以下は、日本共産党『女性のひろば』2009年5月号、№363、21~28ページに掲載されたものです。
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終焉に向かうアメリカ中心の世界
--時代錯誤の対米従属にグッバイ
〇ブッシュ外交のゆきづまり
オバマ政権の誕生は、外交政策の面から見れば、なんでも軍事力、なんでも力ずくというブッシュ外交の深刻なゆきづまりを表わしていると思います。オバマさんと大統領の座をあらそった共和党のマケインさんは、ブッシュ外交の継続を主張しましたが、オバマさんはその転換を強く訴え、それがアメリカの一般国民だけでなく、一部の支配層によっても強く支持されることになりました。オバマ政権はそうしたゆきづまりを、なんとかして抜け出そうとする政権になると思います。
そのアメリカ自身の危機意識をわかりやすく示しているのが、2007年11月に民間のシンクタンクである「スマートパワー委員会」が発表した報告文書です。この文書は08年の大統領選挙をにらんで――つまり、次の大統領に誰がなっても、アメリカはこういう外交政策を採用すべきだと――、次期大統領に外交政策を指南しようとするものです。委員会の座長は、リチャード・アーミテージ元国務副長官とジョセフ・ナイ元国防次官補です。中身はこんな具合になっています。
①ヨーロッパの多くがイラク戦争に反対し、アジアでは自立的な共同体づくりが進み、中南米では脱アメリカの声がドンドン強くなっている――そんな中でアメリカはアフガンとイラクの戦争ばかりに力をいれ、世界の大きな変化に対応できず、国際的な孤立を深めてしまった。
②この状況を抜け出すためには「イラクとテロに焦点をあてた狭い物の見方」をかえ、世界全体の動きを視野に入れた「より広い目標、戦略」を持つ必要がある。
③その新しい戦略は、同盟関係の強化と国際機構の再編、途上国への開発支援、市民レベルの外交の推進、国内外での経済的格差の是正、環境問題での技術革新などを柱とせねばならない。
④全体として、もはや軍事力だけで世界をリードすることはできないのであり、アメリカはハードパワー(軍事力)とソフトパワー(外交や文化の力)をうまく結びつけたスマートパワーの道を進まねばならない。
こういうものが、共和党と民主党の垣根をこえた超党派の文書としてつくられているわけです。オバマさんは、選挙中に発表した「アメリカのリーダーシップを刷新する」(07年7月)の中で、アメリカはヨーロッパや韓国やラテンアメリカやアフリカなど「国際的なパートナー」にそれぞれの状況に応じた適切なシグナルを送ることができなかった、「私は、ヨーロッパとアジアの同盟国との関係を修復し、南米やアフリカ全域とのパートナーシップを強化していく」とすでに述べていました。
とはいえ、大局としてのこうした方向性が、オバマ政権にただちにすべての戦争政策を転換させているわけではありません。
〇国連憲章にもとづいてこそ
実際、オバマ政権は、イラクからの戦闘部隊の撤退を打ち出す一方で、アフガニスタンへは投入する兵員の数を増やすと発表しています。ブッシュ流の「力の政策」が、あまり形をかえずに引きずられているところもあるわけです。
いまの段階で、オバマ政権の外交政策は、全体像がはっきり示されているわけではありません。それは今後、一つずつ慎重に見極めていく必要があると思います。しかし、私としては、アフガニスタン問題についても「軍事解決」から「政治解決」への転換が遠からず実現することを期待したいですし、オバマさんには、そういう方向でしか、国連憲章にもとづく平和秩序づくりへの流れを強めるこの世界で、孤立を抜け出す道は開けませんよと言いたいです。
〇止められないアメリカの一国覇権主義
私は、アメリカの一国覇権主義の衰えは、もう止めようがないところまで来ていると考えています。ちょっと言葉がむずかしいですが、覇権主義というのは、自分たちの望みを力ずくで他国に押しつけるという考え方や行動のことです。1991年にソ連が崩壊してから、アメリカはこうしたわがままを、同盟国の反対さえ無視して自分一国で押し進めるようになりました。しかし、それがもう世界にまったく通用しなくなっています。
スマートパワー委員会報告は、それを国際的「威信」の低下という言葉で表しましたが、さらにその根底には、政治と経済の両面でのアメリカの国際的な地位の低下という問題がありました。これについては、オバマさんが大統領に決まった直後に、アメリカ国家情報会議が発表した「2025年の世界動向」(08年11月20日)という文書が詳しく書いています。
それによると、2025年の段階では、①戦後アメリカがつくりあげたアメリカ中心の国際秩序は、ほとんど姿をとどめていない、②中国とインドが多極化時代の新たな大国としてアメリカと影響力を競い合うようになる、③中国は今後20年間、他のどの国よりも影響力を強める、④インドも世界の一つの極になっていく等々――というのです。
軍事であれ経済であれ、アメリカが「中心」でありえた時代はすでに終わりはじめている――そのことはアメリカ政府の公的機関の文書によっても、すでに認められているわけです。そして、こうした認識は、オバマ政権の中でも広く共有されていると見るのが自然でしょう。
〇単純な”支配国の交代”ではない
少し補足しておけば、これは、これまでと同じ土俵の上で、大国間の力関係が変わるというだけのものではありません。ここに名前があがった中国、インドだけでなく、ブラジルやロシアなど経済的地位の急速な上昇が予想される国々――これら4カ国の頭文字をとってブリックス(BRICs)などといわれていますが――は、それぞれ内政に課題をかかえてはいても、どの国も外交面では国連憲章にもとづく世界秩序づくりをめざしています。つまりアメリカ中心の秩序の崩壊は、単純に、世界を支配する国の交代を意味するものではないのです。
それから、変化は途上国の側からも大きなうねりをつくって現われています。最近の変化の代表は中南米です。08年12月にブラジルでおこなわれた中南米・カリブ海諸国首脳会議は、10年2月に「中南米・カリブ海諸国機構」を創設すると決めました。これは、南北アメリカの全体からアメリカとカナダを除き、キューバを含む33カ国によってつくられるものですが、記者会見でベネズエラのチャベス大統領は「もはや米国が中南米カリブ海地域に命令する存在でないことを示した」「米国の覇権は終わった」と語っています。
実はオバマさんは、08年5月に「米州諸国との新しい同盟」という構想を打ち出していました。しかし、それはチャベス政権を「独裁政権」と呼び、キューバへの経済封鎖を継続しようとするものでしたから、この地域の変化が、オバマさんの予想をはるかに越えるものとなっていることは明らかです。
さらに09年3月には、ブラジルやベネズエラ、アルゼンチンなど南米12カ国でつくる南米諸国連合が、はじめて南米防衛理事会を開きました。採択されたサンティアゴ宣言は、南米を「平和と協力の地域」にするとしています。その後の記者会見でブラジルのジョビン国防相は「古典的な軍事同盟であるNATOのようにはならない」と述べ、チリのゴニ国防相も「欧州のような軍事力を追求するのではなく、統合、対話、協力を通じて相互信頼を強化することが目的だ」と語りました。会議の中ではキューバの経済封鎖解除を求める声があいつぎ、「封鎖はオバマ新大統領が解決すべき懸案事項だ」(アルゼンチン)という発言もあったそうです。
もし、オバマ政権がこれらの地域と折り合いをつけ、外交関係の「修復」を真剣に追求しようとすれば、それはアメリカ政府が、自分たちのわがままな一国覇権主義をすすんで抑え込んでいくしかなくなっています。
〇アジア歴訪とTAC
オバマ政権のクリントン国務長官が、アジア歴訪(2月26~22日)のなかで、TAC(東南アジア友好協力条約)への加盟を表明しましたが、これはたいへんに重要な変化だと思います。
そもそも、クリントンさんの最初の外遊先にアジア(日本、インドネシア、韓国、中国)が選ばれたこと自体に、オバマ政権の問題意識がよく表れています。大統領選挙中にクリントンさんは、21世紀の最重要の2国間関係は、米中関係だと繰り返し語り――これが日本政府をガッカリさせたわけですが――、今回のアジア歴訪にあたっても「世界状況が変わるなかで、中国は決定的な要因だ」と述べました。これについては「米国はアジアのダイナミックな動きに取り残されていると感じている」(外交評議会シーラ・スミス上席研究員)という専門家の指摘もありました。今後、世界でもっとも影響力を強める中国と、いかにしてアメリカなりに良好な関係をつくるのか、さらに共同への道をすすむ東アジアとどのような関係をつくっていけるのか、それがオバマ政権には重要な課題として自覚されているわけです。
クリントンさんがTACへの加盟を表明したのは、イスラム国家の中でもっとも人口が多いインドネシアを訪問中のことでした。TACはもともとASEAN(東南アジア諸国連合)の内部に結ばれた条約で、ようするに、お互いは絶対に戦争をしないという条約です。その後、ASEANはこれをどんどん世界に広め、いまでは25カ国(37億人)が加盟するようになっています。さらに、EU27カ国が加盟を表明していますから、すでに加盟しているフランスを差し引いても合計は51カ国(41億人)に達します。
世界人口の60%を超える人々が、互いに絶対に戦争をしないという条約のもとにくらしていくわけですから、世界を力でねじ伏せようとする政策が、いかに時代おくれのものであるかは明白です。
ブッシュ政権のアメリカは、自分の気に入らない国に先にミサイルを打ち込むことを当たり前だとする、先制攻撃戦略を公式にかかげてきました。ですから、TACへの加盟は拒否してきました。しかし、もはやそんなことを言ってはいられません。少しでも国際的な威信の回復につとめようとすれば、もはやこの流れに歩調をあわせていくしかない――ようやくそういう認識に達したということです。ここにも平和と平等を願う世界の大きな流れと、アメリカの一国覇権主義との力関係の変化は明白です。
オバマさんやオバマさんが属するアメリカの民主党は核兵器の廃絶ということさえ口にするようになっていますが、これも大きな変化です。ぜひ責任をもってその道を進んでほしいと思います。
〇新しい世界への序曲
歴史を大きくふりかえってみると、アメリカが、力でねじ伏せた国を植民地にしていくという帝国主義の道に入ったのは19世紀末のことでした。そしてイギリスにかわって世界支配の中心に立ったのは、第二次大戦を転機としてのことでした。しかし、アメリカが軍事的支配の強化を追求したにもかかわらず、戦後の世界は、植民地体制が音を立てて崩れる世界となりました。つまり、イギリスとアメリカが支配者としての地位を交代させた時にも、それは単純に、同じ土俵の上での選手交代というわけではなかったわけです。そこにも各国間の民主主義をもとめる世界の人民と、これを力でねじ伏せようとする軍事大国との力関係の変化があったのです。
今日のアメリカによる一国覇権主義の衰退は、さらに、少数の大国が支配したこれまでの世界から、国連など各国の協調によって運営される新しい世界へと、世界の歴史を大きくすすめる序曲となるでしょう。
〇変化がわからない自公政権
そうして変化する世界の中での日本政府の現状は、まったく情けないとしかいいようがありません。自民・公明政府には、世界の変化がまったく見えていないようです。アメリカのハードパワー(軍事力)にさえついていけば、それで世の中を渡っていけるという――麻生首相はケンカの強い国についていくのは当たり前といいましたが――、アメリカの最近の変化にさえ大きく立ち遅れた世界情勢の理解にとりつかれています。
日本は03年末にTACへの加盟を表明し、その後、正式に加盟をしたのですが、小泉さんは、その年の10月のASEAN首脳会議での加盟要請を、驚いたことにいったん断っています。拒否の理由は「アメリカとの特別な関係」ということでした。そして、東アジアとの経済交流を深めたいとする財界に背中を押されて、アメリカの許可をもらい12月に加盟を表明するというぶざまな態度をとったのです。アメリカとの軍事同盟を、ともかく何より第一とする――そういう姿勢がよく表れた出来事でした。
クリントンさんは、この2月には日本にもやってきましたが、日米関係についての前向きな変化は何も起こりませんでした。スマートパワー委員会の報告は、新しい戦略の第一に同盟国との関係強化をあげていましたが、日本はすでに強化の必要もないほど見事に仕上げられた対米従属国家となっています。そこでクリントンさんは、ドルの基軸通貨としての地位を維持するために、アメリカ国債を売ってはならないという圧力を日本にかけ、さらに沖縄からグアムへ海兵隊を「移転」するに際しての日本政府からの資金提供にかんする協定を締結させました。
どうして新しい米軍基地をグアムにつくるのに、日本政府が税金を差し出さなければならないのでしょう。実におかしなことですが、日本の政府はそれを当たり前のことだと信じています。
ここまでくると日本政府の姿は、哀れをこえて滑稽です。しかし、この滑稽さは私たち日本国民の平和に生きる権利を侵し、税金の無駄づかいをおこない、さらに世界に大きな迷惑をかけるものとなっています。そして、悲しいかな「戦争のできる国づくり」を押し進める点では、民主党もほとんどかわりがありません。
世界から貧困と戦争をなくそうという日本国憲法前文の精神にもとづく国づくりは、私たち日本国民の大きな使命になっているといえるでしょう。私たち一人一人が、もっと、もっと政治通、外交通になっていかねばなりません。
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