日本経団連『経済トレンド』07年1月号で,「美しい国」「希望の国」の実現をめざして という対談が行われている。
御手洗会長と安倍首相との対談である。その一部を紹介・記録しておきたい。
①まず年頭所感を問われて,御手洗会長は次のようにいう。
(御手洗)安倍総理率いる内閣は、構造改革路線を継承しておられ、経済界は大変心強く思っています。私は、10月にEU本部、ドイツ、フランス、英国を訪れて政府、経済界の首脳と懇談しましたが、安倍総理に対する強い期待を肌身に感じてきました。また、安倍総理は就任直後に中国・韓国を訪問され、まさに有言実行の人として、新しい時代の幕開けを感じています。
「構造改革」の手をゆるめるなということと,中国・韓国との関係をもとにもどすなという釘が刺されているということである。
もっとも,御手洗氏は自身が「構造改革」の具体的方向を決める経済財政諮問会議の中心メンバーである。
「経済界(が)大変心強く思って」いるのは,「官邸主導=財界支配」の目論見が大いに実現されているからだろう。
(安倍)現行憲法の制定以来60年が経ちました。私は「美しい国づくり」を内閣の課題に掲げていますので、2007年は憲法についても議論を深めていきたいと思います。そのための手続法である国民投票法案についても議論をして、美しい国づくりを一歩でも二歩でも進めていきたいですね。
安倍首相のこの方針は,年末年始一貫しているようである。
②次に経済と政治の連携を問われて,安倍氏は次のようにこたえている。
(安倍)政治は経済に敏感でなくてはいけないと思います。成長し続けることが美しい国の条件ですから、国が進めようとしている政策に対する経済界の反応をよく聞いて、政策の方向づけをしていかなくてはなりません。同時に、国の政策を経済界に理解してもらうことも必要です。
よりわかりやすくいえば,経済政策については財界のいうことを聞くから,それ以外の領域では,少しは政府のいうことも聞いてくれといったところか。
しかし,この間の日本経団連の諸文書を見ればわかるように,すでに財界は政治・外交・社会・教育とあらゆる面で,「国づくり」の陣頭指揮に立ちつつある。
はたして経済界の政策から独立した「国の政策」など,どこまで存在するものか。
同じ質問に,御手洗氏は,とりあえずは次のようにこたえる。
(御手洗)まず政治があって、経済がある。これからも政治のリーダーシップのもとに、美しい国づくりのための環境整備をしていただき、その中で経済成長をめざしていくということになると思います。
しかし,もちろん,財界はこのような「謙虚」な姿勢では終わらない。
つづけて御手洗氏は次のように「政治」に対する注文を述べている。
(御手洗)安倍総理には経済環境を整えるという意味で、今後10年程度を視野に入れますと、五つの改革を行っていただきたいと考えています。それは、新しい成長エンジンの創出、アジアのダイナミズムを取り入れていく通商戦略の策定、社会保障の見直しや規制改革など政府の役割の再定義、道州制の導入や労働市場改革、公徳心の涵養など社会の絆を固くすることの五つです。日本経団連では、こうしたことを「新ビジョン」として年頭に取りまとめますので、ぜひご覧いただきたいと思います。
なんのことはない「政治のリーダーシップ」とは,財界が政治に求めるリーダーシップの実行ということである。
そして,その具体化の最新版として,御手洗「経団連ビジョン 『希望の国,日本』」があるというわけである。
③その後,規制改革の一層の推進について述べた後で,話は税制改革へと進んでいく。
ここも非常に露骨である。
(御手洗) 「イノベーションに向けた研究開発、設備更新などへの投資」「雇用の面でも、日本は新興諸国の安価で豊富な労働力との競争にさらされています」「そして、こうした企業の自助努力を後押しし、国際競争力を高めるために、政府には税制改革などのお願いをしているところです。」
念のためにいっておくが,今日の日本の大企業は史上空前の高利益を実現している。
それにもかかわらず,ここでは「国際競争力」強化を口実とした一層の減税が要求される。
厚かましいにもほどがあるが,しかし,驚いたことに安倍氏のこたえはこうである。
(安倍)税制については、公平・公正・簡素という基本的な考え方があります。さらに私は、日本が競争力を持ち、持続的に成長し続けるエネルギーを持った国であるための税のあり方を考えたいと思います。政府税調にはその方向で検討してもらっています。そうでないと日本経済は衰退し、雇用も失われることになりかねません。
イノベーションへの投資は非常に大切です。中国やインドと同じ土俵で戦っていてはだめなので、やはり日本は高付加価値分野で勝負しないといけません。企業にはこれからも新しいアイディア、新しい分野に積極的に投資をしていただいて、国も貴重な投資が適切な分野にいくような環境づくり、支援をしていかないといけないと考えています。
つまり減税要求にはこたえていく。
そして,その穴埋めは「公平・公正・簡素」の名のもとに,消費税増税でやっていくということである。
④対談の最後を御手洗氏はこうしめくくっていく。
(御手洗)安倍総理におかれましては、引き続き政策重視・政府主導の政治運営をぜひとも進めていただきたいと思います。そして私は、日本経団連を政策集団として一段と強化し、持続的な経済成長に向けた政策提言を積極的に行うことにより,政治と経済が車の両輪となって、美しい国、希望の国が実現されるよう努力していきたいと思います。
「政策」は日本経団連が決める。
政治はその財界の「政策」を実現するための車輪となれということである。
ちなみにこの対談に,国民生活の大変さを語った言葉はただの一つも登場しない。
さすがはこの国の政財界のトップである。
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