これまで「構造改革」の特徴を,①アメリカの要求に応じた市場開放,②ゼネコン関連資本から自動車・電機機械への日本財界内部における主力産業の交代,③この交代に応じた政治のあり方の改革と解説してきた。第4章は,主に②③にかかわるもの。
前提として国家とは何かについての基礎的理解が必要となる。社会の歴史の一定の段階で国家は発生する。国家は社会の最初からあったものではない。支配する/されるという階級への社会の分裂が,支配する者等による,支配される者への力による強制と一定の社会秩序の意図的形成をうむ。この強制力と「法」が国家の核心となる。
社会の発展に応じて国家権力の担い手は交代するが,その社会的内容は経済的権力者による国家の支配。守るべき冨とそれを保障する社会制度の維持が,彼らに軍事力と自らの支配への政治的正統性を必要とさせ,国家権力をにぎることへの強い執念を生む。
前資本主義において国家の担い手となるのは少数の経済・政治・軍事的支配者層のみ。資本主義においては「民主主義」の形成が,これを次第に変更していく。歴史上初の多数者による政治への参画である。日本では大日本帝国憲法(1889年)により初めて議会がもうけられるが,国民に選挙権が与えられたのは衆議院だけ。しかも選挙権者は男性高額所得者に限定された。1925年には男性の普通選挙制が実現されるが,それは「国体の変革」に死刑をもって対処する治安維持法と引き換えとされた。
戦後の新憲法体制のもとで,主権者が天皇から国民に移り,国権の最高機関である国会の議員は男女普通選挙制をもとめに選出されることとなる。この時代の経済的支配者である財界(大企業経営者集団)は,普通選挙を通じて自らの政治権力の維持・継続に努力する。現代日本でいえば,その手法の1つは企業団体献金,2つはそれ自体が財界の構成員である大マスコミによる世論操作,3つは自民党政治の衰退に備える2大政党制の育成。これに最近では経済財政諮問会議での財界直結の政策注入が加わっている。
テキスト第4章の前半は,2002年の「骨太の方針」における税制改革論議に焦点をあてている。①財政再建の必要,②大企業減税の推進,③消費税増税については財界全体の合意があるが,ゼネコン派と製造業派とで対立があるのは,①歳出削減(公共事業を含む)と,②消費税増税のいずれを先行させるかという時期の問題。
ゼネコン派は,②の増税を先に行い,①公共事業費削減を最小限にとどめようとする。他方,製造業は,①公共事業費削減を先に行い,建設族議員の力を落とし,政治に対する自らの影響力を強化したい。経財諮問会議と自民党税調との対立が起こるが,結局,小泉首相は①歳出削減を優先した。これは政治の領域における「自民党主導」から「官邸主導」への転換と,これを通じた政府に対する財界の影響力が製造業主導に転換されることを意味した。「改革か抵抗か」の対立の背後には,こうした財界内部の分派間闘争がある。
06年9月の自民党総裁選で,谷垣氏は②の立場を主張し,安倍氏は①の立場を主張したが,今日もこの路線対立は支配層内部にくすぶりつづけている。
最近のコメント