中曽根康弘氏の韓国・中央日報への寄稿である。
内容は,東アジアの共同を「アセアン・プラス3」ではなく,これにニュージーランド,オーストラリア,インドを加えた16カ国で推進し,さらにアメリカとの軍事的・経済的かかわりの強さに配慮せよというもの。
これは中曽根氏が会長をつとめる「東アジア共同体評議会」の見解でもある。
そして,おそらくそれは,アメリカ財界にとって動きのとりやすい東アジアの「共同」をつくるという,アメリカの対東アジア・対日政策とも深く一致したものである。
日本に東アジアでその種のリーダーシップをとらせるうえで,「慰安婦」問題はじめ歴史問題の必要な範囲での清算は,アメリカの利害にとっても重要なこととなってくる。
「東アジア共同体は米国とともに」…中曽根元日本首相(寄稿)(中央日報,3月19日)
◇冷戦以後の世界情勢 米国の変化と中国の台頭
1993年の冷戦終結後、世界情勢は散乱して流動的となり、各国各地域においては従来の米ソ優位の体系から脱却して、地域や国の自己のアイデンティティーを強調し、自主的行動への傾向が発生し、それは今でも続いている。そして、この流動化の中にアジアの東西において二つの深刻な事態が勃発し、国際秩序と平和の撹乱に対する憂慮すべき自体が惹起している。それはイラクと北朝鮮の問題である。冷戦以降、従来のアメリカ、ソ連、第3勢力の三つの体系は、ソ連の崩壊によってまずソ連体系が崩壊し、それにつれてほかの二体系も脆弱化し、各国各地域はそのアイデンティティーや自主独立の体制を強め、これが撹乱の大きな要因となっている。そして、世界は自己のアイデンティティーの強調やナショナリズムの時代となり、事実上、保守主義が世界的に蔓延している時代となった。
この中において世界的に大観すれば、米国の一極と他の多元世界の傾向が顕著になった。特に2001年のニューヨークのテロによる大災害以降、米国はテロを撲滅するためにアメリカ的な自由民主、人権、法の支配、市場経済等を中心にする秩序体系の世界化への熱情を強化し、ややもすればその外交安全保障政策は、ユニラテラリズム的傾向を強く持つようになり、その傾向がアフガニスタンやイラクに対応する政策となって出てきている。これに対し、仏、独、露の3国は必ずしも同調せず、またイランに対する政策等についても落差が強くなっている。世界各地では政治や経済における地域の結束が顕著な働きを見せ、東欧、湾岸、南アジア、東アジア、南米等において、その結束と独自性の主張が明白に出てきている。しかし米国は昨年の中間選挙で民主党が米国議会を制するや、ブッシュ大統領は今までの主導力であったネオコンの政権幹部を辞職させ、一方的方向から国際協調主義の方向に変わり、イランやシリアや北朝鮮との対話に転じて、世界情勢は若干の変動の兆候が示され始めている。この間にあって注目を浴びているのは、13億の人口を擁し、経済的発展の著しい中国の存在の台頭である。
◇アジアの地域協力機構
近来の世界的新秩序形成の波に乗って、東アジアにおいて2つの地域機構の構想が生まれ、構成各国の間に真剣な研究と論争が行われている。それはASEAN10カ国と北東アジアの日韓中3カ国の計13カ国の東アジア共同体(EAC)の創設構想と、その13カ国にさらにオーストラリア、ニュージーランド、インドを加えた16カ国による国際協力機構の創設である。このような構想は、冷戦崩壊後の世界各地に発生した地域的機構結成の動向の東アジア版とも言えよう。
これに対する私の判断は、東アジア共同体の想像はヨーロッパ共同体(EU)のようにキリスト教的宗教的背景も普遍性もなく、各国間の政体、言語、文化、宗教の落差が大きく、EUのように構成国の主権の一部を割譲して成立しているような東アジア共同体の創設は遠い将来の理想としての値打ちはあるが、政治的現実性は未だに非常に薄弱である。これに対し16カ国の協力機構は、まず経済的連携機構の創設を目指し、経済の脱国境性、価値観の共通性、さらに市場経済を中心にこの各国間に進められている自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)成立への努力を考えると、より近い未来において形成される可能性が大である。そして、13カ国の東アジア共同体は、その地域的密着性、伝統的なアジア的感性の共通性、多くの歴史的交流の実績と従来から既に行われてきた数回のASEAN10カ国+北東アジア3カ国(日韓中)の協力会議の経験等を考えると、この16カ国の経済協力機構の発展の過程において次第に熟成して、幅の広い最大公約数的価値観をもとに、13カ国共同体の結成の可能性期待は大きく成長するのである。そして、このような未来への共通理念を持つことは、言語や文化を異にする各国民の間に共同の理想を与え、また政府はその共同の理想に自己の政策を可及的に適合させるように努力し、年とともにその実現可能性への期待は育っていくと思われる。
この場合、考慮しなければならないのは米国の存在である。まず東アジア経済協力機構や東アジア共同体成立の基礎には安全保障の確保がなければならないが、この地域の安全保障は、現実的には米国を中心にする同盟条約のネットワークが東アジアの深底に動力線のごとく潜在していることを認識する必要がある。具体的には日米安保条約、米韓同盟条約、米比同盟条約、米台の特殊関係、米国とタイの友好協力関係、米国とシンガポールの間の安全保障協力関係、オーストラリア・ニュージーランドとの同盟条約等の存在である。さらに重視すべきは経済関係である。この地域と米国との相互の資本投下や金融関係、輸出入の貿易量等を考えると、太平洋を隔てているとはいえ、米国の存在を無視することは非現実的である。将来においてアジア太平洋を網羅するAPECとの協力関係を考慮すれば、APECの指導力をなしている米国と特別な関係を設定して、米国をしてこの16カ国の経済協力機構、さらに13カ国の東アジア共同体とAPECとの調和協力のスタビライザーの役目を果たさせることが長期的展望の政策であり、それは東アジアにおける地域機構設立の過程において特に注意しなければならない点であろう。
◇日韓中3国のトップ定期会談
日本の前政権の一時期、日本と韓国・中国のトップ会談が行われなかった時があった。しかし、安倍首相の就任以来、首相は就任後まもなく中国・韓国を訪問し、トップとの会談を行った。この3国の間には長い交流の歴史があり、各国民の間には友好交流の意識が濃厚に潜在している。これからの日本の首相の大事な仕事は、この3国トップ会談を定期化し、南のASEANの結束に対応し、北の3国トップの間に友情と協力を築かなければならない。それは東アジア共同体を設立させる基本的条件の整備であり、日本の首相は誠意を尽くして相互の意思の疎通を図り、このトップ会談を実現すべきである。日本国民も日本の首相の謙虚さと積極的な外交活動を期待しているのである。
中曽根康弘元日本首相 2007.03.19 12:22:13
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