渡辺治『構造改革政治の時代-小泉政権論』
--現状分析と大胆予測との格闘--
神戸女学院大学・石川康宏
http://web.digitalway.ne.jp/users/walumono/
軍事大国化や「構造改革」と正面から闘う政治学者による論文集です。2002年から05年に書かれた収録論文はいずれも,小泉政治の後追い的な分析ではなく,現状からその後の展開を大胆に予測し,これにどう対抗すべきかという闘いの方向を示したものとなっています。その意味で「『構造改革』政治の同時代史的分析」である本書は,著者自身の闘いの記録ともいえるでしょう。時々の「格闘」の跡を「見通しの正しさも誤りも」そのまま収録することに意味があるとする点に,学問と政治に対する著者の誠実さと勇気がよくあらわれています。
長文の書き下ろしである「9・11総選挙の結果と小泉政治の新段階」を序章に,つづく「戦後国家の転換――小泉政権の歴史的意義」「グローバル軍事大国への道」「構造改革政治の検証――教育改革,司法改革をめぐって」「保守二大政党制から憲法改正へ」の全4部に,計12本の論文を配したものとなっています。
総論でもある序章は「構造改革」の小泉段階を,①直接的な企業支援をはかる「広義構造改革」,②意思決定の上での経済財政諮問会議のフル活用,③軍事大国化の完成への接近と3つの角度から特徴づけ,また総選挙後の小泉政治の新たな焦点を,①医療分野など企業負担の一層乱暴な軽減,②多国籍企業支援のための三位一体改革や公共部門のスリム化,③憲法改正の加速化とまとめ,ますますの危険な方向に強く警鐘を鳴らすものとなっています。
ただ一点,軍事面で語られるアメリカへの追随が,「構造改革」では論じられないところに物足りなさを感じますが,政治と社会を憂う多くの人々に状況理解と打開の指針を示し,すでに取り組みに力を込めている人たちには,強い励ましを与えるでしょう。
社会改革に向けた著者の気迫にも多くを学ぶことができる一冊です。
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