○前期最後の授業である。テキスト116~120ページを学ぶ。今日の不況からの脱却の方法が焦点。竹中氏は経済活力を支える「最も基本的な要因」を「企業の投資活動」に見るとする。そこからサプライサイド激励の経済政策が合理化される。だが企業の投資は最終消費に支えらてこそ,本当の活力としての意味をもつ。氏には生産的消費と個人的消費の明示的区別がなく,生産的消費(投資)の意欲が個人的消費(最終消費の6~7割をしめる)に支えることの重要性に対する目配りがない。賃上げによる消費拡大も,賃下げによる利益拡大が生む投資拡大も同じだとする議論にそれは象徴される。そこから結果されるのは,個人消費抑制の対極での企業利潤の拡大であり,社会全体としての需要と供給のバランスの一層の進行である。
○竹中氏はイギリスの「先進国病」を事例に「構造改革」の必要をとくが,サッチャー政権による福祉・労働政策の後退と大企業の活動の自由の拡大は,結果として「景気の二極化」を生み,ブレア政権による揺り戻しの「反動」を招いている。現代日本で流行の言葉でいえば,「格差社会」「下流社会の出現」「勝ち組・負け組社会の進行」に対する「反動」である。日本の現実を見ても,景気回復策としての「構造改革」の無力と,それにとどまらない景気破壊の実態はすでに明白。上位5000社ほどの大企業の内部留保は200兆円を超えて史上最高のレベルだが,その一方には「北九州市での餓死」に象徴される過酷な庶民生活の破壊がすすんでいる。北九州市は,当人による生活保護申請に用紙さえも渡していない。「福祉はたかり」という竹中政策によれば,それもまた「自己責任」ということになろうか。連帯の精神を失った原始的資本主義への礼賛である。
○今日の不況の根本原因は生産(供給)力と消費(需要)力とのギャップである。供給者激励の経済学は,減税や規制緩和によって一時的に大企業の利益を拡大することがあっても,社会全体としては両者のギャップを拡大し,不況の深刻化をさらにすすめるものとなる。戦後初のデフレもそうした中での現象である。状況の打開に必要ことは,その反対に消費力の向上によって両者のギャップを埋めること。竹中氏は生産的消費と個人的消費の区別を曖昧とするが,最終消費の最大勢力である個人的消費の激励こそが不況回復への本道である。その指針にそった内需拡大策としては,今日の可能な個人消費をさえ抑制する要因となっている,①老後不安,②リストラ不安,③増税不安の政策的な緩和が重要。これを実現する税財政については,法人税を妥当なレベルまで引き上げ,その一方でアメリカの3倍にもおよぶ好況事業,世界第二の軍事費を節減し,それによって①②③の財源を生み出す転換がいる。個人消費破壊の「構造改革」では,景気はつねに外需依存とならずにおれず,その景気はつねに格差社会の上位者のみの景気となる。
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