労働条件などを一方的に押しつける、労働者への経済的な支配が確立したのです。
労働者を守る法律など、まだひとつもない中で、資本家は昼も夜も機械をフルに動かし、労働者に大変な長時間労働を強制しました。犠牲となったのは大人の男性だけではありません。女性も、少年や少女も、さらには小さな子どもたちまでもが、安い賃金で奴隷のように働かされました。そうした中で、労働者は労働組合をつくって抵抗を開始します。
闘いはジグザグをふくむ長いものでしたが、1848~50年になって、労働者たちはついに10時間労働法を勝ち取ります。これは、それまでの資本家やり放題の「ルールなき資本主義」に、労働者の人としての尊厳を守る「ルール」をあてはめた、歴史的な最初の成果でした。
マルクスはこの10時間労働法を『資本論』の中で、労働者たちを守る「社会的バリゲード」と呼んでいきます。
〔資本主義に「ルール」をつくる改革の前進〕
その後の歴史の中でも、労働者たちの闘いはすすみ、こうしたルールの拡充が進んでいきます。
1917年のロシア革命で、世界に初めて誕生した社会主義をめざす政権は、ただちに8時間労働制や社会保障を宣言しました。
その後の政権と社会の変質により、これらは充分には実行されませんでしたが、それでも、ドイツのワイマール憲法(1919年)に世界ではじめて国民の「生存権」を盛り込ませ、世界各国の労働条件や生活水準の改善を推進するILO(国際労働機関)の創設(1919年)に強い影響を与えるなどの歴史的役割をはたしました。
また1936年に、反ファシズムや反帝国主義などをかかげて成立したフランス人民戦線政府のもとで、全産業にまたがる労働組合の全国組織が全国的な財界団体との交渉を行い、労働条件を大幅に改善する「マティニヨン協定」を勝ち取りました。
バカンスと呼ばれる長期の有給休暇(最初は年2週間、現在は5週間)が、はじめて獲得されたのはこの時のことで、有給休暇の制度はその後、世界に広がりました。
さらに第二次世界大戦が終了する1945年に誕生した国際連合は、その後、世界の平和秩序づくりをめざすだけでなく、社会経済理事会の活動を中心に、人権擁護の国際的な取り組みをすすめていきます。
こうしていくつかの大きな節目をつくりながら、私たちの先輩たちは、金もうけの欲求を野放しにした「ルールなき資本主義」を、より人間らしい社会を目指す「ルールある資本主義」へと、段階的につくりかえてきたのです。
それらのルールが強められる中で、資本主義の経済と社会はより豊かで多面的な発展を遂げました。財界・資本家中心の経済を、「人間らしい労働と生活」を基準にコントロールするためには、何よりもこうした労働者・国民の闘いの力が必要だったのです。
〔人権意識の成熟で日本にも「ルールある資本主義」を〕
しかし、日本にくらす私たちには、このルールの成果がなかなか実感できません。それは日本社会が、特にこの改革の最先端をいくEU諸国と比べて、はるかに立ち遅れた「ルールなき資本主義」にとどまっているからです。
日本の社会に、他の発達した資本主義国には考えられないような非人道的なこと――過労死、サービス残業、女性差別、悪質な非正規切りなど――が起こるのはそのためです。
このような日本社会の遅れの背景には、世界がロシア革命や「マティニヨン協定」の前向きの影響を受け取っている時に、侵略戦争に向けて労働運動や民主的な運動が徹底的に弾圧されていったという独自の歴史的な経過があります。
また戦後についても、多くの先駆的な内容をふくんだ日本国憲法の制定にもかかわらず、それが必ずしも充分な国民の人権意識の成熟にもとづくものではなかったという事情もありました。
たとえば、EUと日本の労働時間の格差はきわめて重大です。日本の年間労働時間が2200~2300時間(サービス残業込み)であるのに対して、フランスやドイツは1500時間程度となっています。その差は年に700~800時間となり、年250日はたらくとすれば、毎日3時間の違いとなっています。
人間が人間らしく生きるには、音楽や芸術に親しみ、スポーツを楽しみ、あるいはからだを休め、家族との時間を大切にするといったことが不可欠ですが、そのために必要な生活のゆとりがまったく違うのです。
そこには「人間らしさ」を基準とした社会の成熟度の相違が、はっきり表れているといっていいでしょう。
もちろんEU諸国にも解決すべき問題はあり、より人間らしい社会づくりを目指す改革は、終わることなく今後もつづいていくものです。
私たちは、こうした資本主義の改革とそれをなし遂げてきた人間の成熟の歴史によく学び、「ルールある日本づくり」の展望をしっかりもっていかねばなりません。
国民が「財界いいなり」の自民党を政権の座から退かせ、新しい政治を模索している日本政治の現状は、こうした大きな視野からとらえる必要があるのです。若いみなさんの学びの深まりと、行動の発展に心から期待をしています。
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