テキスト56~63ページを読む。専業主婦の歴史である。資本主義の経済メカニズムにおける専業主婦の社会的役割は,夫の労働力の生産と未来の労働者である子どもという労働力の再生産。
戦後の高度成長期における専業主婦の大衆化(大量化)には次の要因があった。①大企業男性労働者を中心とした賃金の一定の上昇,②若年定年制による女性労働者の企業社会からの排除,③「専業主婦のいる家庭」への労働者たちの一定のあこがれ(戦前の富裕層へのあこがれ,アメリカ型家族へのあこがれ)。
高度成長期前半の男女の賃金格差は100対40前後だが,その低賃金にもかかわらず女性は企業社会から排除される。理由は財界・大企業が男性企業を搾取の中心に据えたこと。女性はもっぱらその「銃後」を守る存在となる。ここに「過労死」をいとわない世界一の長時間労働と,先進国中最低の女性差別(企業からの排除)が共存するまれな社会が形成される。
大量の専業主婦が安定的に形成されるには,根本的には①夫が死なない,②夫が失業しない,③離婚しないという3つの条件が必要。欧米では戦間期に専業主婦の大衆化がすすむが,この3つの条件はこの時期に併存した。しかし大恐慌と戦争が条件を攪乱し,戦後にははっきりと離婚率の上昇が起こる。
1975年をピークに日本の女性労働力率は再上昇を開始する。理由は,①高度成長の終焉により夫の賃金上昇に歯止めがかかったこと,②それにもかかわらず住宅ローンなどの高度の消費生活が予定されていたこと,③塾・予備校をふくむ教育費の急騰があったこと,④専業主婦でいることへの「得体の知れない不安」を解消しようとするウーマン・リブの思想が入ってきたことなどである。
これを受けて80年代には,いわゆる「家族の絆の崩壊」がすすむ。①「過労死」が社会問題となる長時間過密労働の進行,②妻の労働による親の不在と幼い子どもの「孤食」,中高生の荒れなど,③家に居場所を失った高齢者の自殺率上昇,④「妻たちの思秋期」(熟年離婚)など。これは両親の就労と健全な家庭を両立させる社会基盤整備の欠如によるひずみ。
この点で一定の成功実績をつくりつつあるのが北欧(スウェーデン)。①労働時間は年1500時間(日本より700~800時間短い),②女性の労働力率は80~90%(日本は50%前後),③男女の賃金格差は100対90(日本は60代),④それでいて出生率は1.7~8(日本は1.25)となっている。それを可能としたのは,①労働条件と,②社会保障(介護と子育て)の整備であり,いずれも政治が深くかかわる問題となる。主権者の賢さがここでも問われる。
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