東欧などからの低賃金労働者の流入をきっかけに、ドイツで最低賃金制の制定が進んでいる。
「賃金ダンピング」にのらないとする労働組合の姿勢は、「外部に低賃金労働力があるのだから仕方がない」という類の日本の俗説に対する批判ともなっている。
電気技師に最賃制 全国の27万人に適用へ ドイツ(しんぶん赤旗、9月19日)
【ベルリン=中村美弥子】ドイツの電気技師に最低賃金制が導入されることになりました。ボンで開かれていた労働社会省の労働協約委員会が十七日、導入を決定しました。全国の電気技師二十七万人に適用されます。
労働協約委員会の決定によると、東独部で時給七・七ユーロ(約千二百二十円)、西独部で九・二ユーロ(約千四百六十円)となります。海外の企業から派遣されている労働者も対象となります。
金属産業労組(IGメタル)のフーバー副委員長は、「これで電気技師たちに保障が確立されることになる」と歓迎。「われわれは賃金ダンピングではなく、質の高い効率的な競争が必要だ」と述べ、二〇一〇年までに東独部で八・二ユーロ、西独部で九・六ユーロへと増額することを求めました。
電気技師への最低賃金の導入は清掃労働者、建設産業労働者に続くものです。郵便労働者への導入も検討されています。
ドイツでは、最低賃金制の導入の是非をめぐって議論が活発に行われています。ドイツ労働組合総同盟(DGB)は産業別ではなく、すべての職種をカバーする最低賃金の導入が必要だと主張し、時給七・五ユーロを求めています。
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解説
全産業での確立求める声強まる
大連立内で妥協も
ドイツで建設産業労働者などを除いて最低賃金制度が確立されていない背景には、これまでほとんどの労働分野で産別労組と使用者側団体とが労働協約を結び、その産業分野での労働者の労働条件や賃金を決めてきたことがあります。このため、大多数の労働者は最低賃金制度がなくとも、労働協約にもとづいた賃金を保障されました。このもとで最低賃金制度確立の要求が労働者側には弱いものがありました。
ところが、欧州連合(EU)拡大に伴い、賃金の安い東欧諸国などの労働者が流入しました。これらの労働者は多くが出身国の企業に雇用され、ドイツ国内の産別労働協約に服さず、単純労働分野などで賃金ダンピングが推し進められました。これに加え、東西ドイツ地域間で、賃金格差や、労働協約を適用する労働者の比率の違いが大きいことが、全国での最低賃金制を求める運動につながりました。
ドイツ労働総同盟(DGB)などの労組は全産業分野での最低賃金制確立を求める運動を起こし、野党の左翼党はもちろん、与党の大連立に加わる社民党(SPD)もこの要求を支持しました。大連立のもう一方の与党・キリスト教民主・社会連合(CDU・CSU)は、最低賃金制に反対でしたが、六月には与党間で妥協が成立。労働者派遣法と最低労働条件法の改正で合意しました。
改正された労働者派遣法では、労働協約の適用率が産業全体の労働者の50%以上の業種で、労使で構成する労働協約委員会が最低賃金の可否を判断し、外国人も最低賃金制度の対象にできることなどを規定しています。
最低労働条件法の改正は、労働協約率が50%未満の業種において、最低賃金を最低労働条件の中に含めるかどうかを労使代表で構成する専門家委員会で判断することなどを内容としています。
郵便労働者や電機技師の最低賃金制確立も、この法改正にもとづくものです。
ただ、この法改正には、ゾンマーDGB議長は「これは大きな前進でなく、ちっぽけな妥協だ」と指摘し、あくまで全業種に最低賃金制を確立するよう求めています。(片岡正明)
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