1)2冊目のテキスト『ジェンダーの視点からみる日韓近現代史』(2005年,梨の木舎)に入る。編集は「日韓『女性』協同歴史教材編纂委員会」。両国の多くの女性執筆者の氏名がならぶ。
2)第1章「日本帝国主義の拡張と『韓国併合』(韓国強占)」。成立したばかりの明治政府内部における「征韓」派と「民権」派との対立,天皇制の強権的国家建設路線の勝利について(12ページ)。福沢諭吉の「脱亜入欧」論がはたしたアジア蔑視の風潮づくり(13ページ)。アイヌの「内国植民地」化である北海道「開拓」に付随して政府が公費で遊廓を建設したこと,薄野遊廓など(14ページ)。妻とならび「妾」をも二親等に規定しようとした明治の法体系における女性の無権利(28ページ)。自由民権運動の限界を乗り越えようとした女性たちの活動と,「愛国者」として対外侵略を否定できなかった限界(36ページ)。幸徳秋水など初期社会主義と男女平等を求める女性の運動との深いかかわりと,社会主義運動にもみられた男性中心主義(39ページ)などが議論の大きな話題となる。
3)他方で,明治政府の指導者たちが自らを権威づけるために活用したものが,なぜ多くの国民に名も知られない天皇だったのか(15ページ),あわせて指導者が天皇を活用する(14ページ)という関係がなぜその後逆転していくのかについては,今後の検討課題として残る。
4)第2章「3・1独立運動と社会運動の展開」。植民地化の深まりの中で,女性をふくむ日本への留学生が少なからずそれを身分上昇のためと位置付けた両関係の複雑さ(48ページ)。「母性保護」をめぐる初期の議論(56ページ)と,戦後の労働基準法の役割そこから「女子保護」があらためて削除されていくことの意味。関東大震災における朝鮮人・中国人・天皇制反対の日本人等への軍・官憲も主体となった大量虐殺(66ページ)。ひきつづく男女平等を求める運動と社会主義運動との深い結びつき(72ページ)。水平社の発足(85ページ)と今日の「部落差別」の実態,同和行政の問題,差別意識の残存などが大きな話題となる。
5)全体として朝鮮(大韓帝国)の歴史については,知識とイメージが及ばす,まだ議論になりにくい。知識の積み重ねが必要。他方,次回の「慰安婦」問題から逆に過去の歴史をふりかえることもできるものと思う。なお歴史が一足飛びにではなく,一歩一歩積み重ねられるものであること,今日がその積み重ねの上にあり,また今日が未来への準備ともなることを実感することも大切に思う。今日から過去を批判するだけでなく,諸論者や取り組みをその時代の中に果たした役割という角度から評価する視点も大切。
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