以下は、「しんぶん赤旗」2011年5月7日、6面に掲載されました。
小見出しは編集部がつけてくれたものです。
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「大震災と日本経済の課題/識者に聞く/第12回/神戸女学院大学教授石川康宏さん/被災者が描く復興こそ」
東日本大震災の復興について3つの問題を指摘したいと思います。
一つ目は、東北地方の復興策として日本経団連や経済同友会など財界が発表している提言ですが、内容は「復興」の名目で震災前からの要求を全面実施しようという罪深いものになっています。これには厳しい批判が必要です。
消費税増税を柱とした税・財政の一体改革、大企業支援の新成長戦略を継続し、さらに規制緩和や特区制度などの優遇措置で、東北を国際競争力のある「経済圏」にするといっています。そこには被災者の苦しみや生活再建の苦労に心を寄せる姿勢はありません。
復興財源のために高校授業料無償化、子ども手当て、農家への所得保障などを削れと主張し、原発推進政策については再検討さえしていません。輸出製造業の利益と引き換えに、農林漁業を破壊する環太平洋連携協定(TPP)への加入を、震災後にも強調しています。
財界のいう「経済復興」は大企業の利益の復興ですから、「被災者の生活の再建」「人権の復興」をしっかり対置していくべきです。
〈「阪神」の再検証〉
二つ目に、阪神淡路大震災の復興過程をあらためて検証することが必要です。私は震災の年から兵庫県内ではたらいていますが、行政が実施した「創造的復興」は、震災以前からの大企業の要求を次々実行するものでした。その復興委員会の活動を踏まえるとして「東日本大震災復興構想会議」がつくられ、そこでただちに「創造的復興」が語られていることには強い警戒が必要です。
大都市神戸でさえ、幹線道路沿いの大きなビルとは対照的に、路地に入れば空き地がたくさん残っています。住民生活の再建が二の次、三の次とされた結果です。「阪神淡路の教訓」とは何なのかを、あらためてはっきりさせることが必要です。
〈復興はたたかい〉
三つ目に、日本経済の前途については、復興の理念と手順をはっきりさせれば、あるべき姿もおのずと見えてきます。理念は、被災者の生活再建が日本経済の最大の使命だということで、手順は再建の具体的な内容は被災者自身が決めるべきものだということです。
憲法13条は国民の幸福追求権を「国政の上で、最大の尊重を必要とする」ものと定めています。被災者の幸福の追求を、国政は全力をあげて追求せねばなりません。全国民がそれを求めるべきです。
財界・政府は道州制で住民自治のさらなる解体を進めようとしていますが、反対に被災者のコミュニティを守り、それを復興の主体とする工夫が必要です。上からの「おしつけ復興」でなく、「被災者が描き、行政が実現する復興」としていかなければなりません。
その過程で、大企業は身銭を切るべきです。いかに資本主義といえども企業は人のためにあるのであって、企業は人間の幸福を実現する手段でなければなりません。それを政府は財界に正面から求めるべきです。労働者・下請切りなどあってはなりません。
「復興はたたかいだ」というのが震災後16年をへた兵庫での実感です。
(聞き手 中川亮)
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