1)テキスト第9章「国際金融システム不安とドル本位制」へ進む。内容がやや専門的にすぎるので,文章の流れから外れて基礎的な講義をすることにする。今日の国際通貨・金融システムの出発点は,戦時中に準備されたIMF体制。それ以前には世界市場全体を包括するシステムは存在せず,有力国ごとに植民地圏域をまとめるブロックシステムがあったのみ。IMFは協定により,貿易の決済手段にドルを使うこと,「35ドル=金1オンス」での交換を前提に,各国通貨を固定相場で結ぶことを確認。一国通貨ドルを国際決済手段とすることにより,アメリカには貿易赤字がつづいても「ドル不足」が起こらないというドル特権が生み出された。これはアメリカだけのうまみである。
2)拡大する世界貿易でドルが活用されつづけるには,ますます大量のドルの流通が必要となる。しかし,大量のドルの流通は「35ドル=金1オンス」での交換実施を困難としていく。いわゆる「流動性のジレンマ」。60年代後半にはこのジレンマの深まりによる「ドル危機」が発生する。ドル価値への国際的な不信任の高まりである。71年のニクソン・ショックが「金ドル交換停止」を宣言し,金による裏付けを失ったドル価値の長期的な低下傾向が開始される。固定相場制から変動相場制への移行である。各国通貨間の価値の変動は日常化し,そこから為替投機が拡大する。2001年の世界の貿易総額は1年で1兆5564億ドルだが,同年の為替関連デリバティブ取引は1日で8530億ドルに達している。わずか2日で世界の年間貿易総額に達する規模での,貿易決済から独立した投機が行なわれている。たとえば投機の基本は,1ドル=115円の時に1億ドルを115億円に転換し,翌日1ドル=114円になった時に115億円をドルに転換するというもの。これによってすでに1億円のもうけが発生する。
3)円との関係では,固定時の1ドル=360円から,今日の1ドル=110円台へと,ドル価値は大局的に低落をつづけた。これはアメリカへの輸出を大きな利殖機会とする日本の産業には輸出競争力の低下を意味する。円高ドル安はアメリカ市場における輸出商品の価格を引き上げ,輸出量の減少を導くからである。そのため政府・日銀は産業界の要望を受け,外国為替市場に円売ドル買介入を行なうことになる。保有されたドルはアメリカ国内で運用され,結局その資金は,アメリカ経済の動力として活用される。他方,ドル価値を支えるこの取り組みは,アメリカのドル特権を支えるものにもなっている。すでにEU諸国では共通通貨ユーロの活用がひろまっている。域内貿易比率の高いEU圏でのユーロの活用は,貿易におけるドル依存の劇的低下をすすめている。この結果,ドルは世界的な流通の範囲をせばめられ,結果としてドル特権自体が制約される。同様に東アジアにおいても共通通貨の創設が見通されており,これもまたドル特権を縮小させる役割をもつ。これは世界的な通貨・金融制度がアメリカ一国の特権を認める不公正なものから抜け出していくものとなっている。日本の産業界はアメリカ市場への安定的なアクセスとともに,急成長するアジアとの通商関係拡大にむけた努力を行なわずにおれない。アメリカ一辺倒・ドル一辺倒の外交の限界が,この側面からも見えている。
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