サブプライムローン問題に端を発する世界同時株安では、高い成長率に期待がかけられた有力新興国の方が下落率が大きかったらしい。
とはいえ、その実物経済への影響は軽微であり、むしろ有力新興国の需要がアメリカの景気後退を補う役割を果たしている。
株価はカップリング、実物経済はデカップリングということか。
あわせて現状は、「世界の胃袋」が、もはやアメリカだけではないことの証明にもなりつつある。
株下落率 新興国大きく 世界株安の1月 中国、インド深刻(読売新聞、2月4日)
世界同時株安に見舞われた1月の株式相場の下落率が、先進国よりも新興国で大きかったことが、米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)の調査で分かった。新興国では2007年に株価が大きく上昇していたため、その反動もあって世界同時株安の影響を大きく受けたとみられる。
世界の主要な52か国・地域の株価指数について、前月末と比べた1月末の上昇・下落率をみると、中国が21・41%下落と、51位(ワースト2位)だった。07年の年間では中国は66・91%も株価が上がっていた。
また、インドも1月に16・01%下がり、47位(ワースト6位)と低迷した。インドは07年1年間では全体で3位(78・98%上昇)の高成長を遂げていた。
1月の下落率が最も大きかったのはトルコの22・70%だった。
一方、1月の日本は4・48%下落で上から11番目。07年1年間の51位から順位の上では持ち直した形だ。株安の震源地ともなった米国は6・16%の下落で、14位だった。また、1月に株価が上昇したのはモロッコ(10・17%上昇)、ヨルダン(3・11%上昇)の2か国しかなかった。
調査は、S&Pが時価総額1億ドル以上の銘柄の株価をすべて反映した独自の指数を国別に出し、相場を比較した。
中国やインドなど新興国の株式で運用する投資信託の運用成績が、世界の株式市場の低迷を受けて大幅に下落している。昨年までは米経済が落ち込んでも新興国は大丈夫という非連動性論が支配的だったが、今年に入ってそれが崩れ、欧米市場が下げ止まるなかで新興国市場の落ち込みが続いている。投信情報提供会社モーニングスターによると、日本で購入できる約100本の新興国株投信の基準価格は年初から先月25日の時点でいずれも10%以上下落。特に中国企業の株式に絞った投信で下落率が高くなっている。
新興国の株価は、昨年1年間で大幅に上昇。関連投信も昨年は軒並み数10%超上昇していた。
それが下落に転じたのは、米国の低所得者向け高金利型住宅ローン(サブプライムローン)問題で相場が下げに転じたことを受け、今年に入って利益確定売りが膨らんだためとされるが、大雪や冷凍食品の薬物中毒問題などが加わり、中国株を組み込んだ投資信託の落ち込みが目立っている。
下落率が最も高かったのはDIAMアセットマネジメントが運用する「中国関連株オープン」で、下落率は26・24%に達した。同投信は投資対象株式の9割以上が中国企業。サブプライム問題の広がりを受け、中国市場でも上海、香港の株価指数が年初から1割程度下落した影響を直接受けた格好だ。
このほか下落率上位10本のすべてが中国企業株を中心に運用する投信で、いずれも下落幅は20%以上だった。
逆に下落率が最も低かったのはみずほ投信投資顧問が運用する「MHAMアジアオープン」で11・3%。中国企業に加え、オーストラリアなどアジア・オセアニア諸国の企業株に投資を分散したことが下落幅拡大を防いだ。
北京五輪に向けて景気を高揚させたい中国だが、今年に入って大雪が経済に大きな影響を与え、さらに食品安全問題の展開次第では、株価に対するマイナス材料が増えかねない状況。
専門家は、「新興国の経済は好調を維持しており、株価の下落要因は限定的」(モーニングスターの吉田絵美子アナリスト)と静観する構えを崩していないが、投資家にとっては神経質な展開が続きそうだ。
新興国需要が引き続き企業収益をサポート、デカップリング論裏付けに(ロイター、1月29日)
水野 文也記者
[東京 29日 ロイター] 中国をはじめとする新興国の需要拡大が、引き続き輸出型企業の収益をサポートする要因になっている。米サブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅融資)問題が世界全体に波及、つれて新興国経済の減速で企業業績の急速な悪化が懸念されたものの、現時点ではそれを理由に悪化する様子はない。新興国需要が企業業績に寄与している状況は、デカップリング論の裏付けになりそうだ。
中間期決算まで輸出産業では、新興国向けの業績拡大が北米向けの落ち込みをカバーする構図となる企業が多かった。それがサブプライム問題が一段と深刻化し、世界経済全体に影響が及ぶとの懸念が日増しに高まる中で、新興国の需要低下が懸念され、つれて企業業績に下方修正リスクが広がっている。株価の下支え材料になっていた北米景気と新興国景気は連動しない、あるいは連動しても影響が軽微──というデカップリング論に否定的な見解が増えてきていた。
<目立つ中国・ロシア・中東の需要>
ところが、2008年3月期9カ月決算(4─12月)発表の滑り出しをみる限り、そうした懸念を後退させるような状況となっている。たとえば日立建機(6305.T: 株価, ニュース, レポート)の9カ月間の地域別累計は、中国が75%増の798億円、オーストラリア・アジアが30%増の1181億円、ロシア・CIS・中東・アフリカが31%増の785億円といずれも高い伸びを記録。同社の桑原信彦専務は「北米以外ではサブプライムの影響はみられない。(38%減少した)アメリカを除いて需要は非常に好調で、アメリカの減少を補って余りある」と話す。
また、9カ月間の累計連結営業利益が1459億2700万円(17.2%増)と創業来最高となったファナック(6954.T: 株価, ニュース, レポート)でも「中国は過去の経緯から、1─3月に旧正月の影響を受けて落ちるとみられるが、現時点では高い水準が続いている」(同社の小島秀男専務)としている。同社では、他の新興国地域について、インドが拡大する一方、先行きはロシアの伸びが期待できるという。
<荷動きのバロメーター・バルチック指数の落ち込み、業界は一過性との見方>
今後の見通しについて、新興国の需要のうち、とりわけ中国について強気の見通しを示す企業の関係者が多い。
新興国向けの荷動きについて、好不調を計るバロメーターにもなる海運市況は、ばら積み船運賃の総合指数のバルチック海運指数が、昨年後半の最高値から直近は半値近辺まで急落。これがデカップリング論の否定的な見方につながる要因の1つになった。
しかし、28日に決算を発表して通期見通しを上方修正した日本郵船(9101.T: 株価, ニュース, レポート)の五十嵐誠常務は、最近の市況急落について「自然災害による港湾設備の被害や鉱山会社再編の思惑などから市況が不安定になりやすい状態。異常値と言える昨年高値の反動もある」とした上で「下落は季節調整の一部で、いずれ市況は反騰に向かう」との見方を示した。
今後について五十嵐常務は「中国の資源需要は変わっておらず、ファンダメンタルズから大きく(市況の)トレンドが変化するとは考えにくい」と指摘していた。
<日立建機の通期見通し据え置き、部品納入の遅れが影響>
また、日立建機の桑原専務は中国向けの今後に関し「北京五輪後は、2010年の上海万博をにらみ、華南地域も相対的に伸びそうで、全域で拡大が見込める」とした上で「中国のインフラ整備は公共投資で行われるため(民需と異なり)サブプライム問題の影響は受けない。それはロシアも同じと言えそうだ」と指摘する。
同社株は、決算発表直前の25日終値3040円から、28日の安値2410円(終値は2490円)まで率にして20.7%下落した。通期の予想について据え置いたことが嫌気されたが、据え置きの背景には「シリンダーなど部品の納入に遅れが目立ち、生産が順調に進まなかった」(桑原専務)と機会ロスをあげるなど、実態が悪化したためではない。
市場では「好決算を先回りして前週末にかけて急騰した反動もあるが、好調を持続する内容から、明らかに売られ過ぎ」(準大手証券情報担当者)との声も出ていた。(ロイター日本語ニュース 編集 田巻 一彦)
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