以下は、「京都民報」2009年2月15日号、第5面に掲載されたものです。
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「アメリカ覇権主義の後退と日本経済の今後」
この数年、軍事面でも経済的でも、アメリカによる一国覇権主義の後退が加速しています。覇権主義とは、自分たちの野望を他国に力ずくで押しつける姿勢や行動のことですが、アメリカはそうした能力を急速に失う過程に入っています。長く「アメリカの裏庭」と呼ばれた中南米に、南北アメリカ大陸のアメリカとカナダを除いた全地域が加わる「中南米・カリブ海諸国機構」の結成(2010年2月)が決まったことは、これを象徴する最近の重要な出来事といえるでしょう。
CIAも加わった米国家情報会議の文書「2025年の世界」(08年11月)は、「2025年には・・米国中心の国際秩序はほとんど姿をとどめていない」「米国が経済、軍事面で相対的な優位を維持」するが「中国とインドが多極化時代の新たな大国として米国と影響力を競い合う」と、今後の急速な地位低下を自ら予想するものとなりました。
こうした現実を前にアメリカの支配層は、巻き返し策の模索を余儀なくされています。「スマートパワー委員会報告」(07年11月)は、ポスト・ブッシュ政権に、新たな外交政策を指南するものですが(座長はリチャード・アーミテージ氏とジョセフ・ナイ氏)、その基本はブッシュ政権がイラクとアフガンの戦争に没頭する間に、世界の自立と連帯が大きく進み、これにアメリカがまったく対応できずにきたことを、彼らなりに直視した上でのものとなっています(詳細は拙著『覇権なき世界を求めて』新日本出版社)。
“チェンジ(転換)”を訴えて誕生したオバマ政権が、温室効果ガスを2050年までに80%削減し、また途上国をふくむ各国との対話の重視を強調するなど、対外関係の一定の手直しに配慮していることの背後には、貧困層が求める現状変化への期待とともに、アメリカの国際的な威信低下に対する支配層による危機意識の深まりがありました。
オバマ氏は1月の大統領就任演説で「富を生みだし、自由を広めるという市場の力は、比類なきものだ」としながらも、「今回の(経済)危機は、市場は注意深く見ていないと、制御不能になるおそれがあることを、私たちに思い起こさせた」と述べています。これは75年以降、金融(市場)の自由化を軸に押し進めてきた「新自由主義」的経済政策の深刻な行き詰まりを認めたものといっていいでしょう。
またアメリカ発の金融危機の深化に対し、EU(27ケ国)議長でもあるサルコジ仏大統領は、「ブレトンウッズ2」の必要を語りました。ブレトンウッズは1944年に基軸通貨をドルと定めた会議が行われた場所の名前で、「ブレトンウッズ2」はそれに匹敵する経済ルールの再設定を求めたものです。実際、IMFや国連の中には、ドルやユーロ、さらにはアジア共通通貨の形成をも念頭においた基軸通貨の複数化を検討する作業部会が発足しています。
日本の社会と国民にも、こうした世界の変化に対応した大局的な戦略認識が求められています。政治・軍事面でのアメリカ依存からの脱却、経済面でのアメリカ市場への過度な依存から東アジアとの交流深化への重点の移動、さらには対外関係に大きく左右されることのないしっかりとした内需の育成が急務です。
そのためには国内では国民一人一人の暮らしを支えることが必要で、アジアとの関係では侵略戦争の反省を土台とした平等・互恵の関係を築くことが必要です。そうした政策を推進しうる政治の形成に、衆議院選挙をつうじて大きく接近していきたいものです。
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