以下は、日本民主青年同盟「民主青年新聞」2010年8月30日、2793号、第4面に掲載されたものです。
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いまマルクスがおもしろい
神戸女学院大学教授 石川 康宏
働き方や学費、平和、貧困… 不満や気になることはあるけど、自分に何ができるの?――より良い社会を作ろうと現実と向き合ったマルクスの探求を学び、私たちの生き方や社会との関わり方を考えます。(7回連載)
みなさん、こんにちは。これから7回の連載で「いまマルクスがおもしろい」を書いてみます。一緒に楽しく学びましょう。
学ぶことはおもしろい
「マルクスを読もう/読まなくちゃ」というのは、みなさんよく聞かされることですよね。しかし、そういうふうに「強制」されると、どうも読む気になれない、そんな人もいるかも知れません。確かに「読もう」「読みなさい」「読むことが必要」なんて言われてしまうと、せっかくの学びも義務のようになってしまいます。それじゃあ、楽しくありませんよね。
「楽しくない学び」って、じつはとてもおかしな言葉なんです。だって、学ぶっていうのは、本質的に楽しいことですから。
小さいころに、日が暮れるまで外で遊んでしまい、家に帰ってから大人にしかられた。ぼくにはそんな経験が何度もあります。何をして遊んでいたのかまでは覚えていませんが、でも、その時の遊びが、ぼくにとって「時間を忘れるくらいに楽しい」ことであったのは確かです。本当は勉強も同じなんですよ。一度やりだしたら、そう簡単にはやめられない。そういうおもしろさに満ちたものなんです。
みなさんの中には、そういうおもしろさを体験したことがないという人もいるでしょう。確かに、いまの学校の勉強では、それが体験できる機会は多くないかも知れません。でも、例えばテレビで「恐竜の誕生」とか「宇宙の起源」とか「古代の遺跡」なんて番組を、ワクワクしながら見たことがある、そんなことは、割りとしょっちゅうあるんじゃないですか。それですよ、それ。そのワクワクが、本当の学びのおもしろさです。
ぼくなりに、そのおもしろさを分解してみると、中身の一つは「ああそうだったのか」「えっ、ホント?」「なるほどそんな見方もあるんだね」といった、興味深い新発見。もう一つは、その出会いを通じて、社会や自然を見る自分の目が豊かになることのおもしろさ。
つまり、新しい知識にワクワクして、次に、その知識の目線でまわりを見ることができるようになる自分の育ちにワクワクする、ということです。自分の育ちの実感が、楽しくないわけがありません。これこそ学びのおもしろさ。ぼくはそんなふうに思っています。
この連載では、そんな意味での「マルクスのおもしろさ」を、できるだけたくさん伝えたいと思います。
生きる「自信」を身につける
マルクスそのものに入る前に、今回は、学びについて思うところを、もう少し書いておきます。
今年の4月に、民青同盟の「科学の目」講座で、「学生時代にこそマルクスを」というテーマでしゃべりました。
「学生時代」と「マルクス」を結びつけたのは、講座を主催するみなさんでしたが、はて、これをどうつなげてみたものか、その点について考えたぼくなりの答えは、こんなふうになりました。
「マルクスは、この社会を生き抜く自信を与えてくれる」
少し説明がいりますね。
いまの社会には、生きづらいところがたくさんあります。就職先が少なすぎる、あっても非正規で給料が安い、学費が高すぎる、家族や友人関係がうまくいかない等々。ぼくの大学の学生たちを見ても、ぼくの子どもたちを見ても、いまの若い人は大変だなあと思います。
でも、そんな生きづらさがあるからといって、この社会に押しつぶされ、生きる元気を失ったのではつまりません。社会の水が少々汚くても、いやな魚がいたとしても、その中をうまく、したたかに泳いでいかねばなりません。
では、そのしたたかさはどうやって身につければ良いのでしょう。
「気の持ちよう」や「から元気」も少しは役に立ちますが、それだけでは力は続きません。もっと中身のあるものが必要です。それは「いまはこの生き方でいいんだ」という自分の生きる道に対する自信じゃないかと、ぼくは思ったのです。
そして、その「自信」を身につけるためには、一つには、自分が生きている社会のしくみを知ること、二つには、社会と自分のかかわりを考えること、三つには、これからの自分の成長に希望を持つことが必要で、その三つをまとめてガツンと教えてくれるのが「マルクス」なのだと、そんなところに行き着ついたのです。
この講演は、同じタイトルで日本共産党の『前衛』という月刊誌の8月号に掲載されましたから、興味のある方は、読んでみてください。半分くらいは、スラスラいけると思いますよ。
それでマルクスって、いったい誰?
いろいろ書いてきましたが、かんじんのマルクスの紹介が、まだでしたね。今回は、それを少しだけやって終わりにします。
マルクスのフルネームは、カール・マルクスです。日本風にいうとマルクスが苗字、カールが名前です。子どもの頃は、マルクスさんちのカールくんだったわけですね。1818年にドイツに生まれ、1883年にイギリスで亡くなりました。
「何者ですか」と問われれば、「革命家ですよ」というのが、もっとも適切な答えです。
マルクスが活躍したのは、資本主義の経済が急速に発展しはじめ、それと一緒に、働く労働者の苦難が一斉にふき出す時代のことでした。その中でマルクスは、経済の発展はけっこうだけど、みんなの貧困はなんとかしなくちゃ、そう考えて、資本主義のしくみや社会の歴史を研究し、政治や経済を改善していく労働者の運動にとりくんだのです。
その研究や運動は、21世紀の現在も大きな意義と影響力を持っています。
マルクスは革命家です。だからこそ「マルクスのおもしろさ」には、「いまの社会はどうなっているか」だけでなく、「いまの社会はどうかえられるか」、さらに「そういう社会をどう生きるか」についての重要な問題提起が含まれます。それが「マルクスのおもしろさ」の大切な柱になっていくのです。
では、詳しいことは次回から。
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