兵庫県の「財政危機」に対する厳しい批判である。
収入減の見通しが甘かった。それをただちに修正しなかった。
「ただ積んでおくなら活用しよう」の活用の仕方に問題があった。
99年を「行革元年」とし、2000年から「行革」をすすめてきたが、その間にも、巨大な「ハコモノ」建設がつづいてきた。
「売れる見込みが立たない」塩漬けの用地もたくさんある。
誘致への天井知らずの補助金など、大企業への気前のいい支出については指摘がないが、それでも「財政危機」が、相当の失政によるものであることが厳しく指摘されている。
危機的な財政状況に陥っている兵庫県は今、新たな行革プランの策定を急ピッチで進めている。これまでも行革に取り組んできたが、なぜここまで県財政は悪化したのか。県は、阪神・淡路大震災の復興事業▽三位一体改革による地方交付税削減▽国による新たな財政指標導入-の3つを主な要因に挙げるが、県の財政運営に問題はなかったのか。従来の行革プランなども振り返りながら、危機に至った経緯などを検証する。(小森準平、畑野士朗)
■震災復興 膨らんだ建設事業費
未曾有の被害をもたらした阪神・淡路大震災。県が策定した「フェニックス計画」(一九九五-二〇〇四年度)に基づく復興事業の実績は十六兆三千億円に上った。県は二兆三千億円を負担し、うち一兆三千億円を起債(借金)で賄った。
その借金返済が、兵庫固有で最大の財政圧迫要因であることは間違いない。震災関連の県債残高は〇七年度で約八千五百億円あり、県債残高の25・5%を占める。ここ数年は震災関連の公債費(借金返済額)が毎年度五百-八百億円程度で推移し、予算編成の大きな負担になっている。
また、計画に基づく「創造的復興」に向け「大規模な投資を続けてこざるを得なかった」と県。道路や公園、公共施設などを新設・増設する普通建設事業費は、一九九六年度決算で五千六百四十二億円に達した。その後は減少傾向だが、他府県より高い水準で推移してきた。
特に三位一体改革で地方交付税が削減された二〇〇四年度以降、市町合併を支援する道路整備や国体開催に伴う施設整備などを背景に“高止まり”。さらに削減を続けた他府県との格差が拡大した。一九九〇、九一年度決算の中間水準を基準にすると、二〇〇六年度は全国合計の指数に比べ30ポイント以上高くなっている。
■三位一体改革 交付税削減が重荷に
地方分権を推進するとした三位一体改革が、県の財政にも影を落としている。国の補助金を削減する代わりに税源移譲して県の税収は増えたが、同時に国から自治体に配分される地方交付税が削減されたためだ。
地方交付税の総額は、〇三年度の二三・九兆円から五・一兆円も減り、〇六年度は一八・八兆円。兵庫県分も〇三年度の五千億円から、〇六年度には三千八百億円まで削減された。
その差は千二百億円。くしくも県の〇七年度予算編成時に生まれた収支不足額と一致する。県幹部は「交付税が減った分だけ毎年歳入が足りない。交付税削減がなければ…」と嘆く。
交付税を削減されたほかの自治体は歳出削減に取り組んだ。しかし、県の歳出は〇七年度予算で二兆九百億円と、〇三年度予算からは五百億円増えている。
県は〇三年十二月に前回の行革プランを「後期五カ年の取り組み」として見直したが、〇四年度からの交付税削減が明らかになったのがその直後。「後期五カ年-」では、交付税が増える見込みを立てており、見通しの甘さが際だっている。
■新指標導入 表面化した「大赤字」
今回の行革の引き金となったのが、新しい財政指標「実質公債費比率」の導入だった。〇六年度に国が初めて発表し、県は19・6%と都道府県中ワースト3を記録。〇七年度も19・6%でワースト2となった。
県はこれまで、旧指標「起債制限比率」を使って財政運営をしてきた。旧指標では「健全」の目安となる15%台を目標に設定。〇二年度の14・1%を最高に、〇六年度は12・3%まで下がった。
その年の借金返済額で計算する旧指標とは違い、新指標では返済額に加え「まだ返済時期が来ていない借金を、毎年少しずつ返す場合の額」も計算に入れる。そのために設けた基金に、将来の返済に備えた額を積み立てることが求められた。
いわば「日常の通帳のほかに、もう一つ通帳を持ち、そこに将来のローン返済用の金をためておけ」ということだ。だが、「震災で大変な時期にただ積んでおくなら活用しよう」(井戸知事)と、県はこの通帳にはためずに使った。
〇七年度までの活用額の累計は三千四百二十四億円。積み立て不足は〇六年度末で二千六十四億円に上る。県の日常の通帳は「健全」だが、ローン返済用は「大赤字」という事態を、新指標があぶり出した。
■震災以降に33施設整備 総事業費1800億円
県はこれまでも行革を進めてきたが、一方で美術館や運動施設など「ハコモノ」を中心にした施設については着々と整備してきた。震災以降、大規模改修を含めてオープンした県施設は実に三十三に上る。国の補助も合わせた総事業費は約千八百億円に達している。約二百二十億円もの巨費を投じた県立美術館(神戸市)など、これまでの整備の時期や規模は、財政との兼ね合いで妥当だったといえるのだろうか。
今月三日、国内最大級の屋内テニス場「ビーンズドーム」(三木市)でオープニング行事が開かれた。災害時には救援物資集積場などとしても使われ、延べ床面積は約一万六千平方メートル。九面あるコートには千五百人分の客席も備える。事業費約四十億円の“威容”に参加者は目を見張った。
財政状況が深刻さを増した本年度に限っても、ビーンズドーム以外に「考古博物館」(播磨町)、「丹波並木道中央公園」(篠山市)がオープンした。いずれも事業費が四十億円を超す。こうしたハコモノを中心とした施設の着実な完成が、県財政の危機を「唐突」と県民が受け止める要因にもなっている。
震災後、被災地に造られた県施設には、県が策定した十カ年の復興計画に盛り込まれていたものが少なくない。加えて、「以前から施設の構想があった地域に、被災地じゃないからずっと我慢してくれ、とは言えない」と県幹部。県が掲げた「創造的復興」と、地域からの要望がハコモノ整備を後押ししてきた。
県は今月五日に公表した新行革素案で、未着工の県施設は当面、整備を凍結する方針を打ち出した。だが、施設は完成してからも運営費が必要。二〇〇七年度に完成した分をのぞいた全七十五施設の運営・事業費(人件費を含む)は、本年度予算の一般財源ベースで約七十億円に上っている。施設を廃止したり民間に売却したりしない限り、こうしたランニングコストが財政を圧迫する状況は今後も続く。
大阪大大学院の赤井伸郎准教授(公共経済学)の話 「近くに公園などを造られることに誰も反対しないが、その裏には財政的な負担がある。事業費に見合う価値があるのか-などを透明性のある形で県民に問い掛け、説明責任を果たすことが県に求められている」
兵庫県は将来の財政悪化が見込まれた一九九九年度を“行革元年”と位置づけ、二〇〇〇-〇八年度のプラン「行財政構造改革推進方策」(推進方策)を策定した。税収が悪化した〇四年度には「後期五カ年の取り組み」(後期五カ年)として見直しも実施した。しかし、危機的状況にあえぐ県財政の実情を見る限り、これまでの行革は見通しが甘かったと評価せざるを得ない。同じ過ちを繰り返さないために、新たな行革プランには一層の厳しさ、緻密(ちみつ)さが求められている。(小森準平、畑野士朗)
■過去の総括 歳入見込みに甘さ
推進方策は、九年間に累計一兆六百億円の収支不足が発生すると試算し、この穴を埋めることを目標にしていた。歳出削減などの行革で五千二百五十億円の効果を見込み、残り半分は「財源対策」で埋めるとしていた。
ここで生じた二つの問題点が、今回の行革をより厳しいものにしている。一つが歳入見込みの甘さによる収支不足の拡大。もう一つは、財源対策として県債管理基金を活用した結果、基金の残高不足を算入する新指標の導入で、「隠れ借金」があぶり出されたことだ。
推進方策の歳入見込みでは、経済成長率を年1・75%として計算。〇三年度には七千四百五十億円の県税収入を見込んでいたが、実際には六千二百億円だった。このため、後期五カ年で見通しを見直すことになった。
加えて、〇四年度から地方交付税の削減が始まり、交付税収入が増えるという前提も崩壊。収支不足は一兆三千五百億円にまで拡大した。
一年ごとに行革内容を見直した結果、県は〇六年度までの七年間の行革で、当初計画を千五百億円上回る六千七百九十億円の効果額を上げたと説明している。しかし、税収の落ち込みと交付税削減による歳入の見込み違いは、それを二千億円上回ったことになる。
また、財源対策の県債管理基金の活用は、〇七年度予算での累積が三千四百二十四億円に達した。計画的な基金活用だったが、「ためずに使った」ため、将来の負担として残ることになった。
この結果、今回の行革素案で示された収支不足額は、今後十一年間で一兆一千二百十億円という巨額に上った。しかも、経済成長率は年2・4%以上を見込んでいる。
「聖域なき削減」で補助金や人件費などを切り込んでも、三千二百九十億円を財源対策で生み出さねばならない。そのためには新たに起債(借金)したり、基金を取り崩したりすることになる。県は「震災で背負った重い負担を、将来の世代にお願いできるぎりぎりの額」と説明する。だが、一八年度以降、県民一人一人に負担がのしかかることになる。
■塩漬け用地の買い戻しに1660億円
県が二〇〇四年三月以降、県土地開発公社と県住宅供給公社から買い戻した土地が、千七百八十ヘクタールあり、金額にして千六百六十億円になることが二十二日、明らかになった。いずれも一九九〇年代前半に、県の事業構想やゴルフ場などの開発抑制のために公社が先行取得。公社がそのまま保有し、利用されずに五年以上放置された“塩漬け”用地となっていた。バブルの負の遺産が県財政を圧迫している。
公社による先行取得は、道路や公園、工業・住宅団地などを整備する自治体の事業に備え、自治体に代わって土地を買収する。地価の上昇で土地の確保が難しかった七〇年代から活用されてきた。県内は当時、全国有数の「ゴルフ場銀座」と呼ばれ、リゾート開発や宅地造成が盛ん。県は「先行取得は民間の乱開発を防ぐ意味があった」としている。
しかし、バブル崩壊による景気低迷で、事業化にめどが立たない土地が続出。県公社は九九年を境に先行取得を原則的にやめたが、県土地開発公社は「全国有数の塩漬け用地保有公社」(県幹部)となった。
塩漬け用地が全国的に問題となる中、県は公社の金利負担を肩代わりするため、金利の低い県債を利用し、二〇〇三年度から積極的に買い戻しを進めた。
それでも県土地開発公社は現在、先行取得した塩漬け用地を計九百八十三ヘクタール保有。簿価で四百二十億円になる。県が買い戻した用地と合わせると二千七百六十四ヘクタール、簿価で二千八十九億円分が活用されぬままとなっている。
今回の行革プラン素案に、こうした塩漬け用地の処分は取り上げられていない。実際の価格は簿価をかなり下回るといい、県は「売れる見込みが立たない」としている。
公社の塩漬け用地は、現在の財政指標「実質公債費比率」の対象外。しかし、来年度決算から導入される新指標「将来負担比率」では、県の将来負担として組み入れられる。
宝塚新都市構想として先行取得されたJR武田尾駅付近の山林=宝塚市
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