以下は,保育研究所『保育情報』(全国保育団体連合会)10月号,№359の「巻頭随想」として掲載されたものです。
--------------------------------------------
〔巻頭言〕 「慰安婦」と出会った女子大生たち
2006年8月20日
神戸女学院大学・石川康宏
http://walumono.typepad.jp/
私の本業は経済学ですが,最近は「慰安婦」問題での仕事がふえています。歴史の先生の前で話をしろといわれて困ることもあるのですが,ご要望の多くは「いまどきの女子大生と,『慰安婦』問題というややこしい問題をどうやって学んでいるのかについて話せ」ということです。確かにこれ(より正確には日本軍性奴隷問題)は,①直接には60~70年も昔の出来事で,②アジア人への加害や蔑視をふくんだ,③日本軍による継続的なレイプ制度の問題ですから,若い女性に取り上げやすいテーマではありません。
とはいえ,私たちの学びの実際は『ハルモニからの宿題』(冬弓舎,2005年)と『「慰安婦」と出会った女子大生たち』(新日本出版社,2006年)という2冊の本にまとめたとおりです。多少の特徴をあげるなら,①毎週のゼミが5時間と長いこと,②どんな文献も疑ってかかるという学びのスタイルを追求していること,③学生各人が調べてきたことの報告に多くの時間をとっていること,④侵略と加害を記録した証言ビデオなど各種の映像を活用していること,⑤韓国などで実際に「被害者」の証言を聞く機会をもっていること等でしょうか。
「ゼミが5時間ですか」と驚かれることも多いのですが,中学・高校でほとんど近現代史を学んでいない学生が,「慰安婦」はあった/なかった,「南京大虐殺」はあった/なかったと,大きな「見解の対立」のある問題にそれぞれなりに納得のいく答えを出そうとすれば,それくらいの時間はどうしても必要になってきます。また「よく学生がついてきますね」といわれることもありますが,事実を学生たちが自分で探しはじめれば,教師が引っ張る必要はまったくなくなります。「それはホント?」「根拠は何?」と,私は学生たちの報告に際限のない「ツッコミ」を繰り返していけばいいだけです。
ただし,1つだけしっかり話し合う必要があると思っているのは,「『慰安婦』問題と私」というテーマです。罪を犯したのは「昔の日本人」だが,その罪に知らぬ顔を決め込む今の政府をつくっているのは「私をふくむ今の日本人」。この点の理解が抜けると,どんなに歴史の事実を勉強しても「『慰安婦』の人はかわいそうだけれど私には関係がない」という判断が生まれる余地を残すことになってしまいます。
この頃は「学生さんに話をしてもらいたいのですが」という講師依頼も入ってくるようになりました。若い彼女たちの活躍ぶりに,今後も大いに注目です。
最近のコメント