以下は、全国保険医団体連合会「全国保険医新聞」2013年6月25日に掲載されたものです。
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使い古された 経済政策
日本経済はこの間「失われた20年」ともいわれる超低成長の中にある。99年から03年、09年から今日という、戦後初の長期的な物価下落までもが起こり、政府はこれを「デフレ」と呼んで「3本の矢」にまとめられる経済政策=アベノミクスを提起している。
しかし「大胆な金融緩和」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」という3本の矢に、目新しいものはない。
「財政政策」の中心はかつてのゼネコン国家を想起させる大型公共事業の推進。「成長戦略」は「大企業が潤えば、いまに国民も潤う」という破綻済みのトリクルダウン理論だ。正規雇用者をさらに減らし、原発を海外に輸出し、TPPに加入するなど、大企業を儲けさせる政策の寄せ集めでしかない。
1本目の矢である「大胆な金融緩和」について、99年の「ゼロ金利政策」以来、日銀は一貫して金融緩和政策を継続しており、それが経済の好転につながらなかったことは、歴史が証明している。
「大胆な金融緩和」でデフレをインフレに転換しようとすることは「リフレ政策」とも呼ばれる。内閣官房参与の本田悦朗氏によれば、「リフレ」の論理は、①今後インフレになる(物価が上がる)という見通しがあれば、国民は目減りを恐れて手もとのお金を使う、②すると国内消費が拡大して経済成長が再開される、③したがってインフレになるということを、しっかり国民にアナウンスすることが肝心で、④「大胆な金融緩和」がその強い意思表示になる、というものだ。
日本の消費力の6割を占めるのは個人消費で、国民が消費を拡大すれば、景気が回復するという点には、それなりの筋が通っている。だがその実現に必要な前提が根本的にまちがっている。国民には、目減りを恐れてただちに使えるようなお金はどこにもない。
現在、日本の労働力人口の8割は事業所に雇われた労働者だが、その総額賃金は97年をピークに、11年には年額34・4兆円も減っている。インフレが予想されようと、食料などの生活必需品を毎日節約して買うしか道はない、というのが多くの国民の実態だ。
賃金と経済成長は比例関係
図は、97年~07年のG7各国の経済成長率と雇用者報酬(賃金)の伸び率を対比したものだが、賃金の伸びと経済成長の伸びはほぼ正比例の関係になっている。賃金の引き上げによる国内消費の拡大こそが経済成長の最大の保障であることが示されている。
アベノミクスには賃上げ策はどこにもなく、あるのは正規雇用の破壊による賃下げ政策ばかりである。これでは国内消費の拡大は見込めない。その結果、大企業にも新たな設備投資の動機は生まれず、「大胆な金融緩和」がもたらすだぶつき資金は、もっぱら株式投機のような経済賭博に使われている。政府がバブル経済を誘導しているということだ。しかし、そのバブルは「小さな」ものだ。なぜなら、これが実体経済のどんな改善にも支えられない、架空の部分的「好景気」であることは誰の目にも明らかで、投機家たちはわずかな株価の上昇や為替の変動で、ただちにこれを売りに出さずにおれないからだ。
現に、しばらく上昇をつづけた日経平均株価も、同じく円安の傾向を見せた円相場も、5月後半からまるで逆の動きに転じている。
国民のふところあたためる
「アベノミクス」にはさらに社会保障削減や消費税増税が用意されているが、これは多くの国民をさらに深刻な貧困に追い込み、消費を縮小させ、それによって日本経済の「失われた20年」をますます延長させるものになっていく。
大企業の目先の利益にとらわれることなく、長い目で国民経済を着実に再建していくために、国民のふところを直接あたためる政策が求められている。
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