以下は、全国商工団体連合会『全国商工新聞』2013年5月27日、3072号、第7面の「視点」欄に掲載されたものです。
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歴史誤認し人権感覚喪失/公職をいますぐ辞すべき
橋下氏の「慰安婦」発言
※上の見出しは編集部でつけてくれたものです。
もともとの見出し案は「『慰安婦』必要、『風俗業』活用
/歴史への無知と異様な人権感覚」でした。
5月13日、大阪市役所への登庁時の囲み取材の中で、橋本市長(「日本維新の会」共同代表)は、次のように述べました。
「当時、慰安婦制度というのは世界各国の軍が持ってたんですよ」「銃弾が雨嵐のごとく飛び交うなかで命かけて、そこを走っていくときにね。それはそんな猛者集団といいますか、精神的にも高ぶっているようなそういう集団は、やっぱりどこかで、まあ休息じゃないけれども、そういうことをさせてあげようと思ったら慰安婦制度というものが必要なのは誰だってわかるわけです」。
批判すべき点は他にもたくさんありましたが、ここでは右の箇所に限定しておきます。
「慰安婦」というのは、かつての戦争の中で、日本兵の性欲を満たすために、軍と政府の方針によって「慰安所」に閉じ込められ、長期にわたってレイプを繰り返された女性たちのことです。
「慰安」というのはレイプする側の目線を表す言葉なので、国際社会では「慰安婦」は「性奴隷」、「慰安所」は「レイプセンター」など呼ばれています。
橋下氏の今回の発言ですが、これは、第一に、男性による戦争遂行の道具として女性の性が「必要」だったと公然と言い放った点で、最近の様々な「慰安婦」制度肯定論者の中でも、きわめて特異なものになっています。
「慰安婦」制度について大規模な調査を行い、それにもとづいて日本政府が発表した「河野談話」は、本人の同意なしに「慰安婦」とされた女性が数多くいたことを認めていますが、橋下氏はそうした女性の苦しみに、一度でも思いを寄せたことがあるのでしょうか。
第二に、橋下氏は、「慰安婦」制度は世界各国にあったと言っていますが、これは歴史に対するまったく初歩的な事実の誤認です。
学生のレポートなら「もう一度きちんと調べて来なさい」となるところです。兵士による戦場でのレイプはどこの国にもあったでしょう。しかし、当時、軍や政府が公的方針をもってレイプの施設を大々的につくったのは、大日本帝国とナチス・ドイツの例しかなく、特に広範な兵士に向けての組織としては日本にしかありません。
問われているのはそうした国家としての犯罪です。
20世紀の前半は売買春をなくす取り組みが、欧米諸国で大きく進んだ時代でした。日本が行ったのは、その世界史の流れに逆行し、当時の国際法に照らしてさえ犯罪と認定される行為だったのです。
橋下氏にはこうした歴史を学ぶ意志はないようです。
しかし橋下氏の驚くべき発言は、これだけでは終わりませんでした。同じ日の退庁時の囲み取材で、今度は次のように述べたのです。
「普天間にいったときに(米軍の)司令官に、もっと風俗業を活用してほしいと言った」「そういうところを活用してもらわないと海兵隊の猛者の性的エネルギー、きちんとコントロールできないじゃないですかと」。
これは先に見た日本兵の高ぶりを女性の肉体で解消する「必要」があったというのと、まったく同じ理屈です。
結局、過去であれ現在であれ、日本軍でも米軍でも、兵士には性の道具として女性をあてがうことが必要だというのが橋下氏の考え方だということで、ここには彼の深刻な女性蔑視の思想があらわれています。
その後、橋下氏はツイッターや記者会見で「いい訳」や「開き直り」に注力していますが、事柄の本筋に対する反省はありません。
このような人物に公党の代表や市長をつとめる資格はあるのでしょうか。
またこのような人物を代表にすえる「維新の会」に、国民を代表する資格はあるのでしょうか。
私は関西の仲間たちと相談して「すべての公職をいますぐ辞する」ことを要求しました。多くの人が、いまこそ正面からしっかり考えるべき問題です。(5月16日記)
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