以下は日本民主青年同盟「民主青年新聞」2008年2月11号に掲載されたものです。
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Q&Aから考える 科学的社会主義
第5回 企業のもうけは、どこからくるの?
「なぜ科学的社会主義を学ぶの?」――連載では、科学的社会主義の学習や日常のくらしでぶつかるような疑問を出発点に、そもそもから学びます。第5回は、企業のもうけはどこからうまれているのかを考えます。(6回連載)
「ワタシが貧乏なのは、ワタシのせいだ」「賃上げなんて夢の話」。そんなふうに考えている人はいませんか。実は大企業のもうけのもとをただせば労働者のはたらきが生み出したものです。また、いま社会に貧困が広がっているのは、大企業のもうけ最優先の犠牲にされているからです。この犠牲は闘いの力によって改善することができます。今回は、私たちが暮らしている資本主義社会の特徴を、大資本家と労働者の関係を中心に考えてみます。
労働者と「お金持ち」の大きな格差
日本は世界で第二の経済大国です。しかし、その「豊かさ」は一部の「お金持ち」に集まっています。日本の労働者の賃金は1997年をピークに下がり、年平均賃金は434万9000円(06年分、国税庁)となりました。ここで労働者というのは、サラリーマン、OL、公務員などのように、自分の働く能力を売り、そのかわりに受け取る賃金を生活の柱にしている人たちのことです。もちろん非正規雇用の人もふくまれます。労働者の数は、経営者や自営業者もふくめた全「労働力人口」の約8割で、社会の最大勢力となっています。
労働者の賃金には、正規雇用と非正規雇用、男性と女性、年代などによる格差があります。手元の資料で、その差が一番大きなところに注目すると、18~19才の非正規雇用女性の平均月収(14万3600円)に対して、50~54才の正規雇用男性の平均月収(43万1300円)はおよそ3倍となっています(06年分、厚生労働省)。
しかし、労働者と「お金持ち」のあいだには、それよりはるかに大きな格差があります。国税庁が発表した「長者番付」(04年)を見ると、第1位の推定年収はなんと99億8600万円です。先の平均賃金の2296倍です。その10分の1の10億円でも労働者平均の230倍、100分の1年の1億円でも23倍となります。テレビ番組でも「セレブ」が話題ですが、本当に大きな社会の格差は、たくさんの労働者と少数の「お金持ち」のあいだにあるわけです。これはあらゆる資本主義国に共通した特徴です。
「お金持ち」の中心は大資本家たち
「長者番付」の上位を占めているのは、圧倒的に大企業の社長や会長です。芸能人やスポーツ選手、人気のあるミュージシャンも、これらの人にはかないません。『フォーブス』というアメリカの雑誌が「世界の資産家ランキング」を発表していますが、そこでも上位はすべてといっていいくらい大企業の経営者や元経営者によって占められています(ちなみに2007年発表の第1位ビル・ゲイツはマイクロソフトの経営者ですが、総資産は560億ドルで6兆円近くとなっています)。
では、この大企業の経営者とは、いったいどういう人たちなのでしょう(ここからはマルクスの用語法にしたがい、経営者ではなく資本家という言葉を使います)。前回、人間社会の仕組みを根本で決めているのは経済で、経済の歴史的な型は「働く人と生産手段(道具、機械、工場、土地など)との関係」を基準に決まっていると述べました。そのものさしをここでも使ってみます。すると第一に、資本主義では「働く人」(労働者)は生産手段をもっておらず、資本家がそれをもっている、第二に「働く人」(労働者)は資本家に雇われることをつうじて生産手段に結びついている、ということがわかります。生産なしには、どんな人間社会も成り立ちませんが、資本主義はこうした独自の生産の型をもっています。
ここから「お金持ち」の代表である大資本家とは、巨大な生産手段をもち、たくさんの労働者を雇って生産手段と結合し、それによって企業経営を行う人だということがわかります。生産手段はそれを持っているだけでは、「お金」を生み出しません。そこで、彼らの大きなもうけは、労働者の雇い方や労働者と生産手段の結びつき方から生まれてくるわけです。
企業のもうけは労働者たちの働きから
もうけの仕組みを、具体的に考えてみます。例えば、ある企業が毎月1億円の部品代や機械の修理代、電気代などを使いながら2億円分の製品をつくり、現にそれが2億円で売れているとします。この時、雇っている100人の労働者に平均100万円の賃金を支払っていれば、資本家の取り分は1円もなくなってしまいます。2億円の売り上げのうち最初の1億円は部品代などに消え、あとの1億円は労働者の賃金に消えてしまうからです。
では、実際のもうけはどのようにして生まれているのでしょう。ここの仕かけは簡単です。たとえば100人の労働者に平均20万円の賃金しか支払わない。そうすると賃金は合計2000万円で済んでしまい、差額の8000万円は資本家の取り分になるわけです(この差額のことを科学的社会主義の経済学は「剰余価値」と呼んでいます)。こうなると資本主義の社会に、少数の「お金持ち」とそれよりはるかに貧乏なたくさんの労働者が共存していることは、じつにわかりやすい話となってきます。なにせ大資本家は、たくさんの労働者の賃金をできるだけ少なくし、彼らを貧乏に追い込むことによって、「お金持ち」になっているのですから。
実際には、賃金の水準は資本家が自由に決められるものではありません。それは賃上げを求める労働者や労働組合と、これを抑え込もうとする日本経団連など大資本家たちの社会的な力の衝突によって決まっています。いまも大資本家たちは、長時間労働、サービス残業、労働強化、賃下げ、非正規雇用の増大、女性差別などを労働者たちに強制しています。これを食い止めるためには、数の多数派である労働者たちの団結が必要です。
「公務員はいい」「正規雇用はましだ」「男性優位の給料だ」との思いを、「すべての労働者がゆたかな生活をおくれるようにしてほしい」と、力をあわせて、差別的な賃金体系をつくってきた大資本家たちに向けられなければなりません。反対に、これが労働者同士の内紛の種となってしまえば、それを喜ぶのは誰より大資本家たちとなっていきます。正規も非正規も、男も女も、年配も若者も、互いに資本主義経済の仕組みを深いところからつかまえて、しっかり力をあわせなければなりません。
「ワタシの貧乏」も、ぜひ資本主義経済の仕組みから、深くしっかりとらえて下さい。(つづく)
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