1)「キャリアを考える」上での大前提は,自分の人生を自分で設計していく姿勢をもつこと。中高までと異なり,大学は学生がそれぞれに自分の人生を模索する場。同じことをするのでなく,違うことをするのが当然の時期となる。①30才,40才の自分を見とおしていきる姿勢をもつ,②計画的に異なるアルバイトを体験していくなど,必要な実体験の工夫をする,③すでに30才,40才を体験した大人たちに人生をたずねる,④自分が出て行かねばならない社会について知っておく,などの努力が必要となる。
2)「新聞から読み解く日本経済」のテーマにかかわり,まず新聞を読むということについて。①自分の知見を広げるための新聞は総合的でなければならず,日経新聞などのような専門的な新聞はその課題にとって適切でない。社会・文化・経済・政治・国際などがページごとに区切られた,ごく普通の一般紙で良い。②ネットでの新聞読みは,掲載記事が限られている,記事を読む側の関心にそって検索することになるなど,やはり読むものの幅をせばめるものとなる。自分にとって未知の領域に日常的に目を向ける機会をもつためには「紙」の新聞が適当。
3)配布資料にもとづき「新聞から読み解く日本経済」を解説していく。テーマは,大きく「構造改革」とはどういうものか,その推進主体である財界とはどういうものかにしぼりこむ。小泉内閣発足時の01年から05年にかけて非正規雇用は273万人増・正規雇用は229万人減,雇用者報酬は全体で10兆円の減,貯蓄率ゼロ世帯は全世帯の2割をこえ,1時間に1人が経済苦で自殺している。こうした「構造改革」の成果を高く評価しているのが財界団体(大企業経営者組織,日本経団連,経済同友会,日本商工会議所に代表される)。資本金10億円以上の企業は同じ時期に経常利益を1.9倍に拡大しており,ここにこそ「格差社会」の核心がある。
4)98年,小渕首相の諮問機関であった「経済戦略会議」が,小泉「構造改革」に直結する報告文書を出している。これを受けて,01年の自民党総裁選で小泉候補が「構造改革の断行」をかかげるが,経済同友会は「その実現に政治的リーダーシップを発揮する候補者を強く支持したい」とただちに表明,当選後の首相所信表明演説を経団連会長が「これまで経団連が要望してきた通り」と評価する。小泉内閣の成立は要するに,すでに財界が立案していた「構造改革」路線を,財界の思惑どおりに実行する政権の獲得だった。「経済戦略会議」は10名の委員のうち6名が財界人で,奥田碩現日本経団連会長もふくまれていた。また小泉内閣で経済「構造改革」の中心となる竹中平蔵氏もふくまれていた。同報告書が示した政策は,法人税減税,銀行への公的資金投入,国家公務員20%削減,郵便貯金の見直し,雇用の流動化促進,市町村合併推進,医療・社会保障制度「改革」などで,小泉内閣のもとでこの多くが実行されていく。
5)「経済戦略会議」の様子を記録した竹中氏の『経世済民』は,その報告を「むしろ自由党の考え方に近い」とする。当時の政権は自民党と自由党の連立で,自由党の党首は小沢一郎氏であった。小沢氏は,03年に「奥田ビジョン」が「構造改革」の教科書とした,93年の「平岩レポート」(経済改革研究会報告)を生みだす細川内閣成立の立役者でもあった。細川内閣の中心に立った当時の新生党の党首がやはり小沢氏である。06年4月民主党党首となった小沢氏は,さっそく財界3団体をまわっている。財界が小沢民主党に「自民党に拮抗する勢力ができれば,政治にとっても非常にいいことだ」(奥田氏)と安心した高い評価を与えるのは,小沢氏のリーダーシップが「構造改革」路線にそって発揮されることをすでに見越しているからである。
6)「日本経済」には毎日様々な出来事が起こるが,多くは,この「構造改革」路線とそれを推進する財界や,それを実行する政治家たちの利害にそって整理しうる。今日の日本経済の骨太い動きをつかまえてほしい。次回,このつづきから。
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