以下は、子どもと教科書全国ネット21発行の「子どもと教科書全国ネット21NEWS」第73号、2010年8月15日、2~3面に掲載されたものです。
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【戦争の傷はいまも残っている】
今年も8月15日がやってきます。多くの日本人にとって、それは「戦争が終わった日」と理解されているのでしょう。しかし、あの戦争で日本がアジアに負わせた傷は、今も様々な形で残っています。それは決して忘れてはならないことだと思います。80歳代後半という高齢をおして、今なお日本政府と日本の社会に、問題への誠実な対応を求めてたたかう「慰安婦」被害者たちもその「一人」です。
軍の資料で確認できる最初の「慰安所」は、1932年に上海につくられたものですが、その後、日本軍は敗戦までに、確認されているだけで400ケ所をこえる「慰安所」を、東アジア一帯につくりました。軍は、それをつくる理由として、兵士の強姦防止、性病予防、スパイ防止防諜などをあげましたが、最大の眼目は兵士の「性的慰安」にありました。そのために「調達」された「慰安婦」は、圧倒的多数が、朝鮮はじめ侵略の先々で本人の意志に反して集められた人たちです。10代半ばといった幼い少女も決して少なくありませんでした。
1991年に韓国の金学順(キムハクスン)さんが、日本政府に謝罪と賠償を求める訴えを起こしてから、今年で20年目となっています。しかし、問題解決への道はひらかれず、そのあいだに多くの被害者が亡くなりました。
1993年には「反省と謝罪」を述べた「河野談話」(慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話)が発表され、「本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である」ことが認められました。
しかし、その後、政府閣僚からも被害者を「商売女」だと侮辱する発言が相次ぎ、また中学・高校の歴史教科書からは「慰安婦」記述のほとんどが消されてしまうなどの強い逆流がつくられます。その頂点に立ったのが、2007年の安倍首相による〈狭義の強制はなかった〉〈謝罪の必要はない〉〈河野談話の見直しが必要だ〉という発言でした。
【戦時性暴力への不処罰を断ち切るために】
この安倍発言には、国内だけでなく国際社会からも強力な批判が浴びせられました。その最初の一打となったのが、2007年のアメリカ下院の決議121号です。この決議は「米下院の共通した意見」として、日本政府に次のことを求めました。
「1、日本政府は1930年代から第2次世界大戦終戦に至るまでアジア諸国と太平洋諸島を植民地化したり戦時占領する過程で、日本軍が強制的に若い女性を『慰安婦』と呼ばれる性の奴隷にした事実を、明確な態度で公式に認めて謝罪し、歴史的な責任を負わなければならない。」
「2、日本の首相が公式声明によって謝罪するなら、これまで発表した声明の真実性と水準に対し繰り返されている疑惑を解消するのに役立つだろう。」
「3、日本政府は『日本軍が慰安婦を性の奴隷にし、人身売買した事実は絶対にない』といういかなる主張に対しても、明確かつ公式に反論しなければならない。」
「4、日本政府は、国際社会が提示した慰安婦に関する勧告に従い、現世代と未来世代を対象に残酷な犯罪について教育をしなければならない。」
あわせて注目されるのは、この決議が、2000年に日本政府も賛同した国連安保理決議「女性、平和及び安全保障に関する決議第1325号」にふれている点です。この安保理決議には、次の事柄を積極的に実施する世界各国の「決意」が述べられていました。
「すべての国家には、ジェノサイド(大量虐殺)、人道に対する罪、性的その他の女性・少女に対する暴力を含む戦争犯罪の責任者への不処罰を断ち切り、訴追する責任があることを強調する。またこれらの犯罪を恩赦規定から除外する必要性を強調する。」
これについては、多くの性犯罪を引き起こしながらイラク戦争をすすめているアメリカ議会に、胸をはって語れることかという問題はありますが、それでも、世界各国の戦争犯罪との闘いや戦時性暴力の根絶を求める決意はすでにこのような形をとっており、アメリカ議会もこれを肯定的に引用せずにおれないところに世界が達していることは、注目すべきところです。
この決議を支持した日本政府に「性的その他の女性・少女に対する暴力を含む戦争犯罪の責任者への不処罰を断ち切り、訴追する責任」を負う義務があり、その最大の焦点が「慰安婦」犯罪についての「責任者」の「訴追」であることは明らかです。
政府が自らこの義務を果たそうとしない中で、VAWW―NETジャパンなど日本の市民団体が大きな役割をはたし、同じ2000年に「女性国際戦犯法廷」を開いて、昭和天皇と10名の日本軍将校に有罪判決が下されたことについては、ご存じの方も多いでしょう。
このように「慰安婦」問題の解決は、過去の歴史に対する責任を果たし、また存命の被害者たちの尊厳回復に対する日本人としての責務をはたす取り組みであるだけでなく、くわえて戦時性暴力の根絶という現在と未来に向けた、世界共同の取り組みの重要な一環となっています。
アメリカ下院の決議につづき、これまで多くを語ることのなかったカナダやEU議会が同様の決議を採択した背景には、ユーゴの内戦やイラク戦争をはじめ、世界各地での戦争・紛争の現実を前にした多くの人々の、戦争のない世界、戦時性暴力のない世界をつくろうという取り組みの高揚がありました。
【地方から国へ「意見書」採択の取り組みを】
EU議会の決議には、日本政府だけでなく、主権者である「日本の人々」への呼びかけがふくまれています。
「それぞれの国の歴史を全て認識するという全ての国々がもつ義務をはたすため、そして『慰安婦』に関連することを含め1930年代から1940年代にかけての日本の行動に対して注意をうながすためにさらなるステップを踏むことを日本の人々と政府に対して奨励し、日本政府にこれらの史実を現在及び未来の世代に教育することを勧告」する。 この言葉を、私たちは重く受け止めねばなりません。行動すべきは政治家だけではないのです。
2008年以後、「慰安婦」問題の解決を求める取り組みには、新しい動きが起こっています。それは地方議会から、国に問題解決への誠実な努力を求める「意見書」を採択するという取り組みです。08年3月の宝塚市議会(兵庫)の「全会一致」での採択を皮切りに、清瀬(東京)、札幌(北海道)、福岡(福岡)、箕面(大阪)、三鷹(東京)、小金井(東京)、京田辺(京都)、生駒(奈良)、泉南(大阪)、国分寺(東京)、長岡京(京都)、船橋(千葉)、国立(東京)、田川(福岡)、ふじみ野(埼玉)、我孫子(千葉)、向日(京都)、吹田(大阪)、堺(大阪)、小樽(北海道)、西東京(東京)、読谷(沖縄)、豊見城(沖縄)、高槻(沖縄)と、7月10日時点で25の市村議会で意見書が採択されています(8月6日現在29議会)。
私も、関西で、この「意見書」採択をすすめる取り組みにかかわっていますが、全国各地のみなさんにも、これへの積極的な参加を呼びかけたいと思います。
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