以下は、新日本婦人の会「新婦人しんぶん」2010年12月2日、第2869号、第5面に掲載されたものです。
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第9回・『資本論』とジェンダー問題
連載第4回に、論文「マルクス主義とフェミニズム」(2003年5月)を紹介しました。翌2004年から、ゼミで「慰安婦」問題を学びはじめるわけですが、その間にも、私はマルクスとジェンダー論といったテーマへの挑戦を、少しずつ続けていました。
論文「『資本論』の中のジェンダー分析--『マルクス主義フェミニズム』との関わりで」を、哲学者の鰺坂真先生が編集した『ジェンダーと史的唯物論』(学習の友社)に収めたのは2005年12月のことです。
「マルクス主義フェミニズム」との対話
この論文では、A・クーン/A・ウォルプ編『マルクス主義フェミニズムの挑戦〔第二版〕』(勁草書房)を取り上げました。訳者の上野千鶴子氏によれば、これは英米におけるマルクス主義フェミニズムの「古典」とされているものです。
読んでみると、それはマルクスを「女性解放の理論」のために、前向きに活用しようとするものですが、マルクスへの理解については、いくつかの問題を感じさせられるものでもありました。そこで、フェミニズムにとって魅力的なマルクス主義の理論的解明を提示すべきはマルクス主義の側である、という立場から、それらについて私なりの理解を示してみようと思ったのです。
とりあげたのは、①マルクスは「家族賃金思想」(成人男性が家族を養う賃金を受け取るべきだとする思想)の持ち主だったのか、②『資本論』は家族や家事労働を分析していないのか、③労働時間の短縮で女性を優先したのは「家族賃金思想」のためだったのか、という問題です。これは、マルクスを「ジェンダー・ブラインドだ」(ジェンダー問題が見えていない)と批判する人たちが、いつでも共通してあげる基本問題でした。
『資本論』を読み返して
それに対する私の回答はこういうものになりました。
①マルクスは女性や子どもの労働による世帯収入の複数化を積極的に分析しており、「家族賃金思想」をどこにも展開していない。②資本主義は、労働者の体力の回復と未来の労働者である子どもの育成を不可欠とするが、そういう資本主義の再生産という角度から『資本論』は家族や家事労働を理論の内側におさめている。③マルクスは女性の労働参加を社会発展に必要な要素ととらえており、同時に健康と自由の拡大のために、男女共通の8時間労働を主張した。
これらの結論にいたる道はなかなか大変でした。こうした角度からの先行研究がほとんどなかったからです。マルクス主義(科学的社会主義)にはまだまだ発展の余地があると実感させられました。
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