憲法を停止したパキスタンのムシャラフ大統領だが、「テロとの戦争」で協力していたアメリカ・イギリス等からの批判をあびて、強行トーンを落としている。
とはいえ、ブッシュ大統領は何とかしてムシャラフ氏との協力を維持したいというのが本音のようである。
ムシャラフ大統領だが、もちろん軍服を脱ぎさえすれば「強権」政治でなくなるというわけではない。
また、アメリカの「テロとの戦争」に協力することに対する、イスラム教徒国民の批判もそれで消えるわけではない。
内政の混乱は、この外交姿勢に深く結びついている。
軍トップ辞任を強調 批判回避狙うムシャラフ氏(中日新聞、11月6日)
【イスラマバード6日共同】パキスタン国営テレビによると、ムシャラフ大統領は5日、非常事態宣言下で新たに選任された最高裁判事により自身の大統領選立候補資格の審理が再開され再選が認められれば、兼任する事実上の軍トップ、陸軍参謀長を辞任する意向を強調した。外国大使らの前で語った。
大統領は既に参謀長辞任の意思を明らかにしているが、非常事態を宣言し憲法を停止したことについて、政権を支持してきた米英両国が支援見直しに言及するなど国際的な圧力が強まっている。条件付きながら軍服を脱いで文民大統領となる考えをアピールすることで批判をかわす狙いがあるとみられる。辞任の時期には触れなかった。
大統領は「政府への信頼は回復すると確信できる。パキスタンはこれまでたどってきた(民主化への)道を再び歩み始める」と述べた。
ブッシュ氏、ムシャラフ大統領に自制求める(朝日新聞、11月6日)
ブッシュ米大統領は5日、事実上の戒厳令を敷いたパキスタンのムシャラフ大統領に、ライス国務長官を通じて早期の総選挙実施とムシャラフ氏の軍籍離脱を求めたことを明らかにした。エルドアン・トルコ首相と会談後、記者団に語った。ホワイトハウス高官は「数日内にパキスタン政府が態度を表明するよう期待する」とし、動向を注視する考えを示した。
AFP通信によると、ライス氏はブッシュ氏の指示で同日、中東からワシントンへの帰途にムシャラフ氏に電話し、戒厳令を解くよう求めた。
高官によると、米政府は先週初め、パキスタン政府が最高裁判所との確執で何らかの非常措置を取るとの動きを察知。説得を試みたが食い止めることができなかったという。ブッシュ氏も「非常措置は民主主義に逆行することになる」との懸念を事前にパキスタン側に伝えていたと述べた。
野党支持者の拘束など独裁色を強めるムシャラフ氏に、米政府の懸念は深まるばかりだ。ペリーノ大統領報道官は5日の会見で「総選挙を1月に予定通り行うよう求め続ける。報道の自由を復活させ、拘束した人々を釈放すべきだ」と求めた。
米政府は01年の同時多発テロ以降、対テロ戦争でパキスタンとの協力を強化、96億ドル(約1兆円)の支援をしてきた。ライス長官は支援見直しに言及しており、今後数日間パキスタン側の動きを見ながら、見直し作業も加速させる方針だ。
ただ、ブッシュ氏は「ムシャラフ氏は過激派と戦う力強い戦士だ。協力を続けたい」と表明。ホワイトハウス高官も「パキスタンと協力して軌道に戻せないか、というのが大統領の指示だ」と述べ、協調を模索し続ける考えを示した。
ブッシュ政権にも責任 パキスタンの事態で米紙(しんぶん赤旗、11月6日)
【ワシントン=鎌塚由美】パキスタンのムシャラフ大統領が三日、憲法を停止する非常事態宣言を出したことで、同政権を対テロ戦争に協力させてきたブッシュ米政権は厳しい事態に陥っています。
ニューヨーク・タイムズ紙四日付は、パキスタン情勢の分析記事を掲載し、ブッシュ政権には「限られた選択肢」しかなく、「今後の見通しのない」状態だと指摘。今回のムシャラフ大統領の動きは、ブッシュ政権にとっては「悪夢の寸前」であるとも述べています。
ブッシュ政権は、無血クーデターで政権についたムシャラフ大統領に対し、9・11同時テロ(二〇〇一年)直後に制裁を解除し、総額百億ドルにのぼる軍事援助をしてきました。ブッシュ政権にとっては、「対テロ戦争」の重要なパートナーという位置づけです。
それだけに、パキスタンが強権的な方向に逆戻りするのは痛手です。ライス国務長官は三日の記者会見で、ムシャラフ氏が非常事態を宣言する前に何度も接触して今回のような事態を回避するよう試みたことを明らかにしています。
ワシントン・ポスト紙四日付は社説で、「核兵器保有と過激主義者の増幅が最悪の悪夢のシナリオとなりうるパキスタンに、簡単な答えはない」と述べるとともに、「もしブッシュ氏が、ムシャラフ氏の言葉に耳を傾けていたなら、非常事態宣言は回避できたかもしれない」とブッシュ政権の責任を問いました。
米紙はまた、ブッシュ政権がムシャラフ政権に厳しい非難をしていないと指摘。ライス長官が「非常に遺憾だ」と述べたものの、国務省のマコーマック報道官は「深く困惑している」との控え目な表現に訂正していると紹介(ニューヨーク・タイムズ紙)しました。
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