1)テキスト第10章「グローバリゼーションとパックス・アメリカーナの再編」を読み,前期の授業を終える。90年代以降のグローバリゼーションといわれる世界経済の構造変化は,国内の新自由主義的政策に対応したアメリカの対外経済政策に深く規定されている。その基本は,アメリカ多国籍企業の自由な経済活動を保障する諸条件の形成と,アメリカに冨を集中するのに必要な国際分業関係の形成。①知的所有権の保護,②積極的な輸出拡大政策,③金融市場のグローバル化,④軍事技術の民生への開放などが具体来な内容となる。
2)アメリカ主導のグローバリゼーションはIMFやWTOなどの国際機関によっても追求された。WTO(世界貿易機関)は貿易や投資の自由化を推進する組織。途上国に対しては保護貿易政策の撤廃を求め,日本のコメ輸入自由化のように先進国に対しても貿易の自由化を求める。弱肉強食の世界市場版であるこの政策には,途上国側から強い抵抗があり,現実にはWTOの中心機関である閣僚会議の円滑な開催ができない状況となっている。IMF(国際通貨基金)は元来国際的な「流動性」の保障を目的とした関だが,80年代の累積債務危機をきっかけに,危機国への新規融資と引き換えに「構造調整」を求める各国経済政策(構造)への介入機関ともなっていく。それは債務の返済を確保すると同時に,アメリカ多国籍企業の活動の自由を拡大していくものとなる。
3)今日,アメリカの中国政策が大きな転換を見せている。2002年のブッシュ・ドクトリンは中国を「軍事的競争者」の可能性と位置づけたが,今日では「責任ある利害共有者」への取り込みが課題となっている。この政策転換の背後にあるのは,①米中の経済関係の深まり,②軍事的対応一辺倒の行き詰まり,③2005年の中国による内陸部開発重視の経済政策などがある。アメリカは,日本に対して軍事拠点や経済介入の対象であるだけでなく,アメリカに都合のよい東アジアづくりのコーディネーターの役割を期待する。しかし,靖国問題により日中・日韓とも国交回復以後最悪といわれる関係。ここから「アメリカ一辺倒ではアメリカも困る」という発言が,アメリカ側から出てくることとなる。この夏の靖国参拝をめぐる攻防は,アジアと日本の関係だけでなく,中国との経済交流の発展を求める財界と靖国派との一定の対立,アメリカと靖国派との一定の対立を含んで展開されることとなる。
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