なぜ政府は社会保障にお金をかけないのか?
--世界一の公共事業が……経済もアメリカいいなりに--
神戸女学院大学・石川康宏
http://web.digitalway.ne.jp/users/walumono/
▽先進国にない「逆立ち財政」
どうして日本は社会保障にお金をかけないのか?
それは、世界で一番たくさん公共事業にお金を使って、社会保障にかけるお金がなくなっているから。いわゆる「逆立ち財政」です。こんなふうに社会保障費より公共事業費の方が多いという先進国は、ほかにはどこにもありません。
このおかしな財政をつくるうえで、アメリカが大きな役割を果たしています。日本経済への介入です。それまでは「大いにアメリカに輸出しろ」といっていたのが、一九七〇年代後半には「アメリカへの輸出を控えて内需主導型に変われ」といい出します。
この「内需」を、自民党政府はすべて大型公共事業に結びつけました。七九年にはゼネコンなどが集まった「日本プロジェクト産業協議会」がつくられ、質より量の「無駄と環境破壊の大型公共事業」が本格的に始まります。
公共事業予算をつくるため政府は消費税導入をたくらみ始め、八一年からは「行政改革」をすすめます。社会保障の改悪です。さらに、八六年には中曽根内閣が「前川レポート」をアメリカに公約。「輸出指向」型から「内需主導」型への経済の転換と、アメリカ大企業の日本国内への受け入れ準備(規制緩和と市場開放)を基本としました。これが小泉流「構造改革」のはしりです。都市再開発やリゾート開発で「バブル経済」がつくられました。
八九年から九〇年にはパパ・ブッシュ大統領との「日米構造協議」で、十年で四百三十兆円の公共事業が求められます。その後六百三十兆円に増え、橋本内閣が「十年では無理なので十三年に」と延長。つまり一年分は四十八・五兆円です。小泉内閣でこの計画は形の上では撤回されましたが、赤字間違いなしの高速道路建設など無駄な事業は続いています。
▽戦後の歴史の大切な教訓は?
憲法二五条の「生存権」を土台に、戦後は国民の運動で社会保障の充実がすすみました。大きな役割を果たしたのは六〇|七〇年代の「革新自治体」です。今の若い人は知りません。先輩がキチンと伝えていかねばなりません。日本共産党と社会党がたくさんの市民と手をつないでつくった「無駄なお金の使い方はやめて、社会保障にお金を使おう」という自治体です。
京都府など高齢者医療を無料にするところもあり、慌てた政府が七三年には「福祉元年」を打ち出します。しかし、自民党はそうやって国民をだましながら、社会党を味方に引き込んで革新自治体をつぶし、「子育てや介護は家庭でやれ」という「日本型福祉社会論」を提起して、革新自治体の成果を崩していきます。
国民の運動とまじめな政党の共同こそが社会保障を育てていく。それは、戦後の歴史の大切な教訓です。
▽「社会保障はたかり」と……
九〇年代に政府は「社会保障構造改革」をいい出します。高齢化が進む中で政府も「社会保障いらない」と簡単にはいえません。でも、お金はかけたくない。そこから出たのが「福祉は金で買え」「福祉は市場に任せよう」といういわゆる「新自由主義」です。
経済の「構造改革」を担当する竹中平蔵金融・経財担当大臣はこういいます。「過保護は人の意欲を失わせる」。しかし、日本に「過保護」などといえる福祉があったためしはありません。竹中氏は本の中でも社会保障は「たかり」と書いています。政治が国民全員の最低生活を保障するという憲法二五条の理念が、まるでわかっていない。こんな人を大臣にした小泉首相の責任は重大です。
参院選挙では、平和と社会保障を大切にする政党をしっかりと躍進させなければならない。それは大いに可能なことだと思います。
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