日中首脳会談関係のニュースである。
安倍氏の靖国参拝が一層困難となったこと,両国のハイレベルの経済対話が具体化されたあたりに大きな動きを感ずる。
靖国史観を表明しつづけてきた安倍氏であってさえも,今日の世界情勢の中では,中国との「友好」を促進するほかない。
それだけ経済においても,政治においても,中国や東アジアの台頭が顕著だということである。
ただし,その「友好」の根元に当座の思惑をおくのか,それとも歴史の真実を直視する誠実さをおいていくのか。そこには大きな違いがある。
それは日本の主権者が判断せねばならない問題。
安倍首相 靖国参拝難しく 日中首脳会談 温首相のけん制巧妙(北海道新聞,4月3日)
中国の首相として六年半ぶりに来日した温家宝首相は十二日、東京での主な日程を終えた。安倍晋三首相は、「戦略的互恵関係」の具体化などを確認した今回の首脳会談の成果を誇示している。ただ温首相は同日の国会演説でも日本の「実際の行動」を求めるなど、安倍首相の靖国神社参拝をけん制。関係改善が進むほど安倍首相が靖国問題で身動きができなくなりつつある点で、中国側の狙いが奏功した形だ。
安倍首相は同日、温首相が「氷を溶かす旅」と位置づけた今回の来日について、記者団に「先ほど(外務省)飯倉公館で(温首相と)記念撮影したら八重桜が満開だった。もうそういうシーズンを迎えたということではないか」と述べ、日中関係を「春」に例えた。
年内の靖国参拝の可能性については「もう何回も申し上げてきている」と明言しない姿勢を繰り返したが、政府高官は、国交正常化以来最悪とされた小泉純一郎前首相時代の日中関係と比べ「隔世の感」と漏らし、「こういう雰囲気だと、靖国に行きにくいのは間違いない」と言い切った。
安倍首相の靖国参拝は、あるとすれば秋の例大祭がある十月が焦点とされていた。しかし今回の首脳会談で年内訪中を明言したことで、可能性は低くなったとの見方が一般的だ。
温首相は国会演説で、靖国参拝に直接言及はせず、戦前の侵略についての日本側の反省と謝罪を評価。自民党の丹羽雄哉総務会長は記者団に「日中友好に最大限配慮しながら、敏感な問題はそれなりのけん制球を随所にちりばめていた」と述べ、日本国内の保守派の反発を買うのを避けつつ、安倍首相の参拝を封じ込める温首相の巧妙な作戦を指摘した。
安倍首相は十二日に配信したメールマガジンで、外交について「友好であればすべてよしではない。国益がぶつかるときには当然主張すべき点は主張しなければならない」と持論を展開。日中の戦略的互恵関係について「お互い協力して、ともに利益を得られる環境をつくる、友好という言葉を超えた関係だ」と強調。ただ首相があいまいな姿勢を続ける限り、靖国問題が日中関係の焦点から消えることはない。
11日の安倍晋三首相と中国の温家宝首相との会談要旨は次の通り。
▽日中関係
安倍首相 政治と経済の車輪を力強く回し、日中関係をさらに高度な次元に高めていきたい。
温首相 今年は国交正常化35周年で関係の改善と発展の大きなチャンスだが、道険しい面もある。関係を安定的な軌道に乗せる必要がある。
▽首脳相互訪問
安倍氏 首脳往来を積み重ねることが重要だ。今年中にわたしの訪中を実現したい。胡錦濤国家主席も来年早期に訪日してほしい。
温氏 胡主席の来日を積極的に検討したい。
▽ガス田問題
安倍氏 戦略的互恵関係の大切さを目に見える形で見せるためにも、スピード感を持って解決することが重要だ。
温氏 その通りだ。5月に日中局長級協議を開きたい。
▽安全保障問題
安倍氏 軍事面での透明性がさらに高まることを望む。
温氏 中国の防衛力は国家の安全と統一維持にのみ使われる。いかなる国の脅威にもならない。
▽歴史認識
温氏 歴史認識問題がうまく処理できれば日中関係の良い政治的基礎となり、できなければ障害になる。歴史問題への善処が非常に重要だ。
安倍氏 日本が平和国家として歩んでいくことがわたしの気持ちであり、歴史認識そのものだ。
▽北朝鮮核問題
安倍氏 早期に6カ国協議を再開し、非核化の具体的措置を議論できるよう協力したい。
温氏 6カ国協議が進むよう努力する。
▽拉致問題
安倍氏 北朝鮮への働き掛け強化などで引き続き協力してほしい。
温氏 日本国民の拉致に対する感情を理解し、同情する。中国も必要な協力をしていきたい。
▽安保理改革
安倍氏 日本の常任理事国入りに大局的な判断をしてほしい。
温氏 日本が国連で重要な役割を果たすことを期待したい。
▽台湾問題
温氏 台湾独立反対の立場を明確にしてほしい。
安倍氏 2つの中国の立場を取らず、台湾独立も支持しない。対話再開を強く期待する。
閣僚級の経済対話創設 日中首脳会談、ガス田は隔たり(中国新聞,4月11日)
安倍晋三首相は十一日夕、来日した中国の温家宝首相と官邸で会談し、昨年十月の首脳会談で確認した「戦略的互恵関係」構築の促進で合意した。貿易・投資、金融など幅広い経済分野について協議する閣僚級の「ハイレベル経済対話」の創設や、北朝鮮の拉致、核問題での協力、省エネ・環境対策の連携で一致。焦点の東シナ海ガス田問題は両国間の隔たりが大きく、早期の共同開発へ議論の加速を再確認するにとどまったもようだ。
安倍首相は冒頭で「温首相の訪問が戦略的互恵関係の構築に向けた大きな一歩となる」と強調した。両首相は戦略的互恵関係に関する共同プレス発表を出す方向。
中国首相来日は二○○○年十月の朱鎔基首相(当時)以来六年半ぶり。小泉純一郎前首相の靖国神社参拝などで途絶えていた双方の首脳相互訪問が軌道に乗った形だ。
日中両政府は共同プレス発表とは別に、環境保護とエネルギー分野の協力に関する共同声明を発表。先進国の温室効果ガス排出量削減を定めた京都議定書が取り決めていない二○一三年以降の新たな国際枠組みの構築に関する過程に「積極的に参加する」と協力を表明した。エネルギー担当相対話の枠組みの創設でも一致。中国の省エネ化を進めるモデル事業を展開し、今後三年間で中国政府と関係機関から約三百人を日本に招き研修を実施する。
日中ハイレベル経済対話は、日本側が麻生太郎外相、中国側が曽培炎副首相がそれぞれ代表を務める。このほか、会談では(1)羽田空港と上海の虹橋空港を結ぶ航空便の実現(2)中国からの国際保護鳥トキの提供―などで合意した。
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