以下は、関西勤労者教育教協会『勤労協ニュース』№388、2010年1月1日、3~9ページに掲載されたものです。
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あけましておめでとうございます。長年の自民・公明政権を退場させた中での新年です。この夏には参議院選挙もあり、さらに前向きな政治の変化をつくりだすことが可能です。ここでは日本の政治と社会の現状を、世界の変化の中に大きくとらえてみましょう。
〔加速する「世界構造」の大きな変化〕
まず、世界の経済的な構造変化です。ゴールドマンサックスが示した「2050年の世界の経済規模」を見てください。GDPは「国内総生産」――その国のものづくりの能力を示すものですが、世界一はアメリカに大きく差をつけて中国です。その他、3位のインド、4位のブラジル、6位のロシアが、頭文字をとってBRICsといわれています。変化は順番の問題だけではありません。中国は社会主義をめざす国、インドには共産党が与党の州政府が成立している、ブラジル与党の労働党は党大会で社会主義の可能性を議論している――ここには、成長する経済社会が「資本主義の限界」を越えようとする国であるという特徴もあらわれています。
こういう変化を展望しながら、各国は動いています。2008年秋にアメリカの国家情報会議は「2025年の世界」という文書を発表しました。そこには、①「(2025年には)米国中心の国際秩序はほとんど姿をとどめていない」、②「中国とインドが多極化時代の新たな大国として米国と影響力を競い合う」、③「中国は今後20年間、他のどの国よりも影響力を強める」とありました。こういう認識のもとに、アメリカは単独行動主義から抜け出すと宣言したのです。
初代大統領にベルギーのファンロンパイ氏を決定したEU諸国も、大きな変化を見通しています。英仏独伊の有識者へのアンケートでは、今後の交流が重要なEU外の国については、中国39%、アメリカ27%、インド12%、日本9%といった具合です。変化を促進している大きな力のひとつは南米です。2010年2月の発足を目指して「中南米・カリブ海諸国機構」がつくられます。南北アメリカ大陸全体から、アメリカ・カナダ以外の33ケ国が集結し、アメリカからの自立や連帯の中での貧困の克服を課題としています。その中で、ベネズエラ、ボリビア、エクアドルの政府は、ソ連型とは異なる「新しい社会主義」を模索しています。
〔世界経済危機の中で〕サブプライムローンの破綻にはじまる金融危機をきっかけに、世界は2008年から過剰生産恐慌に入りました。飢餓人口が10億を越えた世界で「過剰」というのはおかしな話です。しかし資本主義は購買力(消費力)のない人間には、生産物を提供しません。「過剰」とは市場の購買力に対する過剰です。
国別に今後を見ると、中国・インドが飛び抜けた経済成長を継続する一方、先進国はマイナス成長、中でも日本のマイナスは格別に大きくなって。原因は、国内向けの経済政策の相違です。自国の購買力を高める上で、もっとも大きな成功を収めているのは中国です。2009年3月の全人代(国会)で4兆元(58兆円)の内需拡大策を決定し、①低所得者・農民への補助、②鉄道・高速道路などの整備、③企業・個人の減税を行っています。その結果、内陸の農村部で家電製品が売れ始めています。9億の人がいる大変な市場の形成です。
アメリカも、勤労者減税、多国籍企業増税、所得税最高税率引き上げ、失業・生活補助、低所得者医療保険の設立、教員雇用維持の助成といった努力をしています。イギリス、フランス、スペインなどでも消費税の減税、富裕層の増税の方向に動いています。先進諸国の最大の消費力は個人消費であり、各国とも経済立て直しのために庶民生活の激励を行っているのです。麻生内閣による「構造改革」の継続は、これと正反対のものでした。そのことが日本経済の格別の見通しの悪さにつながっています。
〔国民は自民・公明政治を見限った〕しかし、2009年8月の総選挙で、国民は自民党主導の政治を見限りました。前回と今回の政党別の得票数は次のようです。
2005年 2009年 増減 09/05年自民党 25,887,798 18,810,217 -7077581 0.727
公明党 8,987,620 8,054,007 -933613 0.896
民主党 21,036,425 29,844,799 +8808347 1.419
共産党 4,919,187 4,943,886 +24699 1.005
社民党 3,719,522 3,006,160 -713362 0.808
新党日本 1,643,506 528,171 -1115335 0.321
国民新党 1,183,073 1,219,767 +36694 1.031
新党大地 433,938 433,122 -816 0.998
みんなの 3,005,199
幸福実現党 459,378
自民と公明は大敗、民主は躍進、共産と国民新党は微増という結果でした。変化の背後には、国民生活の深刻な貧困化と、これと連帯の力で立ち向かおうとする社会的な意識と取り組みの発展がありました。
民主党は大勝しましたが、政策への支持は多くありませんでした。高速道路無料化も、子ども手当てもそうです。そのことを良く自覚していると、鳩山首相も繰り返し語っています。目の前で自民・公明政治が無残な崩壊をとげつつある。ここで自民党と同じような政治をすれば、自分たちも同じ目にあわされる。そういう実感があるということです。
〔国民の選択への財界の巻き返し〕日本経団連の御手洗会長は「政権交代という新しい環境にあっても・・・。政策的スタンスは基本的に変わらない」(9月14日)といいました。経済同友会の桜井代表幹事は「民主党は、マニフェストでは・・・国民にとって受け入れられ易い政策を羅列しているが、新政権を担うこととなった今・・・(われわれに対して)責任をもった取り組みが求められる」「政権交代可能な二大政党による、緊張感のある健全な議会制民主主義を根付かせていくためには、選挙結果の自己総括を出発点とする、自民党の再生が不可欠である」とまでいいました。これは国民が自民党を大敗させた投票当日の発言です。
2大政党制づくりのたくらみとの関係ですが、1993年には「非自民」政権ができました。成立した細川政権は「基本政策はこれまでの政策を継承する」と語り、内部対立によって短期間で崩壊しました。その後、90年代の半ばに「ゼネコン政治」への批判が高まり、98年には共産党が史上最高の得票を得ます。これに焦りを感じた財界は、2003年に旧民主党と自由党を合併させて現在の民主党をつくり、自民党と民主党に対して「財界通信簿」による新しい献金斡旋をはじめます。そして「消費税増税」や「憲法改定」など悪政の競争をさせました。これを国民の声が突き崩します。自民党批判を強め、民主党を自民党との「対決」に進ませ、「古い仕組みを終わらせよう」といわせました。そのため民主党の政策には、自民党との悪政の競い合いにとどまらぬ、国民要求の一定の反映がふくまれました。他方、悪政を反省しない自民党は、存亡の危機に立っています。
〔鳩山政権の3党合意文書から-内政面〕鳩山政権は、民主党、社民党、国民新党からなる連立政権です。そのため3党の政策合意文書がつくられました。
「4、子育て、仕事と家庭の両立への支援」「5、年金・医療・介護など社会保障制度の充実」「6、雇用対策の強化―労働者派遣法の抜本改正」「7、地域の活性化」などの項目には、国民の要求がかなり反映しています。応援すべき政策には、生活保護母子加算復活、高校授業料無償化、後期高齢者医療制度と障害者自立支援法の廃止、社会保障費抑制の廃止、医療費増額、労働者派遣法の改正、均等待遇の実現、雇用保険・最低賃金の改善、中小企業・農業支援などがあげられます。ただし、これはまだスローガンです。いつから、どういう内容で実施するかというつめはこれからです。「こういう内容で」「〇月〇日から」という声をドンドン届けていかねばなりません。
他方で、批判すべきは、保育や介護など自民・公明政治が進めてきた社会保障の市場化路線が転換されないことです。転換どころか、むしろ推進です。なぜ、一方で生活保護の母子加算を復活しながら、他方で保育所の最低基準を切り下げるのか。それは、これらの分野での公的保障路線への転換には、多くの財源が必要だからです。財源づくりには、軍事費を削り、大企業の税金を引き上げるなど、財界の利益への切り込みが必要ですが、3党合意にはそれがありません。そこで、あまり金がかからない分野で、国民の人気が期待できる政治を行うしかない。献金する財界の利益に反するわけにはいかず、国民の期待に何もこたえなければ参議院選挙で敗北する。だから「事業仕分け」のようなパフォーマンスで「ムダづかい」一掃の努力を大げさに見せる他ないのです。
公約をないがしろにする姿勢も出てきました。「廃止」をかかげた後期高齢者医療制度を、しばらく存続といっています。「読売新聞」は「来年度中の現行制度の廃止は断念する方針を固めた」(10月4日)と書きました。そうなると2010年4月には全国平均で月8556円(年6万2000円)も保険料があがります。また保育所制度の「最低基準」を低めることは、自民党時代にもできなかった大改悪です。〔鳩山政権の3党合意文書から-外交・憲法〕
3党合意の「9、自立した外交で、世界に貢献」「10、憲法」の項目は、内政よりも悪いものになっています。自衛隊の海外派兵は否定されません。実際、鳩山政権は10月5日にソマリア沖へ自衛隊150人を派遣しました。日米同盟についてはますます「緊密」にという方針です。沖縄の負担軽減は、まったく腰が座っていません。「平和主義」というものの護憲の文字はありません。全体として軍事的な対米従属路線に大きな変化はありません。
普天間基地の移設をめぐって、鳩山首相は「選挙中の発言は公約ではない」と開き直し、「(日米閣僚級作業部会で)結論がまとまれば、一番重い決断として受け止める」(11月17日)といいました。作業部会の日本側の代表は、嘉手納への統合案をかかげた岡田外相と、辺野古移設を主張する北沢防衛相で、これでは基地は沖縄でのたらいまわしになるほかありません。1月の名護の市長選は重大な意義をもってきます。東アジアとの関係には、自民党時代との変化が見えています。中国の胡錦濤国家首席との会談で、鳩山首相は「村山談話を踏襲する」といいました(9月22日)。村山談話は、1995年に「植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました」と語ったものです。また、10月9日には韓国の李明博大統領と会談し、「新政権はまっすぐ歴史というものを正しく見つめる勇気を持っている」「在日韓国人の地方参政権問題に対して前向きに結論を出していきたい」といいました。
変化の背景には、中国の経済力の急拡大があり、中国はじめ東アジアとの友好をもとめずにおれない財界の経済戦略や、アメリカの東アジア政策があります。ただし、この道を進むには、侵略と植民地支配に対するより明快な反省が必要です。これについては右派勢力の抵抗があり、「韓国併合」(明治43年)にいたる明治を「栄光」の時代だとするNHKによる『坂の上の雲』の放映という問題も生まれています。〔改憲に向かう「政治主導」とマスコミ利用〕
鳩山政権は「脱官僚」の名で「官僚による国会答弁の禁止」をいっています。これでは官僚機構の点検はできなくなります。あわせて重要なのは、内閣法制局長官も官僚だから発言させないとしていることです。法制局は解釈改憲を積み上げましたが、憲法9条のもとで海外での武力行使は認められないといってきました。しかし、民主党は「国連の決定があれば、9条のもとでも武力行使は合憲」と考えています。この考え方を国会におしつけようということです。
民主党がねらっている強権的な新しい少数者支配の手法は、経済同友会が2002年に発表した「首相のリーダーシップの確立と政策本位の政治の実現を求めて」が下敷きになっているとの指摘もあり、またブレーンのひとつになっている「21世紀臨調」(新しい日本をつくる国民会議)は、155人の運営委員のうち73人がメディア関係者となっています。「物語で読む21世紀臨調」には「(数々の提言を)公表するにとどまらず、マスメディアを通じて日常的な世論形成を行い、・・・改革を具体化し、実現していくことに最大の力点が置かれた」ということばもあります。また、財界のトップもたくさん入っています。財界とテレビや新聞などのメディアが一体となって、民主党の政治を推進してきたというもので、ここにも新たな注目が必要です。〔政治改革のさらなる前進を〕
この3ケ月間の鳩山政治は、国民に新しい不安と失望を生んでいます。国民は2009年の自民党政権退場を出発点に、今後の政治を模索しています。
財界・アメリカと国民との利害のまたさき状態にある鳩山政権は、今後も複雑な動きをするでしょう。それぞれの問題で道理にそった具体的な対応が必要です。しっかりした分析の力が求められます。他方で、国民の中には「民主党政権はこんなものか」「これでは生活は楽にならない」、そういう新しい不満が蓄積されています。だからこそ「もっとよい日本」についての大胆な問題提起と討論を行うことが必要です。
「米軍基地は135ケ所も必要なのか、米兵4万人は役に立つのか」「いつまで世界一の長時間労働国か」「どうして医療・教育・社会保障がこんなに貧しい」「女性や民族・性のマイノリティへの差別の問題」「財界から献金をもらう政治でいいはずない」・・・・こういう視野の広い議論です。そこからひるがえって「いまの鳩山政権は」と位置づけるのです。それが、国民の合意をより大きな政治改革につなげる道にもつながります。学習運動に期待される役割はますます大きく、各人の知恵と知識が必要です。日本と世界の変化に乗り遅れない学習が必要であり、変化の時代だからこそ人間社会の発展にかんするそもそも論の学習が大切です。歴史の現瞬間にふさわしい、しっかりとした学びの運動を押し進めましょう。(12月7日)
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