以下は、クレスコ編集委員会・全日本教職員組合『クレスコ』2010年10月号、第10巻第10号通巻115号、2010年10月1日発行、35~36ページに掲載されたものです。
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本との対話-若者を信じ、はたらきかける
若い世代をどう励まし、彼らにどうはたらきかけていくかという指針をもつことは、私にとっても大変に重要な課題です。
いきなりの手前味噌で申し訳ありませんが、『「慰安婦」と心はひとつ 女子大生はたたかう』は、そんな問題意識にもって、私のゼミのとりくみを、学生の成長に焦点を当ててまとめてみたものです。
「関西では知らない人のいない(?)『お嬢様大学』の学生たちが、『慰安婦』問題というハードなテーマについて学び、韓国に渡って被害者と会い、そしてごく短期間のうちに、問題解決に向けた行動に足を踏み出すようになる」。その変化の過程の検討です。
座談会「私たちはなぜ行動するのか? そのきっかけは何か?」で、彼女たちは語ります。
「ゼミで『慰安婦』問題を知ったとき、今まで『慰安婦』という言葉さえ知らなかった自分が恥ずかしくなった」「人前でこのことを語るのは・・・自分がこのままであってはならないという気持ちがあるから」「(若者が)社会のことをなかなか考えないのは、実感がないから・・・平和の問題も実感のもてるようなイベントをやっていけば、若い人も入りやすい」「政治に興味を持たないのは意見を求められていないから」「大人は押しつけないでほしい・・。教えてくれるのはいいけど、結論をだすのは私たちだから」。
彼女たちは、多ければ年に30回以上の講演(や発言)をおこない、毎年のように本をつくっています。その原動力は「『変えたい』という思いより、『変わると思いたい』という気持ち」でした。
教え込みではだめだという、私なりの教育実践の書としてもご検討ください。
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次は、中高生へのはたらきかけです。これについては、ごぞんじノーベル物理学賞の益川さんによる、その名も『「フラフラ」のすすめ』がおもしろいです。
「15才の寺子屋」シリーズの1冊ですが、自身の少年時代をふりかえりながら、現代の若者に、生き方に迷い、何かを探し、そのために大いにフラフラすることの大切さを説いています。
小学校時代には宿題をせず、中学では英語を放り出し、授業は内職の時間だとして読書にひたり、それでいて先生がミスすると「いちゃもん」をつけていく。
そんな自身の生き方を、益川さんは「よりおもしろいものを求めていたわけですね」と、なんの躊躇もなしに肯定します。若い時期には、そういう自由が必要だというわけです。
「みなさんの年代は、自分がいったい何に向いているのかわからない、自分の中に眠っている個性というものに気づきづらい」。だからいろんなジャンルの本を読むことが大切だ。いまは「三十年先を見通せるだけの視野の広さと、多様に変化していく社会に対応できる基礎的な知識を身につけること」が必要だとも。
益川流のフラフラは、新しい知識を吸収しながら、自分の道を模索する、建設的な作業であるわけです。
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3冊目は、再び手前味噌にもどります。『若者よ マルクスを読もう』です。
フランスの哲学者レヴィナスを師と仰ぐ現代思想家・内田樹氏とマルクス主義者である私が、若きマルクスを往復書簡で論じたものです。
意見の違いはありますが、それを語り合う方法は面白がりの交換です。「ここがおもしろいよね」「ふんふん」「ここも」「えっ、そこ?」といったやりとりです。
楽しいのは、30代までの若い読者からの反応です。「マルクスが新鮮」「こんなことをいうのか」「もっと噛みこみたい」など。
ここにも伝える方法の工夫があります。内田先生――同じ職場の先輩なので、やはりこういう呼び方になってしまいます――はこういいます。
「大の大人たちが汗だくになって初心者に説明しようと躍起になっているさまを見た若い人たちが『そこまでしても「わかってほしい」くらいにマルクスはこのおじさんたちにとって魅力的であり、そこまでしても「わからせられない」くらいに深遠な思想家なのか』と思ってくれれば、ぼくはそれで満足しようと思っています」。
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最後に、むかし話を少しだけ。私が京都の立命館大学に入学したのは、1975年のことでした。立命館を選んだのは、当時はとても学費が安かったから(そして、国立大学を受験しなかったのは、受かりそうになかったからですが)。
入学後、私学助成の拡充を求める国会請願をきっかけに自治会活動に加わって、あとは怒濤の「青春」となりました。
あの頃は、真下信一、高田求、島田豊といった哲学者たちが、さかんに若者に向かって、生き方を問う文章を書いていました。学者だけではなく、政治運動の理論家にも、そのような書き物はたくさんあったように思います。それは大きな励ましでした。
現代の若者にどう接するかを考えるには、貧困や家庭の崩壊、就職難といった社会環境の悪化とともに、そうした困難を乗り越えてすすむ力が形成されるメカニズムへの注目が必要でしょう。
教師というのは、他の誰よりもその領域で力を発揮すべき職業ですからね。
*『「慰安婦」と心はひとつ 女子大生はたたかう』(神戸女学院大学石川康宏ゼミナール編著、かもがわ出版、2007年6月、税別1000円)
*『フラフラのすすめ』(益川敏英著、講談社、2009年7月、税別1000円)
*『若者よ マルクスを読もう 20代の模索と情熱』(内田 樹・石川康宏著、かもがわ出版、2010年6月、税別1500円)
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