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いまマルクスがおもしろい
最終回 マルクスをどう読んでいくか
神戸女学院大学教授 石川 康宏
みなさん、こんにちは。この連載も今回でおしまいですね。最後の第7回は、マルクスをみなさんがこれからどうやって読んでいくか、その方法や心構えについて、ぼくなりのアドバイスを書いてみたいと思います。(7回連載)
19世紀のマルクスと21世紀の現代
最初に確認しておきたいのは、マルクスを読むことは「うわあ、マルクスはすごぉい」と、マルクスに感心することを目的にしているのではないということです。
では21世紀の今日に、あえて19世紀のマルクスを読む積極的な意義はどこにあるのでしょう。
ぼくは、それは、労働者たちが苦しみ、たたかっていた当時の社会の中で、変革者として生きたマルクスらの真剣な生き方を肌で感じ、切実な思いの下に探究された、その学問の深みをしっかり学ぶことにあり、併せて、ぼくたちが、21世紀の現実に変革者として立ち向かう気概を受け継ぎ、マルクスたちが見ることのなかった新しい現代の世界を、自分たちで分析していく理論的な導きを得ることにある、と思っています。
「われわれの理論は発展の理論であり、まる暗記して機械的に反復するような教義ではありません」(エンゲルスからケリーウィシュネウェツキへの手紙、87年1月27日、『全集』36巻、525ページ)。
ぼくたちは、マルクスの物知りになるためにマルクスを読むのではありません。その理論を今日に生かし、「発展」させるために読むのです。そうであれば、マルクスの理論を、あれもこれも「正しい」と決めてかかるわけにはいきません。マルクス自身が好んだ「すべてを疑え」の精神にしたがって、21世紀の現実に照らし、マルクスを点検していかねばなりません。マルクスを「自分のあたまで考える」ということです。
どうやってマルクスを読みすすめるか
ぼくは大学1年で、はじめてマルクスを読みました。先輩たちに誘われて『共産党宣言』を読んだのです。ほとんど何も分かりませんでした。でも、ここには何かすごいものがある、そういう直感が得られました。ぜひ、みなさんもそんな学習グループをつくってください。少し学びが進んでいる先輩に入ってもらえると、なおいいです。そういう勉強ができるサークルに入ったり、サークルをつくるのもいい方法ですね。
ただし、グループ学習をはげみにしながらも、家で、図書館で、喫茶店で、電車の中で、ペンで線を引き、分かったところ、分からないところに書き込みをしながら本を読む、そういう独習の習慣は、なんとしても身につけねばなりません。学びの基本は、なんといっても独習なのです。一対一でマルクスと格闘し、少しでも自分の考える力を高めていく、その苦しくも楽しい時間を習慣としてください。
学びを深めるには、どうしても、ある程度の量をこなすことが必要です。学生時代のぼくの先輩には、小さな部屋の壁のすべてが本棚で埋まり、さらに畳に本が積み上げられ、床が抜けることを心配した大家さんが、もう一部屋を本置き場として、ただで貸してくれているという人がいました。決して、豊かな生活ではありませんでしたが、それでも、バイト代をもらえば、真っ先に本を買っていたわけです。
忙しい中で、たくさん本を読むには、スピードが必要です。いつまでに何ページ読むという時間との競争が必要ですし、読書の時間をどうやってつくるかという、スケジュール管理の工夫も必要です。こま切れ時間の活用も大切です。忙しい人ほどよく勉強してるといいますが、そういう人はこれらの努力をしっかり積み上げているのです。
他方で、学びは本をつうじてだけのものではありません。実体験が大切です。とくに重要なのは、社会改革の実際のとりくみに参加することです。それによって、外から眺めていたのでは分からない、社会の仕組みやうごきといったものが見えてきます。それをマルクスはどう分析していたのだろう、そんな具合に考えれば、机の上の学びとの相互作用も生まれてきます。
なお、本は「読めるもの」だけでなく、「読めるようになりたいもの」をぜひ手もとに置いてください。その気持ちの背伸びが、成長への大きな励ましになってくれますから。
こんな本がおすすめです
この連載でも、たびたび引用してきましたが、新日本出版社の「科学的社会主義の古典選書」をそろえてください。
マルクスとエンゲルスだけでも、『イギリスにおける労働者階級の状態』、『ドイツ・イデオロギー』、『共産党宣言/共産主義の諸原理』、『「経済学批判」への序言・序説』、『賃労働と資本/賃金、価格および利潤』、『「資本論」綱要/「資本論」書評』、『ゴータ綱領批判/エルフルト綱領批判』、『自然の弁証法〈抄〉』、『反デューリング論』(上・下)、『空想から科学へ』、『家族・私有財産・国家の起源』、『フォイエルバッハ論』、『インタナショナル』、『多数者革命』と14冊が出ています(他にレーニンの本も4冊出ています)。
また、同じ出版社から出ている『資本論』は、なんとしても手もとにおいてください。マルクスらの著作の中心中の中心ですから。
これらの本を読む上での道案内には、不破哲三『古典への招待』(上・中・下)、『革命論研究』(上・下)、『「資本論」全3部を読む』全7冊(新日本出版社)などがあります。これらも、ぜひそろえてほしいところです。
そこへいく前に、もう少し、手前から助走をつけたいという人には、門井文雄/紙屋高雪『理論劇画 マルクス「資本論」』(かもがわ出版)、不破哲三『マルクスは生きている』(平凡社新書)、内田樹・石川康宏『若者よ、マルクスを読もう』(かもがわ出版)などが、手に入りやすく、読みやすいかと思います。
みなさん、大いにマルクスに挑戦してください。そして現代を生き抜く指針と自信を手にしてください。ぼくのようなおじさん世代を押しのける、若い理論家の登場にも心から期待しています。
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