1)テキスト第7章「アメリカにおける所得格差の長期的変化」を読む。長期的な所得格差の推移をジニ係数の変化で見る。ジニはイタリアの統計学者。ジニ係数は所得や資産の分配の不平等をはかる1つの尺度。0~1の数値で表され,0は完全な格差のない社会を,1は限りなく0に近い少数者による所得・資産独占の社会を表現する。現実には係数は両者のあいだのどこかに落ち着く。
2)第1期(1913~31年)のジニ係数は高い水準で大幅な変動を示す。特に1929年の「大恐慌」以後には急速な格差の拡大がある。自由競争主義のもとでの深刻な恐慌であるから当然の事態ともいえる。しかし第2期(1931~43年)には,劇的な格差の縮小が進行する。「大不況」以後のケインズ政策の展開(大型公共事業と完全雇用政策)による一定の「福祉国家」の形成と,その後の第二次大戦中の経済の軍事化による好景気が背景となる。
3)第3期(1943~68年)も,第2期に低下した比較的低位の格差水準が安定的に維持される。そこには,強い国際競争力にもとづく高度成長という条件があり,またその活況の成果を労働者にも安定して分配させる労使関係の形成があった。これが第4期(1968~2001年)には逆転し,再び格差の拡大を示すようになる。要因として予想されるのは,第一に高度成長の終焉,第二に国際競争力(日独による追いつき)の低下だが,それだけでは自動的な格差拡大にはつながらない。格差の拡大には伸びの小さくなったパイの分配の比率の変化が必要となる。そこで戦後の安定した労使関係の解体が重要な役割を果たすことになる。
4)とりわけ第4期の大きな変化は80年代半ば以降に生まれてくる。そこにはおそらくレーガノミクス,すなわち「小さな政府」の名目での社会保障の解体と規制緩和の政策が大きな役割を果たしている。この時期以降の格差拡大は主に5%とも0.5%とともいいうる上位所得者の所得急増によってつくられる。それはアメリカの証券資本主義化にも対応した時期のことである。労働力人口の約80%を占める労働者は,すでに見たように90年代以降の「不安定雇用層」増加による賃金抑制の中で,バブル経済に依存して消費能力の維持を果たしていた。しかし,それが2001年には完全に終了しており,その結果,以後の格差はますます広まっていると思われる。
4)終了後,学生による授業評価アンケートを実施。
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