1)第3章「労働市場の変遷とそのインパクト」を読んでいく(63~73ページ)。労働市場とは,労働力の売買をめぐる需要者(経営者)と供給者(労働者)との社会的な関係のこと。そこでは,失業率,賃金水準,雇用の形態などが,景気の状況や両者の力関係に応じて定まっていく。
2)戦後アメリカの安定的な経済成長期には「資本と労働の暗黙の合意」や「ケインズ連合」が成立した。高い企業利益に応じた相対的に高い賃金があり,それが国内消費を安定させ,経済成長に不可欠な生産と消費のバランスを生んだ。相対的な高賃金の背後には,1935年全国労働関係法(ワグナー法)を出発点とする団結権・団体交渉権・争議権を活用した労働組合の活動があった。AFL-CIO結成時の55年で組合組織率は35%。また同組合は産業別組合であり,それが同一業種の労働者全体の労働条件の底上げを可能にした。同様に35年の社会保障法を出発点に,70年代はじめまで,医療療保険,公的扶助など,不十分ではあっても社会保障制度の拡充も行なわれた。
3)しかし日本や西ドイツなどの成長による国際競争力の相対的低下と,70年代前半での世界的な高度成長の終焉を背景に,労働条件や社会保障水準に対する「高すぎる」との批判が強まる。これに対応した政府の政策転換を行なわれ,それは81年からのレーガン政権による「小さな政府」「規制緩和」「サプライサイド・エコノミクス」「強いアメリカ」戦略にあらわれた。労働組合への攻撃も強まり,80年代には実質賃金の低下,雇用保障の低下,社会保障給付の削減などが起こる。80年代前半には組合組織率も20%を下回るようになった。
4)しかし,93年からのクリントン政権は,①生産性上昇の停滞,②国際競争力低下,③双子の赤字,④実質賃金低下,⑤高い失業率などの困難をかかえたが,それにもかかわらず,91年3月から01年2月までの大型景気を体験する。賃金や社会保障水準の低下による国内消費の萎縮を,IT投資に加えて,同時期のバブル(特に年金基金)が支えた点については,これまでに(第1・2章)で学んだとおり。好景気の中で,労働市場では,①産業構造における賃金の低いサービス部門比重の高まり(80%以上),②正規雇用比率・組合組織率の低下が進み,総じて労働条件は悪化する。今日,正規・非正規の割合は正規雇用7割に対して,各種の非正規雇用3割と推計されている。以下,次回。(労働三権やストライキなど今日の日本社会を念頭した解説に時間をとりすぎ,予定どおり進まず。)
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