1)テキストの「読み進め方」について。まずは奥付で著者の専門・経歴・過去の研究の積み重ねなどを確認する。次に目次で本のあらかたの構成をつかむ。本書であれば「構造改革」と「ジェンダー論」が大きなテーマ。さらに「はじめに」「おわりに」などで,そのテーマに対する著者の姿勢あるいは結論を先取りして大きくつかむ。本を選ぶ際,あるいは読む場合には,どの本の場合にも,ただがむしゃらに「本文」を読むのではなく,このように「本文」以外の部分で,先に概要をつかむことが合理的。
2)第1章「『ゼネコン国家化』『多国籍企業化』の財界戦略」に入る。最初に「財界」とは何かについて。大企業経営者たちの組織のことだが,具体的には「日本経済団体連合会」 ,「経済同友会」,「日本商工会議所」が主要団体。日本経団連は1600をこえる企業・業界団体などの代表から構成され,会長はトヨタ自動車の奥田碩会長がつとめている(5月に交代の予定)。具体的な取り組みとしては,①組織内部の合意を形成して各種政策を練り上げること,②それを「意見書」として政府にとどけ,また主要政党への企業・団体献金の斡旋を行い,政策の実現を迫ること等である。「財界総本山」ともいわれ,日本の財界団体の文字通りの中心部隊。
3)経済同友会は個人加盟の組織で,当面財界全体の合意とならないものであっても,中長期的な経済活動の展望のもとに研究・調査を行い,それにもとづく政府への「提言」活動を行っている。代表幹事は日本IBMの北城恪太郎氏。3月29日の文書「東アジア共同体実現に向けての提言」は,靖国への公的参拝を求める注文にとどまらず,近代史のとらえかえしそのものを政府に求めた点で注目される。靖国問題での日本政府への批判は,中国・韓国だけでなくヨーロッパ,アメリカにも広がっている。その中で日本企業が,成長する東アジア経済から利益を得るには,そこまで踏み込んで東アジアとの関係回復をはかる必要があるとの認識である。
4)06年9月には小泉氏の首相としての任期が切れ,「ポスト小泉」が決定されることになるが,東アジアとの関係に関する財界の姿勢は,政治に対してすでに大きな影響をあたえている。財界内部では中国等との関係改善を主張する福田康夫氏への支持が強いといわれる。他方,当初,このような財界の姿勢に「日本の伝統を金で売るのか」と強気な態度を見せた安倍晋三氏も,明らかに発言をトーンダウンさせている。政治権力の所在とその方針は比較的見やすいものだが,経済権力の様子はそうではない。しかし,彼らの意向の確認は,日本の政治経済を理解するうえで欠くことのできない作業である。
5)日本商工会議所は,いわゆる「地方財界」を組織し,その経済活動を励ますとともに,中央財界の各種意向にそって彼らを日常的に束ねることを目的としている。会頭は山口信夫氏(旭化成会長)。
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