以下は、5月26日の神戸女学院大学のチャペルアワーで
お話させていただいたことの元原稿です。
タイトルは、いまここでつけたものです。
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おはようございます。
先週、土曜日に愛校バザーが行われました。
その前日の創立者記念日の礼拝では、飯先生から、これが、当時の日本政府によって行われた宗教教育の禁止、キリスト教教育の禁止に対する抵抗の意味を含んで、1911年に始められたものだというご案内がありました。
その後も、外に向けては侵略、内に向けては専制の道をすすんだ戦時の社会の中で、この学院が経ねばならなかった多くの試練については、多くのみなさんがご存じのとおりです。
さて、ことがらの出発がそのようなものであれば、愛校バザーとこれに前後する「愛校週間」は、いまなおこの学院が、果たしてそのようにして守るべき価値に十分満たされ、それにふさわしい社会的役割を果たし得ているのかどうかを、あらためて振り返るよい機会とされるべきものではないかと思います。
18才人口の一層の減少という展望の中で、大学運営を維持し発展させようとする努力は不可欠です。しかし、それは、本学の初心を損なうことなく、逆に、これを充実させる努力とひとつのものとされねばなりません。
飯先生は、大学ホームページの「学長メッセージ」で「開学以来のキリスト教主義に基づく教育理念」を「双方向的な『リベラルアーツ&サイエンス』、情報の垂れ流しではない相互受容と尊重を目指す『国際理解』、個々の出会いを大切にする『少人数制』、人間としての解放を促す『女性教育』」とまとめられています。
学生たちの受験から卒業までに関わる大学運営のあらゆる努力は、これらの具体的な推進とひとつであらねばならないということです。
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さて、このように問題を立てる時、いまの社会には憂慮すべき深刻な問題がいくつも見られます。
直接に大学のあり方にかかわるところをあげるならは、「学校教育法および国立大学法人法」の改定案が国会で審議されています。
戦前・戦時の軍国主義教育への反省から、戦後の大学には、国の干渉を受けることなく自由な研究・教育を行うための「大学の自治」が保障されました。
その制度的な基盤とされたのは、研究と教育を担う教員自らが、大学の運営に参加するということです。
学校基本法の第93条は、「大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない」「2 教授会の組織には、准教授その他の職員を加えることができる」となっています。
これは「学問の自由は、これを保障する」と、憲法第23条がわずか15文字で記した国民の新しい権利の土台となるものでした。
しかし、現在、国会に提出されている改定案は、この箇所を「教授会は学長が必要と認めるものについて意見をのべる」と変更するものになっています。
教授会は「重要な事項」についての「審議」の権限を失い、学長の単なる諮問機関とされるのです。
たとえば、学生の成績評価にもとづく卒業や処分、教員の業績評価や昇任、教員採用などの人事、学部長などの選任、教育研究費の配分、カリキュラムの編制や学部・学科の設置と廃止などが、学長によって専断的に決められるものとなります。
中には、それによって、好きな研究と教育に没頭できるならありがたいと言われる先生もおられるかも知れませんが、どの研究にどれだけの予算をつけ、どういうカリキュラムで教育するかを審議する教授会全体の権利が失われる時に、一人自分の権利だけが守られるとするのは、お人好しの夢想という他ありません。
「学問の自由」と「大学の自治」はメダルの裏表であり、「大学の自治」が損なわれたところに「学問の自由」だけが残るということはなく、本学もその例外とはなりえません。
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そのことをはっきりと示しているが、今回の法改定の火付け役となってきた経済界からの提言です。
財界総本山とも呼ばれる日本経団連は、13年12月17日の提言「イノベーション創出に向けた国立大学の改革について」で、国立大学における「教授会が『決定機関』でなく、学長判断が教授会の意見に拘束されないことを再確認」せよとしました。
私立大学に関する提言を行ったのは、財界のオピニオンリーダーを自認する経済同友会です。
12年3月26日の提言「私立大学におけるガバナンス改革」は、第3章「大学ガバナンス改革・10の提言」の2番目に「学長・学部長の権限の強化」をかかげ、3番目の「教授会の機能・役割の明確化」で、「教授会の本来的機能・役割」は「学長、学部が現場を担当する教授たちの意見を聴取する機会を提供すること」だと述べ、「教授会は学長の諮問機関的な役割を担っているとも言える」と書きました。
こうした大学改革の目的を、提言は、産業界の競争力強化に貢献する大学づくりと、きわめてあけすけに述べています。
個別の企業が担う経済的な競争力の強化に貢献すると、経済界に判断された研究・教育だけが重視され、その眼鏡にかなわぬ研究・教育は重視されなくなるということです。
提言は学長の強いリーダーシップを繰り返していますが、本来、学長のリーダーシップとは、飯学長が日頃から重視されておられるように、学内に様々な意見がある中で、全学的な合意を形成する能力や資質をこそさすべきものではないでしょうか。
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このような「大学の自治」の破壊への動きが、本学の建学の精神にかなうものでないことは明らかです。
それは、いかなる信仰的・世俗的権威からも、いかなる教理的信条にも拘束されることなく、「共に集まれるもの」すべての信仰や行動を尊重するとする、本学の会衆派のキリスト教精神にも合致するものではありません。
こうした政治の動きに対して、黙して語らぬ姿勢をとることは、キリスト教教育の禁止に抗して行動し、戦後の新しい時代の中で、その取り組みの先駆性を実証してみせた本学の歴史と精神に、果たしてかなうものといえるでしょうか。
全国の大学関係者は、すでに様々な行動をとっています。
4月7日に、本学名誉教授の内田樹先生や京都造形芸術大学の現役の学長をふくむ11名の方の「呼びかけ」で開始された「学校教育法改正に反対するアピール署名」には、大学教員や学生、院生、関係者を中心に5000人以上の名前が寄せられています。
同じ署名は、本学の教職員組合が加入する私大教連も積極的に推進しています。
しかし、これに、お名前を公開して署名している本学関係者は今のところ1人の学生をふくめて3名のみとなっています。
神戸女学院大学のミッションステートメントは「時代の潮流に流されること」のない学生を育てることをひとつの課題としていますが、現在は、悪しき時代の潮流に抗する力の発揮を、大学を構成する私たち全員があらためて求められる時代となっているのではないでしょうか。
ぜひみなさんにも、一度、時間をとってよく考えていただきたいところです。
今日、この機会を与えていただいたことに感謝します。
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