テキスト第4章を終えていく。「構造改革」における政財界の内部対立の側面だが,前回は税制改革をめぐる歳出削減が先か,増税が先かの対立を見た。とはいえ,この対立の枠組みは狭い。歳入の側では法人税増税は一切話にならず,歳出の側では軍事費の削減はまったく話にならない。
公共事業削減については,依然としてこれを維持しようとする強い力がはたらき,その額はアメリカの3倍に達している。また,それでも縮小する公共事業費を,事業の「重点化」によって,少数大手ゼネコンに集中する策がとられている。これにより地方の事業は減少し,3大都市圏の事業が拡大している。
社会保障削減については,歯止めがない。本来なら高齢者人口増にともなう増額が必要なところだが,歳出削減の最大のしわ寄せがここにきている。医療制度改革は高齢者の医療費増をすすめている。負担は3割。70才以上の長期入院患者の居住費・食費は全額自己負担(月3.2万円増)に。高額医療費の負担上限を引き上げる。低額医療については「保険免責制度」をつくり,高額医療については国民健康保険の範囲外とする「混合診療」をすすめるなど。障害が重い人ほど多くの施設利用料を払えという「障害者自立支援法」も同じ問題をもつ。要するに「福祉はすべて金で買え」ということ。
これらの改革は結果として大企業の利益をバブルをこえる最高水準には引き上げたが,その一方で国民総世帯の収入を5年で60万円も引き下げた。利益がはたらく者の犠牲の上に生み出されていることは明らか。これは国内消費の萎縮をすすめるものともなり,国民経済の脆弱化をますます進めるものとなる。とはいえ,自動車・電機など海外史上への利益依存が高い産業が財界中核をしめており,国民経済の状況に対する財界の関心はむしろ薄れているといって良い。「改革なくして成長なし」といいつつ,「構造改革」はその先にある日本経済の未来像を示したことは1度もない。
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