テキスト第6章「ゆらぐライフコース──少子化とジェンダー」を読む。05年の日本の特殊合計出生率は1.25で,統計史上最低の数値。人口維持には2.1程度の率が必要だが,これを長く割ってきた日本は05年から人口減少社会となっている。
その理由を女性の社会進出に求める議論があるが,国際比較をすれば,むしろ日本・イタリア・スペインのように専業主婦比率が高い国で出生率が低い。逆にノルウェー・フィンランド・スウェーデンなど女性労働力率が高い国(専業主婦比率の低い国)の方が出生率が高くなっている。
問題は女性の社会進出の程度ではなく,出産と子育てを支える社会的支援の手厚さの相違にあるわけである。他方,97年をピークとしたサラリーマン賃金の低下の中で,専業主婦志向の強さは,むしろ未婚・晩婚化を促進する役割をはたしている。
「男が仕事,女が家庭」という近代家族の制度は,この制度に照応した「望まれる男性・女性」の像をつくり,これを「魅力ある人間(異性)」として感情のレベルに内面化する。小5・中3の子どもたちへのアンケート結果に,すでに成人男女と同様の魅力ある異性に対する判断基準があらわれている。大人文化の子どもたちへの浸透である。
80年生まれの人は生涯結婚率80%,生涯離婚経験率30%といわれるが,はたらくかどうか,結婚するかしないか,離婚するかしないかなど,女性のライフコースは多様化している。安全パイといえるライフコースが存在しない社会においては,各人が独立して自分の人生の戦略をもたねばならない。学生時代はその戦略を考え,実行を開始する時期となる。
補足として,少子化問題の大きな背景を考える。地球人口は歴史を追って増加率を増してきた。増加率が上昇した時期は,①人類の祖先がアフリカからユーラシアへ進出した時期,②農業を開始した時期,③先進国で人口転換が起こった時期,④途上国で人口転換が起こっている現在の時期にわけられる。
人口転換とはそれ以前の「多産多死」社会から「少産少死」社会への移行期に「多産少死」社会が一時的に形成されることをいう。今日の世界は人口転換をすでに終えた先進国では少子化が問題になるが,途上国では人口爆発が問題となっている。両者の時期のズレは,資本主義化(栄養の安定,医療の浸透)の時期の相違を反映している。
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