以下は、「しんぶん赤旗」2011年8月14日、第5面に掲載されたものです。
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わかりやすく、意欲育てる
平野喜一郎著『入門講座「資本論」を学ぶ人のために』
『資本論』全3部を視野におさめた、本格的でコンパクトな入門書の出版は久しぶりのことだと思う。
私の若い頃にはその手の文献がいくつもあり、「あれを読んだか」「あれとこれとここの理解が違う」など、ずいぶん背伸びをしながら話し合ったものだった。
多くの人が手に取りやすいこのような書物の出版は大歓迎である。
著者はこの本をわかりやすくするために、重要な個所とわかりにくい個所に解説をしぼり、マルクスの方法にしばしば言及し、理論と現実のつながりを示すことに重きをおいたと述べている。
簡単ではない課題ばかりだが、いずれも成功をおさめている。
全10回の講座は第1部の解説に7回、第2部と第3部に1回ずつをあてるものとなっており、スミスやリカードとマルクスの関係を述べた「『資本論』の源流」が締めくくりに置かれている。
さらに、その前後にマルクス経済学の魅力を論ずる「序」と「弁証法の学習のすすめ」という補論が配されている。
私は『経済学と弁証法』(1978年)以来、著者、平野氏の読者だが、今回は特に「源流」に述べられた総括的な議論に、教えられるところが多かった。
平野氏の研究には『資本論』の内部に分け入るだけでなく、他の思想家との比較によってその特徴を明らかにする視野の広さがある。
それはこの本でも、ヘーゲルとの異同が論じられる方法論、古典派経済学との対比が重視される学問の立場と階級性、思想と科学の結合などの論点に、わかりやすく、しかも内容豊かに示されている。
資本主義社会の仕組みを根本からとらえることは、現代日本の市民にとってますます重要な教養である。
『資本論』に挑む意欲を育てるものとして、大いに読まれ、論じられることを期待したい。
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